73. 王妃と女帝②
それにしても……王妃はエレナをチラリと伺う。
「どうかされましたか?」
「失礼いたしました。本当にお美しいと思いまして」
流石にアリスのような10代のピチピチ感はないし、顔の造形だけで言えばアリスの方が僅かに上かもしれない。だが、雰囲気や佇まいが優雅でありながら圧倒的な存在感を放っている。
「王妃様もとても美しいですわ。まあ我が家の者ほどではないですが」
王妃は笑顔がピシリと固まりそうになるのを無理矢理筋肉を動かし耐える。随分とはっきり言ってくれる。そんなことはよくわかっている。が、普通本人に言うものではない。
「あくまで形は……ですが。王妃様はうちの娘たちよりも醸し出す空気が洗練されて美しいですわ」
王妃はお茶を吹き出しそうになった。
「お若い頃より王妃をお務めになられているとか。お飾りの王妃もおりますが貴方様は違います。様々なご苦労を乗り越えてきたことでしょう。ときには非情な決断も……。それらから得られた強さが、自信が、身体から溢れ出ております。実に美しい」
なんだか恥ずかしい。エレナはお世辞を言うタイプではなさそうなので尚更照れくさい。それを誤魔化すように強引に話を変える。
「そういえばエレナ様はお孫様もいらっしゃるとか。とてもそのようには見えませんね」
適当に探し出した会話だったが、自分で言ってはたと気づく。家ではおばあ様と呼ばれているのだろうか。お祖母様で間違っていないが、そう呼ばれるのは何か違うと感じてしまう。
「あら、本当ですか?昔はお婆ちゃまと可愛く言っていたのに今ではお祖母様と呼ぶような年齢になった孫もおりますのよ。それに巷では私のことを銭婆と呼ぶけしからん輩もいるようですし」
フフフ……と少々仄暗い笑みは置いておいて、家族だけでなく領民さえも認める婆様だと言いたいよう。
「そういえば、お孫様も全員一緒にお住みになられているとか」
「ええ、子供も孫もたくさんおりますので屋敷が非常に賑やかでございます」
「微笑ましい光景が目に浮かぶようですわ」
美男美女たちが優雅にお茶を嗜みながら繰り広げられる会話、美麗な庭園で愛らしい子どもたちが駆け回る様……実に麗しく微笑ましい様子が目に浮かぶよう。
「そんなこと……。私はこの前いい年こいたおっさん(息子)たちが喧嘩して屋敷に穴を空けた光景を思い出しました」
正座のまま1時間以上お説教コースだったというエレナに色々と言いたいことはあるが飲み込んだほうが良さそうだ。
「んんっ!孫が皆揃って家にいるなど実に羨ましいですわ」
「そうですね。真に幸せなことです。これがいつまで続くか……」
「……?いつか結婚されたら…………!」
違う。いつか結婚したら家から出ることになるという意味ではない。カサバイン家はアリスを除き長男以外も全員婚姻後もカサバイン家に留まっている。恐る恐るエレナを見るとゆったりと笑みを浮かべた。
「噂通りの聡さをお持ちのようですね」
エレナの目に母親のような慈しみを見たような気がして少し照れくさいような恥ずかしさを感じる。
「王妃様、我が家はアリスを除きカサバイン家から出しているものはおりません」
こくんと頷く王妃。もちろん知っている。だからこそダイラス国の一部の貴族たちがアリスを無能や捨てられた娘だと言っている。どれだけ見る目がないのだと言ってやりたい。
「私の兄を含め過去にも家を出た者は数人いますが数えられる程度です。なぜかおわかりになりますか?」




