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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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45. 混乱する王宮

 王宮は公爵邸からもたらされた連絡に大騒ぎだった。


「これは一体どういうことだ!?」


 執務室で叫ぶのは王だ。


「陛下、落ち着いてください。アリスが公爵の妾を手に掛けたなどと…………」


 王妃は信じられないと言いたかったが、彼女ならやりそうだと思ってしまった。何をしているのだあの小娘は。


「父上、今公爵がこちらに向かっているようですが、他の大臣たちにも伝書鳩を送ったようです。皆で徒党を組んで詰め寄る気でしょう」


 マキシムの言葉に執務室にいる者たちが息を呑む。


 特に王妃が。


 アリス……確かにどうにかするように頼んだわ。けれど何も命を奪うことはないでしょう。あのときアリスは首を掻っ切る仕草をしていたわ。あれは本当にお命頂戴するということだったのかしら。でもなぜ愛人の子ではなく愛人?そもそも、こんな大事を起こすのなら相談するべきよ。もちろん止めたけれど……。


 それよりも何たる行動力。昨日第三王子妃になったばかりの者がするフットワークの軽さではない。いやいやそんなことは問題ではない。人間としてやってはいけないだろう。王妃は頭の中がパニックだった。


 更にそれを上回るパニックになっているものがいた。アリスの夫ブランクだ。普通であれば妻が行った責任についてごちゃごちゃと言われるであろう立場。だがそもそも今までに顔を合わせたのも3回程。もはや無関係に等しいというわけで、誰もブランクを責めることはなかった。


 が、憐れみの視線が突き刺さる。事実かどうかはまだわからない。わからないが事実であった場合、たぶん消される。罪の連座でではない。ひっそりと。だって、こんな醜聞……いや、残酷な妻を一度でも持った不吉な男のもとに嫁いでくれる者はいない。婿としても同様だろう。むしろ、国としては責任を感じ自ら……となった方が最終的には美談で終われてダメージは少ない。


 最悪だ……今までの人生も良いものではないが、現在の比ではない。それに使用人たちの一部から憐れみではなく、嘲りの視線が突き刺さる。側妃腹の王子がいなくなって清々するとでも思っているのだろうか。そこまでなぜ嫌われなければならないのか。


 それに母のザラも大事な金蔓として処分はされないだろうが、一層使用人たちから厳しい視線が向けられるだろう。もっと陰湿な扱いを受けることになるかもしれない。ブランクはこのような事態を招いたアリスに怒りの感情が湧いてきた。


 ドンッドンッというノックという名の拳を叩きつけられた扉がバタンッと開く。


「陛下、王妃様!公爵が大臣を引き連れて面会をお求めです!衛兵たちが止めるのも聞かず会議室に勝手に入られました!」


「なっ……無礼な!」


 思わず声を上げたのは次男のユーリ。無礼な行為だが公爵たちが罪に問われることはないだろう。なぜなら彼が被害者だから。アリスが犯人かどうかはまだわからない。しかし、誰もがアリスを犯人だと決めつけていた。


「困ったことになった」


 王の呟きに室内が静まり返る。


「とりあえず真偽の確認をしなければ」


「父上、ガルベラ王国とカサバイン家にも連絡を。この機会にあちらからむしり取れるものをむしり取るべきです」


 勢い込んで言うのはルカだ。もうこうなったら責任を他国に押し付けるしかない。まだ婚姻して2日。ヤバイ奴を送り込んできたという証拠にするには十分短い日数だ。


「そうだな……。だが、もし犯人が違った場合更なる混乱に陥る。最悪戦争……いや、戦争にもならずに侵略される可能性もある。今こういう状態だと言うことだけ連絡しよう」


「お待ち下さい。自国の問題を早急に外に知らすなどあってはならないことです」


 王の言葉に反論する王妃に皆が静まる。


「しかし……」


「数日の付き合いではありますが、アリスはこのような残酷なことをするような人間には思えません。あの子はカサバイン家であることに誇りを持っているよう。そんな子が実家に迷惑をかけるような事をするとは思えません」

 

 彼女が今まで行ってきた振る舞いや今回公爵邸に赴く速さなど、普通ではない。常識外れも良いところだ。だがそんなものはカサバイン家の絶対的な権力と彼女の実力の前に簡単にねじ伏せることができるもの。でもこのような出来事は違う。このような非道な残虐な行為は家に必ず傷がつく。アリスはそのような選択はしないと思う王妃。


 まあ、ちょっとはやりそうなところもあるかもと思うが、そんなものは言わなきゃ誰にもバレない。


 王妃の言葉に深いため息をついた王。


「とりあえず会議室に参ろう。彼らの話を聞きつつ、アリスが戻るのを待とう」


「「「承知致しました」」」


 何が正解かわからない。とりあえず今できることは時間稼ぎだけだ。



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