77. 義兄と語る③
「お嫌いですか?」
ブランクを。
場が静寂に満ちる。
「……好きでも嫌いでもないよ。ただそうだね……。関心はないかな。いなくても構わない存在だね」
少し間が空いた後に答えたのはマキシムだ。
「俺も兄上と同じく。父上の血を引くから弟なんだが、他人みたいなものだな。ただ少し傲慢さが鼻につくときがなくはない」
次に答えたのはユーリだった。
そして最後に答えたのは
「もちろん嫌いだよ」
ルカだ。ニッコリと満面の笑みのルカに兄二人は困ったような表情をする。
「なんでなんでと不満ばかり。自分は王子なのに!なぜ使用人から家臣たちから冷たい視線を投げられる!って。そんなの側妃の子供だからじゃない?周りから見て人気のある王妃にとって目障りな存在。どれだけ実家から支援を受けていたって、本人は大人しいし、政治で役に立っているわけじゃない。だから気に食わない。だれだってわかるでしょ。本人は隠してるつもりみたいだけどそれについて不満があるのも……お前たちの方が下だろうって使用人を見下しているのもよくわかる。要するにあいつは傲慢なんだ。だから嫌われる」
「だから愛する女性も掻っ攫ったと?」
「ブランクがルビーを気に入ったのは6歳位かな?ルビーは8歳、僕は11歳。愛?自分に優しくしてくれるから、王子扱いしてくれるから気に入っただけだろ?その後も母親以外で優しくしてくれるのはルビーのみ、兄の婚約者なのにどんどんのめり込んでいったよ。まあ今は愛というより執着みたいになって気持ち悪いけれど」
うげ~と顔をしかめるルカ。
「それにさあ掻っ攫ったっていうけど、仕方なくあの女の婚約者役を引き受けてあげたって言って欲しいよ。ルビーってアクセサリーとかドレスとか滅茶苦茶おねだりしてくるんだよ?」
「ああ前にうざいって言ってたな」
ユーリがうんうんと頷く。
「王子妃になろうって女性がそんな散財して良いわけ無いじゃん。自分の実家の伯爵家や宰相が金使うのは自由だけどさー。国民からの税で成り立っている王室の人間に自分からおねだりするとかあり得ないよね。だってそもそも婚約者に充てられる金額だって決まってるんだし、それ以上出すわけ無いでしょ」
まあ、僕はその金ネコババしてるけど、と言う言葉は皆聞かなかったことにした。
「あいつがルビーの婚約者になってたらどれだけ散財するのか考えたらぞっとするよね」
僕のお陰で財政破綻免れてるんじゃない?ーーー多少言い過ぎな気もするが、当たらずしも遠からずかもしれない。
「それにさー、ルビーの方がグイグイ来たんだよ。本当は別の令嬢の方が良かったけど、僕の婚約者にしなかったらブランクと婚約して、たぶん僕たちの婚約者を引きずり下ろそうと躍起になってたと思うよ」
まあそうだろう、と皆思うが口は閉ざす。
「今はもう色々と纏まってきてるし、ブランクも君と婚姻した。だからさー…………
さっさとルビー追い出しちゃって」
いや、可愛らしく首をかしげて言われても……。アリスは苦々しく笑う。
「そのわりにはルビー様を大事になさっているというのか……。私にあまり協力的ではありせんよね」
「だって皆の為に我慢してたんだよ?迷惑料として婚約破棄のときにお前なんてなんとも思っていなかったって言ってやったって罰は当たらないだろ?自分を愛していると思い込んでいた王子様から事実を突きつけられたときの絶望した顔が見たいんだよ」
そういうルカの表情はとても明るい。とても楽しいことを話しているかのよう。
「僕に捨てられ、ブランクは君に取られ……ルビーはどうなるかな?」
「ブランクはルビーを取るかもしれないぞ」
ユーリの懸念を一笑に付す。
「ははっそんなわけないよ。だって彼は王子様だから」
大国の筆頭貴族家の娘アリスを手放した王子がそのまま王家にいられるわけがない。ルビーを取るということは王子の座にいられないということ。原因となったルビーも貴族籍にはいられない。
アリスに責任があれば別だが。
宰相は必ず息子に圧力を掛けてルビーを追い出す。
「プライドの高ーい王子様がそんなこと受け入れるわけ無いだろう?」
少し馬鹿にしたかのような言葉。
「所詮ブランクは王子様がお姫様と結ばれるという夢しか見ていないんだから」
その辺の男がその辺の女と結ばれる。
そんなただの庶民の話は彼の頭には存在しない。




