69. 姉登場
先日の話し合いは最終的にアリスの希望により部屋に侵入したものへの厳重注意で終わった。シオンにも早々にお帰りいただいた……というより側近が瞬間移動で迎えに来て首根っこを掴んだかと思ったら「失礼いたしました」と言って消えていった。
本日アリスはたいして量のない公務をささっと終わらせると自室にこもっていた。部屋にはアリスとフランク、アリス付き侍女全員が勢揃いしている。
「流石にこの前のフェニックス退治は疲れたわね」
「そうですね。しかもその後に先日の話し合いもありましたし」
「過ぎた時間はもう良いじゃないですか。それにしても……癒やされますねぇ……」
「「本当に」」
アリス、イリス、フランクが蕩けそうな顔をしながら話をしている。それに比べアイラ、ルリハ、カルラは少々引きつった顔をしている。
「アリス様……」
意を決したようにアイラが話しかけてきた。
「どうかした?」
「あ……あの……私達まで宜しいのですか?」
「ええ、宜しいわよ」
「ですが……」
イリスを除く侍女3人衆は顔を見合わす。
「これはフェニックス退治で頂いた報酬です」
彼女たちの前には金貨がパンパンに詰まった両手サイズの袋。部屋には先日シオンから受け取った報酬の金貨による山ができていた。そこにアリス、フランク、イリスは身体を突っ込んでいる。
「何もしていない私達が頂くわけには参りません」
そう言いつつ袋に目がいってしまうのが人間というもの。
「頑張る侍女に贈り物をするなんて皆しているわ。あなたたちも最近あの女……じゃなくてルビー様の対応で疲れてるでしょう。あれだけ思い込みが強くて勢いがあると見ているだけで気力が奪われるわよね。あなたたちはよくやってくれているわ。それにこれは私の取り分から普段のあなた達の働きに対してのご褒美だから討伐は関係ないわ。イリスとフランクなんて遠慮も慎ましさもなくがっつりもらってるんだから。遠慮なく受け取って頂戴」
3人は再び顔を見合わすと、袋に目をやる。ゴクリと喉を鳴らしたのは誰か。
「「「では」」」
一人ずつ袋を抱える。重い……。こんな幸福な重みは初めてだ。顔がニヤけてしまう。帰るまでそのへんに置いておくと良いと言われ、部屋の隅に置いているとアリスの口から来るわね……と声が聞こえた。
また、ルビー様!?いや、この金貨をどうにかしたほうが良いのかしら!?あたふたする侍女3人はアリス、イリス、フランクを見るが彼らは金貨の山から身体を引っこ抜いて服を整えている。
指示を仰ごうと軽く開けた口が目の前に急に現れた麗しい光景に固まる。
「「「アリス、お下品だわ」」」
そう言いなから勝手に椅子にドカッと長ーい御御足を組んで座る女性3人。
動いている……しゃべっている……なんか眩しい。現実離れした美しさになんとなく頭は回るが身体が動かない侍女3人衆。
「あら、人の至福タイムに突然乱入してきたお姉様方の方がお下品でしょう?」
扉からでも窓からでも突然部屋の中央に現れたのはアリスの姉3人長姉エミリア、次女アンジェ、三女セイラ。カサバイン家の王女様たち。
フフッと笑うとエミリアは座ったまま腕を広げる。アリスは仕方ないという顔をしながらエミリアに腕を回す。
「お久しぶりです。エミリア姉様」
艶やかな笑みを浮かべるエミリア。ピチピチの年齢はとっくにすぎたがまだまだ美しい。アンジェとセイラも同じように抱きしめると椅子に腰掛ける。
「お茶と何かつまめるものをお願い」
アリスに声をかけられ、はっと意識がはっきりする。口も慌てて閉じる。
「これも食べましょう」
そう言って机の上に現れる色とりどりのお菓子たち。一部とても禍々しい色をした崩れたケーキ……?もあるが視線を向けないようにしておこう。
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お茶を出したあとは控える面々。彼らは皆同じことを思っていた。
ーーーーー眩しい。
アリスも眩しいほど美しいが所詮単体、だが4人集まりゃ更に眩しい。それだけではない。部屋に置きっぱなしにされている金貨の山……窓から入る日差しがそれらを更に煌めかせている。
「それでお姉様方、何か用?」
「用がなければ来てはいけないの?」
「そういうわけではないけれど」
いやいや、ここは王宮だ。家族といえども本来勝手に入れる場所ではない。まして、用がないなら入れない。アリスの場合は婚姻条件にカサバイン家の者は許可なく来ても良いとあるので罰されることはない。が、こんなふうに通達もなく来るのは想像されていなかったはず。侍女たちの心の声など無視して続く会話。
「前から顔を出そうとしていたのよ。でも兄様や弟たちがズルイズルイって皆で行くべきだって言うから。女3人皆で休みを取って来たのよ」
兄達の言う皆と姉達の言う皆は違うようだがまあ良いか。
「それにしても色々としているみたいね。あちらでは目立たず必要最低限のことしかしていなかったから驚いたわ」
「ガルベラ王国の王妃様は聡いお方。私が色々と動けば私への憎悪、カサバイン家への憎悪は増すものの、手を出すことをやめられたでしょう。そしてストレスが爆発したときどうなるか想像もつきませんでしたので。それに比べ今相手している方は何をしても気に食わない、憎悪が膨らむともっともっとと私に突っかかってくるのです。それがなんとも的外れと言いますか、自爆することが多く……なかなか愉しい日々を送っているところです」
王妃はわかっていて蔑んでいた。彼女の趣……優しさに周囲の気遣いに甘えたのだ。
「あらそう愉しそうで何よりだわ。お金を山積みにして部屋にいるんだから暇なんでしょ。色々お話ししましょう」
「はい、アンジェ姉様」
トントン、トントン、トントン……ドアを忙しなく叩く音がする。
「どうぞ」
アリスの顔に笑みが浮かんだのは気のせいだろうか。




