46. 犯人はアリス?
会議室の前に来た王と王妃、3人の王子たち。ブランクはいても役に立たないし、逆に公爵を刺激しそうなので連れてこられなかった。5人は仲良くハー……と息を吐く。
なぜなら中から聞こえる騒音……いや、会話の内容に頭が痛いから。とはいえここにずっといるわけにもいかないので、入室する。王族が入るとあれほど騒がしかった声は一つもなくなり、立ち上がった大臣たちが頭を下げる姿があるだけになる。
「座ってくれ」
がたがたと座る音がする中、王は公爵を見る。頭を下げない可能性も考えていたが、まだ王族に礼を尽くすつもりがあるようだ。
「公爵、すまないが説明をお願いできるだろうか?妾を失ったばかりのそなたにこんなことを頼みたくはないのだが……」
妾という言葉に不快そうにした公爵に王妃は虫唾が走った。気の毒ではあると思うが妾は妾、妻ではない。王族以外側室を持てないという決まりがある以上、王族が臣下の妾を妻というわけがないだろうに。
王妃が傷ましい顔を作りながら内心ムカムカを募らせる中、公爵は自分が見聞きしたことを報告していく。全て聞き終えた王はうーん……と考えている。下手に言葉を発すると後々面倒なことになる。
「公爵」
王妃が自分を呼ぶ声に視線を向ける公爵。
「今回の件は本当に傷ましいものです。ですがアリスが手を汚した場面を見ている者がいない以上、彼女を犯人と決め付けることはできません。アリスから話を聞いた後に調査をし、新たに場を設けたいと思いますがいかがでしょうか?」
黙る公爵。妻(愛人)の側にいた者がアリスにやられている以上、アリスが犯人で間違いないと思っている。が、そもそもなぜ彼らを気絶させるだけで手をくださなかったのか。口を封じてしまえば、容疑はかかったにしてもここまでお前が犯人だ!と疑われるようなことはなかったはず。そこが引っかかる。何か狙いがあるのか……。
「恐れながら王妃様。もちろんアリス様にも話を聞き、厳しく調査はするべきです。しかし、どう考えてもアリス様以外に犯人はいないと思われる状況です。そのような者に普通に王宮をウロウロされてはこちらとしても恐ろしくてたまりません。魔法を封じた上、牢屋に入れるべきだと思います」
この世には魔法封じなるアクセサリーがある。言葉通り魔法を封じるためのもの。だが、魔力が高い魔法使いにはなんの役にも立たぬもの。即ちアリスにつけても意味なきもの。ダイラス国の者で魔法を封じられないレベルの者はいないので、万能道具だと思っているものが多い。
アリスの実力を知らぬから言っているのだろうが。無駄なことにアクセサリーを使いたくない。なぜならこの魔法道具はヒジョーーーにお高いものだから。アリスにつけようものなら魔力に耐えきれず木っ端微塵になるのが目に浮かぶ。絶対に使わせてなるものか!微かに王妃の目が大きくなる。
「意味もないのにそんな貴重なものを使う必要はありません」
まあ自分以外にも同意見が、と視線を向けると公爵だった。アリスの実力を見抜いているよう。それに比べ、意味もないとは?と混乱している少々肉付きの良い大臣には呆れてしまう。どちらも気に食わない人物だが。
「話を聞かねばわからない。それはわかっております。しかし、我が家に仕えるものに危害を加えたことは事実です。しかも、彼らは何もしていないのに。牢に入れるには十分な理由だと思いますが」
確かに。妾の方に気を取られていたが、王族の次に地位の高い公爵家に仕える者に手を出す。なかなかの乱暴な行い。こんなことが何度も他の貴族家でも行われたらたまったものではない。
「…………では、アリスは戻り次第貴族牢に「お待ち下さい
」」
よく通る凛とした声と現れた美貌に静まり返る会議室。
「アリス様……」
絞り出すように怒りを滲ませて登場した人物の名を呼ぶのは公爵だ。
「私の話をお聞きください」
アリスの言葉に聞く必要などない、何を言うつもりだ、と再びガヤガヤする室内。
「申してみよ」
王の言葉に不服そうにしながらも黙る大臣たち。
「皆様勘違いされておられるようですが…………今回の事態を引き起こしたのは公爵でいらっしゃいますよ」
誰も声を出せないでいた。ただ一人を除いて。公爵だ。彼は唇を噛み締めすぎたのか、口の端から血を流していた。
「それは……どういうことでしょう。私が彼女たちを手に掛けたというのですか……?」
そう言う公爵の顔は深い深い……怒りで彩られていた。




