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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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75. 義兄と語る①

「今日は微妙な天気ね」


 アリスとイリスは庭園に向かって歩いていた。今日の天気は薄っすらと雲が空を覆っているが、微かに陽が差している。


「そうですね。アリス様の今の心境ですか?」


「あら、愛しの旦那様にお茶に誘われたのだから私の心は晴れ模様よ」


「何が晴れ模様ですか。面倒だとお思いのくせに」


「そうでもないわよ。なにせここに嫁いでおよそ半年。初めてブランク様にお茶に誘われたんだから」


 まあどうせルビーに対する言動への苦言が主な会話になるだろう。お茶会に誘ってきたのはご機嫌取りだろうか。だがそもそもブランクに対して恋だの愛だのの感情を抱いているわけではない。特別な美貌を誇るわけでもないから目の保養にもならない。


 正直王妃とお茶を飲んでいたほうがよっぽど楽しい。




「あれは……」


 イリスが小さく呟く。


「あら……敵前逃亡?」


「アリス様が敵ですか?戦う気だったんですか?どちらかというとドタキャンでは?」


「キャンセルの連絡はなかったわよ」


 二人の視線の先には庭園の方向から早足で城に向かうブランクがいた。


「まあとりあえず行ってみましょうか」


 アリスとイリスはそのまま庭園に向かった。


~~~~~~


「………………」


「なるほど……」


 庭園に置かれたテーブルが視界に入ると呆れたような表情をしているイリスと納得がいったという表情をするアリス。二人はお淑やかな顔を作るとテーブルとそこで茶を楽しむ人物たちに近づき、頭を下げた。



「ご機嫌麗しゅう皇太子様、ユーリ義兄様、ルカ義兄様」


 お茶会をしていたのはブランクを除く3人の王子だった。アリスの挨拶を受けると3人共少し考えるような表情になった。


「もしかして……ここでブランクとお茶の約束でもしていた?」


「はい。ですがまだ来ておられないようです」


 マキシムの問いに先ほど見かけたことは伏せて答える。


「あちゃー……やらかしちゃったかな」


 ルカの言葉に他の二人も少し気まずげな顔をする。


「アリス、すまない。今日は珍しく3人共仕事が少なかったからお茶でもしようと急遽この庭園を使うことになったんだ。それでブランクだが……先程ここに来る姿を見かけたんだが私達の姿を見たら逃げ……引き返してしまった」


「あいつは俺達のことが苦手だからな」


 マキシムの説明の後にぶっきらぼうに付け加えるのはユーリだ。


「何か大事な話でもあったのかな?アリスも戻る?」


 ブランクの話などわかりきっている。ルビーのことだ。ルカとてそんなことはわかっている。その声にはからかいの響きが。


「何かとは……皆様おわかりでいらっしゃるでしょう?」


 3人共薄っすらと笑っている。


「そんな無駄な時間を過ごすくらいなら僕たちとお茶でもしていかない?兄様方も良いだろ?」


 ルカの言葉にマキシムとユーリはもちろんと頷く。マキシムの侍女が持ってきてくれた椅子に、では失礼してと腰掛けるアリス。


「こんな風にアリスと話をするのは初めてだね。マリーナ……というか公爵家のことで面倒をかけたね。それに彼女から皇太子妃の仕事を手伝ってもらったり話し相手になってもらったりしていると聞いているよ。マリーナはとても喜んでいるから、私としてもいつもとても感謝しているんだ」


「……恐れ入ります」


 マリーナは父親である公爵の愛人愛され勘違い足枷事件の後から強く、強かになった。彼女いわく、


 今までは父親を完璧超人絶対的人間だと思っていたけれど父など所詮はただの政治手腕が優れただけの存在だったことに気づいたそう。あんな父親に萎縮していたなんて自分も強くならねばならないと強く感じた


 そう。だが少々厚かましい方にいっているとアリスは思う。最近マリーナに呼び出されては補佐的なことをよくやらされる。別に重要案件とか見せられるわけではないから問題はないが、解決策とかを上手くこちらから引きずり出そうとしたり、と人使いが荒いことこの上ない。


 はー……と思い出しため息をつくアリスにユーリが話しかける。


「俺も御礼を言いたいと思っていたんだ。キャリーと婚約できたのも、彼女の行き過ぎた正義感が最近緩和されてきたのもアリスのお陰だ」


「いえ、滅相もございません。お二人が周囲の反対に負けず想い合い続けた賜物にございます」


 彼自身も余計な正義感が強いようだと思ったが、キャリーの歪んだ正義感には気づいていたようだ。後継者問題に発展しないようにもしかしたらそう振る舞っているだけかもしれない。


「キャリーも最近よく会いに行くそうだな。商売のこと、自分の押し付けがましい価値観に気づくことができると本人は非常に嬉しそうにしていた」


「……左様でございますか。少しでもお役に立てたようでなによりでございます」


 部屋押しかけ事件の後から懐かれたのか、よく部屋に遊びに来るようになった。これはどう思う?あれは?と色々と聞いてくるので少々うっとうしいくらいである。再び思い出しため息をつくと、ユーリがこちらを遠慮がちに窺っているよう……


「ああー……それでキャリーから聞いたんだが。アリスはよくご実家から茶菓子を取り寄せるようだな。それがとても美味いと聞いたんだが……」


 ちらちらとこちらを窺うさまは毛並み麗しい大型犬のようだ。


「ご所望とあらば」


「良いのか!?」


「少々お待ちを」


 アリスがテーブルに向かって平行に手を振るともわーんと何かもやもやした雲みたいなものが現れる。


「アンジェ姉さま」


 姿は見えぬが声が聞こえてきた。


『…………何よアリス』


「なにか美味しいお菓子ないですか?」


『いや、昨日徹夜だったの叩き起こしてお菓子って』


「この前言っていた魔法石3個でどうですか?」


『只今!』


 少しするとボンボンッとテーブルの上にお菓子が現れた。


「ありがとう」


『じゃあ魔法石よろしく!』


 眼の前で繰り広げられる会話に驚く3人の王子。


「………………」


 目を微かに細めるだけのマキシム。


「美味そうな菓子だな。俺は甘いものに目がなくてな。礼をいうぞ」

  

 菓子に目がいきがちなユーリ。


「ハハッ。アリス本当に君は規格外だね」


 愉しそうに笑うルカ。


 物を瞬間移動できるのも驚きだが、そこではない。魔法石の市場価値は計り知れないほど高い。増してアリスほどの魔力保持者の魔法石の価値といったらどれほどのものか……。


 それをお菓子と引き換え。しかも3個も。




 あり得ない。


 







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