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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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59. 敵となりうるか

 場所、時は王宮の庭での茶会に戻る。


「なんともまあ濃ゆい日を過ごしたのね」


「そうですか?」


「「ええ、とても濃密な日でした」」


 王妃の言葉に真逆の反応を示すアリスと伯爵家の親子。


「まあどんな経緯にしろキャリーをユーリの妃……いえまずは婚約者にすることを決意してくれてありがとう。色々と決めたいから場所を変えましょう」


 チラリとアリスを見る王妃。立役者ではあるものの婚約話の部外者であるアリスに聞かれたくないこともある。とはいうものの場所を変えても意味がないような気がするのはなぜだろうか。


 立ち上がる4人。


「王妃様」


「伯爵?」


「今回の婚約話は倅に一任したいと思います。私ももう年です。次世代のことは次期当主が担っていくべきかと……」


「ええ、伯爵がそうおっしゃるなら構わないわ。行きましょうか次期伯爵」


 伯爵と一緒にここに残されることになったアリスは頭を下げかけ止まる、王妃の視線が突き刺さっているからだ。ベシッベシッと扇が何度も王妃の手の平に収まり離れる。


 王妃の目は語る。

 ーーーよ・け・い・な・こ・と・い・う・な。


 アリスは胸に手を当て殊勝に頭を下げる。

 ーーー畏まりました。


 王妃の美麗な眉が中心に寄る。

 ーーー口元がニヤついているわよ。


 風にたなびく髪の毛を抑える振りして自らの人差し指と中指を眉間に当て引っ張るアリス。

 ーーーしわが…………。


 王妃の扇がバキッと折れた。


 その場にいた者がさっと視線をそらす。王妃と次期伯爵は何事もなかったかのように去っていった。


「王妃様と仲がよろしいのですね」


「ええ、マブダチです」


「………………」


「冗談です」


 いや、若者はこれで笑うのか。自分は無理だ。


「それで……私になんの御用ですか?伯爵」


 すっと椅子に腰掛けるアリス。ちらっと自分の向かいの椅子に視線を向け伯爵に座るよう促す。


「本当にキャリーをユーリ王子の婚約者にして良かったのですか?キャリーはあなたの敵となるでしょう」


 椅子に座った伯爵はアリスをまっすぐに見据えながら言う。


「構いませんよ」


 伯爵を見返すアリス。伯爵は固まった。彼女の“相手にもならない”と動く口にそして厚かましいといわんばかりの嘲笑いに。アリスは一転して憐れみの表情に変える。


「それにしても……伯爵はあまり子供運、孫運には恵まれなかったようですね」


 その言葉に伯爵は緩く笑う。


「あら、お怒りにならないので?」


「だれよりも私がそれを実感しておりますので、怒るなど……」


 ズーン……と表情が暗くなってしまう。


「皆様良い方なのに、あまり人を見る目がない。特にヤバイのはキャリー様、次に次期伯爵」


「仰るとおりです」


「ザラ様は弱いですが振る舞いが上手い、あの王妃様から子を産ませてもらえたのもそうですし、虐めといってもたいしたことのないものばかり。メアリー様は突出したものはないですが本質を見る目がある。先日もキャリー様を妃にしたら王宮に迷惑がかかる可能性が高いと言っていましたよ」


「あの子がそんなことを……。でもそうですな。キャリーは正義感が強すぎるのです。弱い者、可哀想なものを助けようとする。しかし、その者が本当に弱者なのかを見極める目がない」


 加害者なのに泣きつかれたら被害者だと思ってしまう。それで何度もトラブルになったことがあるが、伯爵がうまく抑えた為に本人にその自覚はない。


「倅も……素直というのか単純というのか……」


「そうですわね。彼も本質を見抜く目があまりないですわね。華やかで社交的、弱いものを助けるキャリー様を素晴らしい自慢の我が子、メアリー様を手はかからないが根暗な我が子と思っていらっしゃる」


「ええ、それが商売の方にも影響が出るときがあるので、嫁が上手く操作してくれております」


「名ばかりと気づかぬは本人ばかりですね」


「まあ倅は嫁の尻に敷かれておりますので、安泰です。ですがキャリーはあなたに虐められないか心配です」


「あら、きっと突っかかられるのは私の方だと思いますよ。あの方とつるんで」


「それを愉しみにしていらっしゃるのでは?」


 とても愉しそうな顔をしていらっしゃる、そう伯爵の目が語る。


「フフッ。きっとあの方は色々とやらかしてくれることでしょう。色々とうざーいことをたくさんやってくると思いますよ」


 そんなものダメージでもなんでもないのに。愚者は自分の勝利を、自分の思い描く理想の姿以外は考えもしない。


 とても愉しそうな様子のアリスに伯爵はキャリーに火の粉が降りかからないように祈るばかりだった。






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