48. 暴露②
なっ、と顔が真っ赤になる公爵。
「きっ……きもち悪い…………。勘違いなどしていない!それに奪ってなど……」
「お妾さんたちは皆元々恋人がいた方ばかりだそうじゃないですか。他の人の恋人に興奮するんでしょう?それに、愛し合ってるって?じゃあなんで足枷をつけてるんです?ああ皆様精神的なものじゃないですよ、ま・じ・で物理的に足枷つけてますから」
「大事にしてきた宝物がなくなりそうだったのだ!逃げ出さないように……己の元から離れないようにして何が悪い!!」
なんだこの男。
「なくなりそうって……やっぱり彼女たちが解放されたいってちゃんと理解しているじゃないですか。それに宝物……。とても大切にしてる素敵な響きですわ……ですが、宝モノですよ。モ・ノ。普通に大事な女性って言ってくださいよ」
シラけた目で見るアリス。その目がキラッと光ったのを公爵は見た。すーと息を吸うと大声を出すアリス。
「公爵が女性をモノ扱いしてますわー!ああ、だから足枷など平気でつけたのですね。罪人でもあるまいに……もしかして、自分の思い通りに動かない女罪ですかー?女性をなんだと思って……ああ、モノでしたね。まさか、この国の公爵ともあろうものが!ありえませんわ!!ね、王妃様」
急に振られても……もう何がなんだかよくわからない。
「公爵。一般的に人に足枷をつけて自由を奪い閉じ込めることを監禁というわ。それに契約期間を同意なしに延長するのは契約違反よ」
というか公爵ともあろうものが女々しい……と小声で呟かれた。
女々しい……公爵の胸にグサッと刺さる。
「監禁魔。ただの犯罪者ですね」
きっと睨みつけられたアリスは更に煽る。嫌ですわ~気色悪いですわ~と盛大に叫ぶアリス。一部の者から公爵に何を言う!好いた女性を手に入れて何が悪い!女は男に従え……またまた野次が飛ぶ。所詮くだらぬ男ばかり、女性のことなどどうでも良いのだろう。こんな奴らが国を担っているとはため息しか出ない。
「そもそも公爵の性癖が監禁だからなんだ。そんなのは個人の自由だ!今は貴様が公爵の妾を殺したのが問題なのだ」
「別に公爵は監禁好きではありませんよ。失礼な。好きな人がいる女性が好きなんです。付け加えるなら穏やかで弱々しい女性が好きなんです。性癖はそこです。公爵様、文句を言ったほうが宜しいと思いますよ。自分は監禁癖などない、と。それよりも私は殺してないって言ってるのおわかりになりませんか?」
はっ!もしかして。
「鳥頭なのですね。…………鳥と違ってなにもないですけど」
そう言ってハゲ頭をしげしげと眺める。怒りに言葉を失うハゲ親父。はっと周りも頭部を見ていることに気づき、大声を上げようとしたものの乱暴にドアが開かれる音に遮られる。
「申し上げます!公爵の御息女並びに……め……めか……け……の方々がいらしています」
………………?
今何と言った?
御息女とめかけ……?
「なんだと……?と、通せ」
王の動揺しながらくだされた命の後、部屋の外から複数の足音といいから通してよ、早く通しなさいよ、どうせ口だけ男どもがアリス様を責めてるんでしょ等々勇ましい声が聞こえてくる。
皆の前に複数の女性たちが現れる。
「お前達……生きていたのか」
感極まる公爵が震える声で呟く。その目尻には涙が光る。妾たちの目線がそちらを向くと皆が駆け出した。公爵は軽く手を広げる。
感動のご対面………なんてことはなく、
お約束のごとく皆公爵は素通り。アリスの元に集まる。
「大丈夫ですかアリス様?」
「彼らは都合の悪い話など何も聞かないでしょう?」
「彼らがアリス様を追い出そうと馬鹿な真似をすることはわかっておりました」
「意味のわからない事を言ってアリス様を傷つけるのでは……と心配していたのですよ」
口々にアリスの身を心配する声が上がる。何気に大臣たちの顔がひきつる。
「皆様心配してくださったのですね。ありがとうございます。ですが……公爵が可哀想なことになっておりますよ」
公爵は静かに涙を流していた。それは歓喜によるもの?悲哀によるもの?王妃は心の中で小馬鹿にしていた。大嫌いな公爵の本気の涙……胸の中で笑い転げていた。声を出して高笑いしたい。
「「「ああ、そうですね」」」
そっけない言葉にアリスは気まずげに笑う。いくら変態チックな男とはいえ長年側にいたのだ。それに彼女たちは借金を軽々と上回る良い暮らしをしてきた。それなのにこの態度は……。少々公爵を気の毒に思う。
「長年共に暮らしてきたではないか……」
「長年一緒にいれば情がうつる?冗談はあの性癖だけにしてほしいものです。身体の関係さえ結べば絆されて心も手に入ると思ってる勘違い野郎。借金と引き換えに身体を要求してくるエロジジイが何夢見てるのよ!それに愛、愛、愛、愛!煩いわよ!こんなのはただの奴隷の扱いよ」
バッと足首が見えるようにスカートをあげる。足枷がついていた部分に痛々しい跡がついている。
「アリス」
王妃様、今声を出すべきではありません。
まだ声が震えております。
「……んんっ…………説明して頂戴」
「承知致しました」
アリスは、いや妾とその娘たちは公爵と向き合った。




