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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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88. 判決

 ルビーは混乱していた。


「ルビー・ナイジェル伯爵令嬢。民衆への無責任な発言によって王宮を混乱に貶めた責により貴族籍を剥奪し、修道院行きを命じる。また、王族が民の前で発する言葉は責任が伴うものである。時にその一言が民の命を奪い、有罪の者を無罪、無罪の者を有罪にすることも、民を混乱に貶めることもある。それを理解できぬ者を王家に入れるわけにはいかない。よって第三王子であるルカとの婚約を破棄とする」


 そう声を張り上げ告げるは法務大臣。この場にいるのは王と法務大臣、ルビーの祖父である宰相と父親であるナイジェル伯爵だ。


「承知致しました」


 孫のことなのに他人事な宰相。


「し……しょうち……いたしました…………」


 冷や汗をかきながらなんとか言葉を吐き出す伯爵。



 驚きのあまり声も出せぬルビーを尻目に、彼らはさっさと部屋を出ていく。


 パタンと閉じられる扉。


 

 えっ………………………?


 何が起こったの?


 話し合いは?


 部屋で待っていたら王様たちが入室してきた。その後法務大臣がいきなり声を発して、お祖父様とお父様がそれを承諾してーーーーー。


 修道院?


 婚約破棄?


 修道院に行ったらルカ様と結婚できない。


 いや、婚約破棄など有り得ない。


 ルカ様が承諾するはずない。


 だってルカ様は私を愛しているもの。


 私達は真実の愛で結ばれているもの。



 誰が私達を引き離そうとしているの?



 もうよくわからない。


 頭が回らない………………。





 ガチャリとノックもなく開く扉。


「ルカ様!!!」


 入室してきたのはルカだった。


「やあルビー。じゃなかったナイジェル伯爵令嬢。ああ長くて面倒だね。ルビー嬢で良いかな?」


 ルビーはルカに駆け寄ろうとするが、部屋の中にいた兵に妨げられ近づくことができない。


「ルカ様!これはどういうことなのでしょうか!?修道院?婚約破棄?嘘ですよね?話し合いは?私の話は聞いてもらえないのですか!?」


「ああ、話し合いは既に朝終わったよ。君がいても自分に都合の良いことばかり、言い訳ばかりだろう?時間の無駄だから君抜きでやったよ」


「なっ!?確かに少し王宮に迷惑はかけたかもしれませんが、ちゃんと《《私が》》皆を治しましたし、対処致しました。そのことを知っていただかないと!」


 吠えるルビーをじっと見つめるルカ。


「良かったね」


「えっ…………?」


「処刑にされなくて。家の取り潰しもないんだから。あり得ないほど優しい処罰だよね」


 何を言っているの!?


「何その不思議そうな顔。そもそも皆知ってるよ、君がイヤイヤ治療していたことも、手伝っている侍女を労るどころか八つ当たりしていたのも。王様の影からちゃあんと聞いているよ。そもそも無責任な発言で皆に迷惑かけて、反省の色が全く無い。王族になろうとする者がそんな態度で良いわけ無いだろ?」


「それは辛くて………」


「あははっ。王族は仮面を纏わないと務まらないよ。母上なんていつも分厚い仮面を装着してるだろう?っていうか君、皇太子様に正気ですかって言ったんだって?その一言だけでも不敬罪で処刑されてもおかしくないよ」


「あれは……皇太子さまが嫌がる私を民の前に連れて行こうとするから…………」


 自分は悪くない。


「………………ハハッ本当に君は愚かだね。それにアリス《《王子妃》》への度重なる無礼な態度、失言、彼女の夫へのちょっかい……まあこれは別にどうでも良いか。たかが伯爵令嬢の君があれだけアリス王子妃を蔑ろにするなんて、彼女が声を上げていたら今この世に君はいないよ」


 権力者である公爵の恥を晒しものにし皇太子妃問題を解決。辺境伯領に現れたドラゴンを退治し第二王子と金蔓……んんっ、その想い人を結んだアリス。


 その功績からアリスを侮るものは減っていた。彼女を怒らせないと決めた者、関わらないと決めた者、有効活用しようと企む者等様々な反応だったが。役に立つアリス、役に立たぬルビー、周りの者がどちらを取るかなど一目瞭然。


 国にとって大事なアリスに食って掛かる、国に不要なルビー。彼女を不敬罪で処刑又は王都から追放しようという声はずっと前から上がっていた。


 だがなされなかった。


 それはアリスが望まなかったから。


 彼女は笑っていた。


 とても愉しそうに。


 周囲の気遣う言葉に彼女は


『このままで良いのよ』


 としか言わなかった。


 皆不思議だったが、アリスがそういうのだから放っておいた。




 今回のルビーの処罰もアリスが望んだことだった。


 無責任な公言もそうだが、特に皇太子への不敬が問題になった。本人が騒いだわけではなかったが、彼女に付けられた王の影からの報告に多くの者が処刑という声を上げた。第三王子の婚約者が次代の王たる皇太子に不敬な発言など、反逆罪、皇位継承の簒奪にも取れる。


 

 だが、アリスが黙らせた。



『義兄妹の問題に口を挟むべからず』



 と。



 それは即ち、自分とルビーとの間で行われた彼女の不敬な態度も義姉妹の問題だから口を挟むなということだ。

 


 猛抗議をする大臣たちに向かってアリスの口が動いた。


 音なく発せられる言葉。


《 秘密を知ってるぞ 》



 大臣たちはギクリと身体を固まらせた。


 公爵の出来事が蘇る。

 自分はあのような恥を晒したくない。


 皆黙った。


 あのときのアリスはとても満足そうな顔だったと思い出すルカ。



 ああ、アリスと言えば…………


「アリスが君と最後に話をしようと来ているんだよ。そこの君呼んできてもらえるかい?」


 声をかけられた一人の兵士が部屋を出ていく。



「彼女は優しいよね。一番付き合いだって短いのに。平民になった君に時間を割いてくれるなんて。他の皆はひどいんだよ。君と話すことなんてないってさ。時間の無駄だって」


 ルビーの瞳が見開かれる。薄っすらと涙が滲む。


 王も王妃も幼いときから可愛がってくれた。マキシムもマリーナもキャリーも優しかった。


 彼らがそんなこと言うはずがない。



 

 子どもの頃はまだ我儘でも夢見がちでも仕方ない。だが、年を経る毎にどうにもならない少女だと周りは気づいた。排除も考えるべきかと思っている時にアリスが来た。そして、彼女の態度は疎ましい以外の何ものでもなくなった。不要な者だと判断された。


 彼らは優しい仮面をつけていただけ。





 ガチャリ


 またもやノックなしに開かれる扉。



「アリス」



 ルビーは敬称をつけずにアリスの名を呼ぶ。



「ルビー」



 アリスも敬称をつけずにルビーの名を呼ぶ。



 アリスとルビーの視線がバチッと交わる。 




 彼女たちが見つめるのは互いのみ。






 あれっ?


 僕の存在忘れられてない?と思うルカだった。








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