53. 伯爵家と茶会
1週間後、同じ場所、同じ時間。
王妃と側妃ザラの父と兄、そしてアリスは甘いものを嗜んでいた。
無言で。居た堪れない。何か会話を……。
「伯爵、奥方は最近いかがお過ごしかしら?」
「はい、王妃様。元気に商いをしております」
伯爵夫人は伯爵家出身だが、商才があったようで家政のことより商会運営に重きを置いている。
「そう」
会話終了。
「次期伯爵、キャリーはお元気かしら?先日の夜会に着ていたドレスとても素敵だったわ」
「はい、王妃様。娘に対し過分なお言葉ありがとうございます。元気にしております」
「……そう」
ばっと血走った目がアリスに向かう。最近王妃様のキャラが崩壊しているように思えるのは自分だけかしらと思いつつ、本題に入る。
「さあ義祖父様、義伯父様」
ブフォッと噴き出す二人。間違っていないのだが、なんだこの違和感は。
「んんっ。王妃様以前から頂いていたお話お受けいたします」
ブフォッと噴き出す王妃。皆さっと視線をそらす。あっあそこのお花がキレイ。私達はそれ以外は何も見ていません。
「んんっ、失礼。キャリーをユーリの妃に、ということよね」
「左様です」
伯爵の顔は渋々といった感じ。王妃はアリスを見る。
ーーーーーどうやって脅した?
アリスは王妃を見る。
ーーーーー脅してないです。
「それで先日アリス様からキャリーを妃にするのであればもうザラは王室にいる必要はないのではないかと言われまして。王様に申し上げる前に王妃様のお考えもお聞かせいただきたいのですが……」
んっ?アリスはザラとキャリーを交換する提案をしたのかしら?それにしては伯爵の顔色が悪い。というより疲れが見える。
「そうね。ザラに聞いてみるのが一番良いと思うわ。彼女が望むようにすると良いわ」
「ではザラと話をしても良いでしょうか?」
「ええ、今から呼びましょう。と言いたいところだけれど」
途切れた言葉に皆の視線が王妃に向かう。
「どうして急にキャリーを王室にいれる気になったのかしら?アリスに何をされたの?」
「失礼な言い方ですね」
「あの伯爵の疲れた顔を見なさい。あなたが何かしたとしか思えないわ」
「王妃様……そんなことはありませんよ。アリス様は助けてくださっただけです。一応……」
それとあと説教……と小さい声で呟かれた。とりあえず一応や説教は置いておく。
「伯爵家から何か助けがいる事態になったとは聞いていないわよ」
「ええ、厳密に言うと我が家というよりも辺境伯家を助けていただいたのです」
辺境伯家…………。
「ああ、キャリーの姉君が辺境伯家に嫁いでいたわね」
「はい、そうです」
「そういえば先日辺境伯家から報告が来ていたわね、魔物が出現したけれど退治したので心配はいらないと」
その後何か援助要請も何もなかったので被害は少なくすんだのだろうと安堵したのを覚えている。
「アリス様がいなければそのような報告はいかなかったでしょう。魔物はドラゴンでしたので」
「!!!」
ドラゴンの出現などあったら大騒ぎだ。会議が行われ、他国に応援を依頼しなければならない。それに伴う費用も気絶したいほど高額になる。何よりも多数の死傷者が出ていたはず。だがそんな報告は一つも聞いていない。
「それがアリス様のお陰でけが人0、多少山が削れたり致しましたが多大な経済被害もなく終えることができました」
まあ、色々な意味で大変な目に合いましたが……またしても小声で呟かれる。呟く伯爵は弱々しい声音とは裏腹に強くアリスを睨みつけている。
アリスは涼しげな顔でフルーツタルトを突っついている。
「アリス」
「はい」
「説明してくれるわね」
ちらっと伯爵と次期伯爵を見るアリス。二人はフィッと違う方を見る。
「アリス面倒がらずに自分で説明なさい」
アリスは伯爵の顔をジーーーっと見つめる。
伯爵ははーっと息を吐く。
「王妃様。私から説明を……」
「…………気を使わせてごめんなさいね。アリス」
強い口調と微笑みの圧が凄まじい。アリスは姿勢を正す。
「承知いたしました」
語りだすアリス。
「あれは王妃様に一週間でなんとかキャリー様を妃にしてこいと言われた後のことです」
「私は言ってないわ」
アリスはちらっと王妃を見る。優雅にショートケーキを食べている。腹黒いのに白い生クリームがお好きなのね。心の声が聞こえたのか微笑んでいた目が少しだけ開く。怖っ。
「あれは王妃様に一週間でなんとかキャリー様を妃にしてこいと言われてないけど、そう感じさせる振る舞いをされた後のことです」
…………更に目が開いた。非常に怖い。




