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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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78. 悪びれない男

「そういえばアリス様、結局ブランク様から何もお言葉がありませんでしたね」


 義兄たちとのお茶会を終えて3日。自室にてマリーナから頼まれた仕事をこなしているときにイリスが思い出したように言った。


「そういえばそうね」


 自分からお茶会に誘って、無断で約束の場所には現れず、その後の謝罪も何もなかった。が、


「お義兄様たちと色々お話できたから良かったじゃない。それに恋の沼に溺れ中のあの夫に常識を当てはめても仕方ないでしょ」


 部屋にいた侍女たち及びフランクもうんうんと頷く。



 コンコン


 扉をノックする音が聞こえた。誰か訪ねてきたよう。 


「はい」


「ルナにございます。只今お時間宜しいでしょうか?」


「入って頂戴」


 失礼いたしますと入ってきたのはブランクの専属侍女ルナ。名前の月のように静かな美しさを備えた女性だ。好みはあるが顔だけで言ったらルビーよりも上だとアリスは思う。


「どうかした?」


「ブランク様がお呼びですが……忙しければ断って参ります。もしくはご自分から来るように言付けましょうか?」


 ルナはイリスのようになかなかよい性格をしていてアリスは好きだった。だからこそブランクには好かれていないようだが。


 他の王子の侍女よりも扱いも雑であろう、第四王子の侍女。まあ仕事と割り切れる人間かよっぽどブリブリしてブランクを上手く転がせる人間しか彼の侍女は続かないと思う。


「構わないわ。今から向かうわ」


「向かわれるのですか?」


 嫌そうに言うルナに部屋の中の者たちはピーンときた。


「あら……不快な目に合いそう?」


「はい」


 コクリと頷くルナ。


「大丈夫よ。意味がわからないことをごちゃごちゃ喚くだけなんだから、スルーするだけよ」


「それはそうですね」


 ではお願いしますと頭を下げるルナ。



~~~~~


「遅いじゃないか!!!」


 ブランクの部屋に入って早々怒鳴られた。ルナもアリスも歩くのは速い方。別に道草を食ったわけでもなし、遅いなんてことはない。解せぬ。


 それよりも…………ブランクの足元に座り込み、泣いているルビーをチラリと見やる。


「何を睨みつけているんだ!私達の間には何も無い!」


 いや、睨みつけてないし。わかってるし、何かあっても構わないし気にならない。まるで嫉妬しているかのように言わないでほしい。普通おいおいと泣いている人がいたら多少視線はいくものだと思うのだが、ブランクは違うのだろうか……。


「お前この前兄上達と茶をしたらしいな。そのときにルカ兄上と大層親しそうにしていたそうじゃないか!ルビーがショックを受けて、こんなにも窶れてしまったではないか!!!」


 ?


 どの辺が?今日もルビーは可愛らしいドレスを着ている。顔色も良いし、頬もうるうるして弾力がありそう。女性の体系をとやかく言うものではないが、普通体型のルビーよりも自分の体型のほうがよっぽどスリムボディ。


「義兄上たちとお茶をしてはいけなかったでしょうか?呼ばれた場に行ったら義兄上方がおられましたのでご一緒しただけです。それにブランク様から約束場所の変更も時間変更も体調不良、来れない理由、行けなかったことへの謝罪など何一つなかったので……ああ、義兄上たちと交流をしろという意味に捉えましたが違いましたでしょうか?」


「……っ……!」


 違うと言いたいが、言えない。


 兄たちから逃げたこと、無断で約束を守らなかったことを認めることになる。それだったら交流のために呼び出したことにした方が格好がつく。


「だがっ!既婚者の身でありながら女一人で男の茶会に参加するなど」


 いやいや、何言ってんだ。義兄との交流の機会をブランクがセッティングしたと話を纏めてやろうと思ったのに、言いがかりをつけてくるとは。あの時に誰か人をやって誰か呼べば良かったとでも言いたいのか。そこの暇そうな女を呼ぶのは論外だが王妃もマリーナもキャリーもお前と違って忙しいんだよ。


 それに侍女もついていたし、疚しいことなどない。誰の胸にも。目の前の二人と違って。


「……これは失礼いたしました。確かに夫のある身で複数の魅力的な男性に囲まれてお茶をしたのはよくありませんでした。ああ……でもとても目の保養となりましたわ……」


 お前と違って。言葉にしないが伝わったのかブランクが唇を噛みしめる。ルビーは魅力的な男性に囲まれてに反応したようだ。ギリッとこちらを睨みつけている。涙はどこにいった?と聞いてやりたい。


「ですが……別に王族としての話や世間話をしただけです。義兄上たちの侍女も侍従もおりましたし、顔を見て笑顔を浮かべ話を致しましたが、もしかしてそれを親しそうと言われているのでしょうか?むしろ目を逸らして笑顔の一つも浮かべぬのは失礼に当たると思うのは私だけでしょうか?……本当に王宮というところは怖いところですね。人として家族として普通のことをしているだけなのに。あらぬ噂を立てられるのですから。本当に誰がそんなことを言い出したのか……」


 ルビーは動揺を見せないが彼女の侍女は視線が少し彷徨った。

 

「……殿方の身体に触れたりしたら噂になるのもわかりますが……」


 チラリと見るはブランクとルビー。


 ブランクは座り込むルビーを支えるように自分も足を折り曲げ背中に手を回している。ルビーはそのブランクの足に手を添えている。


 ハッとして僅かに手を離そうとするブランク。逆にギュウッと手に力を込めるルビー。アリスにはあなたの夫は私のものという宣戦布告のように受け取ったが、目の前の夫は助けを求められたと思ったよう。離れかけた手を戻し、先程よりも力を込める。


 いや、なんだこれは。嫌すぎる。


 夫が他の女性とくっついている絵面が……





 ではなく、


 なんかこの構図だと嫉妬している妻が夫と愛人の密会を責めているように見えるのがだ。



 

 己の想像にゾワーっと鳥肌がたつアリスだった。





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