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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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66. 面倒な話し合い③

 このままではルビーたちが無礼なことをしたとして終わってしまう。


「婚約者の方と幸せにね。でもアリス様はなぜ無視など……?ちゃんと説明していただいたら皆様に時間を割いて頂く必要はなかったはずです」


 いやいや、無視も何も許可がないのに無理に部屋に突入したのはルビーたち。


「あの……いえ、王妃様少し発言させていただいても宜しいでしょうか」


 キャリーが控えめに発言の許可を求める。王妃がコクリと頷くのを確認して言う。


「もしやアリス様は体調不良だったのでしょうか?少しも動かれず、魔法を発動していらしたので魔力の暴走が起きていたかもしれないと後から思いまして……」


 だとしたらとても申し訳ないことをしたと。キャリーは暗い顔。キャリーは正義感が強いし暴走しがちだが、基本的に悪い人間ではない。故意に人を貶めようとする性悪女とは根本的に違う。いつもと違いしょんぼりするキャリーにアリスは微笑む。


「いえ、別にとても元気モリモリでした」


「でしたら「皆様お聞きになりましたか!?やはり故意に無視していたのです!」」


 敵の大将討ち取ったりと嬉しそうにするルビーにため息が漏れる面々。今度はキャリーの言葉を遮ったな……。王妃が呆れながらもアリスに視線を向ける。


「アリス。どういうことか説明してもらえないかしら?」


「説明はしたいのですが、できないのです。それが約束ですので」


「?誰と?」


「秘密です」


「それでは話が進まないわ」


「女は秘密を着飾るものです」


「………………」


「まあ許可を貰えれば話せるのですが。もうそろそろ……」


「アリス様いい加減にしてくださいませ!あなたの勝手な言動でどれだけの人間が困っていると思うのですか!」


「魔物退治は勝手にして良いと婚姻契約でしております」


「魔物退治?」


「あら、口が滑りました」


「そんなはずありません!ずっと部屋におられました」


「あなたの魔法の実力では想像もできないことが私はできるのです」


「私をバカにしているのですか?ルカ様聞きましたか?アリス様が私のことを……っ」


「いやいや、アリス様の魔法の実力は本物だと思うけど」


「無能娘と言われているアリス様にそんな力があるはずがありません!!それに、アリス様が魔物退治に行ったという証拠もありません!」


 もはや不敬罪レベルの発言。


 これはもう先には進まないと思った王がまた後日改めてと口を開きかけたときに、駆け込んでくる兵士が一人。


「失礼いたします!ファレス王国の皇太子がアリス様にお目通りを願っております!」


「「「!!!」」」


 ファレス王国と言えばガルベラ王国の次に発展している王国である。ファレス王国とは資源の取引などをしており、魔法の腕も格上である。


「何をなさったのですか!?」


 ルビーが叫ぶ。もうやめてくれ……。いちいちアリスに突っかからないと生きていけないのだろうか。鬱陶しいと思いつつ王妃が口を開こうとすると、よく通る低めの美声が響き渡った。


「急で申し訳ないが失礼する」


 その場に現れたのはファレス王国の皇太子シオンだった。薄い紫色の髪の毛にルビーのような真っ赤な瞳を持つ美丈夫。


「我が国の恩人にいちゃもんをつけている声がしたので、入らせてもらった」


 王が冷や汗をかきながら言う。


「いえ、構いません。どうぞおかけください」


 構わなくない。構わなくないが言えない。ダイラス国の先々代国王のときに戦に敗れた相手。こちらがしかけた戦だったが属国にもされず破格の賠償金を払わされることもなかった。国力に差がありすぎてあまり被害がなかったという事もあったが、良識的な対応をしてくれた国相手に強くは出られない。


 そんな王の心の内とは正反対にアリスはにこやかな様子。


「皇太子様がいらっしゃるとは思いませんでした。報酬は魔法で送っていただいて構いませんでしたのに」


「この国にはそなたの価値がわからぬ者が多いと聞いたのでな。それに最近ウザ娘に絡まれているようではないか」


「あら、誰に聞いたのかしら?」


 ちらりとイリスを見る。


「さあ……誰だろうな。だが、そなたは自分では動かぬだろう。鬱陶しいものなどさっさと振り払えばよいのだ」


「…………………」


 意味ありげに微笑み答える気はなさそうだ。


「王よ。突然申し訳ない。本来ならアリス王子妃のみに用事があったのだが。何やら意味のわからない自分の都合でしか物事を考えない空気が鼻についたのでな。口を出させてもらうことにした」


「そうでしたか」


「王妃もお久しぶりです」


「お久しぶりです。皇太子様」


「アリスと仲が宜しいようで」


「私の娘ですので」


「アリスが娘となったことは生涯の誉れですよ」


「………………はい」


 微妙な表情をする王妃に笑うシオン。


「王妃は正直ですね。まあアリスは優秀だがトラブルメーカーでもあります」


「そうですね」


 間髪入れずに答えた王妃に更に笑うシオン。


「それでアリス。これが報酬だ」


 パチンッと手を鳴らすとドンッドンッドンッといくつも袋が現れた。キラキラと光る金貨が見える。ゴクリッと息を呑む者たち。


「ええ、間違いなく受け取りました。次回もご贔屓に」

 

 シオンはフッと笑うとアリスの前に膝をついた。


「此度の魔物の襲撃に対する貴方様のご助力忘れはしません。どれだけの民が己の命を救われ、家族の命を救われたでしょうか。誠にお礼申し上げる。今後も我がファレス王国と良い関係を築いていただきたい」


 そして、すっとアリスの手を取ると口づける。


「カサバイン家はガルベラ王国の臣下であると同時に魔物討伐の頂点に立つ家。その娘として魔物討伐をしたまでのこと、礼にはおよびませぬ」


 すっと皇太子から自分の手を引き抜くと金貨に視線を向ける。


「でも頂けるものはいただきますね」


「もちろん。命をかけて戦ったのだ」


 彼は静かに立ち上がると王に向き合う。


「彼女には我が兵士では討伐できない魔物の退治をしてもらいました。そこの小娘が言っている日はその日です」


「こ……小娘。アリス様はずっと部屋におりました。討伐などしていないと思いますが」


 王が慌ててルビーを黙らせようとするが、シオンの視線に自分が黙った。大国の王に口答えとは……胃がチクチクする。


「討伐に赴いたのはフランクとイリスだ」


「ではやはりアリス様は役に立っておりません」


「いや、アリスも討伐に加わっていた」


「わけがわかりません」


「そなたのような低魔力の者にはわからぬだろうな。そなたの実力では到底想像もつかぬ方法だ」


「な……いくらファレス王国の皇太子様でも王子妃に失礼では」


「まだ王子妃ではないだろう。なれるかもわからないとお見受けするが」


「私達は愛し合っております。ねえルカ様」


 ふられたルカは薄い笑みを浮かべるのみ。


 急にはっとした表情をする王。



「フェニックスが現れたと聞きましたが……」



 シオンはゆっくりと頷く。その瞳には暗い色が宿る。








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