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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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44. 騒動

 何が起きたか……いや、何が起きたかは聞いた。だが頭が理解したくないと叫んでいる。混乱の中走っていくと人垣が目に入る。その中の一人が公爵に気づき、声を張り上げる。


「おいっ道を開けろ!公爵様がいらっしゃったぞ!」


 その声により開ける場所。公爵は一番近い部屋に飛び込み、ベッドに近づく。


「………………!」


 公爵が目にしたのは愛しい妻が口の端から血を流し倒れている姿だった。慌てて近寄り上半身を抱き起こす。恐る恐る口元に手をかざすが、息をしていない。丁寧に再び横たえると公爵は部屋から飛び出し他の部屋も見て回る。


 どの部屋に行っても同じ光景が目の前に現れる。ブルブルと震える公爵。その顔は悲しみの色から怒りの色に染まっていく。


「あの女は……?」


「あっ……あの女とはアリス様のことですか?」


「そうだ」


「お泊りになった部屋におられるそうです……」


 無言で歩みだす公爵。早足で黙々と歩む。声をかけることもノックもせず、無断で扉を開ける。そこにはゆったりとお茶を嗜むアリスがいた。


「……どういうつもりですか」


 静かな声で問いかける公爵。しかし、その声は怒りに震えている。


「あら、挨拶もなしにいきなりですか。が、それも致し方ないかもしれませんね。話は聞きました。愛人の方々がどなたかに殺害されたとか。お悔やみ申し上げます」


「ふざけるな。お前がやったんだろう!?」


 怒り任せに発せられた怒声に怯むことなくアリスは問いかける。


「私がやったという証拠でもあるのですか?」


「何が証拠だ。妻たちにつけてあった者たちが深夜にお前と護衛らしき者にやられたと報告があった。一人、二人からの話ではない。何人からもだ」


 妻ね~。どれだけ彼が妻と言おうと側室を持つことができるのは王族のみ。愛人は愛人でしかない。


 それに、つけてあった者……ね。護衛とはまた違った響き。愛人の近くに影のように配置された者たち、一体なんのためかしらね。すました顔でアリスは応対する。


「そうですか。ですが、彼らが集団で嘘の報告をしているかもしれませんよ?それに、彼らをのしたのが私達だったとして、どうして愛人殺しまで私達のせいになるのです?私が手をかけた瞬間を見たものがいるのですか?」


「……それはいません。ではなぜあなたはうちの者たちを気絶させたのですか?何のために?答えは一つしかありません。あなたが無関係だとは誰が話を聞いても思わないと思いますよ」


 少し冷静になってきたのか再び敬語に戻った。


「愛する方々が亡くなった公爵の悲しみは私には計り知れぬもの。ですが、非常に不快です。王族たる私にこのような振る舞いをするなど……。早急に帰らせていただきます」


「ここから出られるとお思いですか?」


 公爵の言葉に騎士たちが入室してくる。


「出られないとお思いですか?そんなものなんの意味もないのに」


「「「!?」」」


 身体が動かない!?騎士たちを見るも同じ状態のようだ。アリスを見ると涼しい顔をしている。とても魔法を使っているようには思えない。が後ろに控えるイリスとフランクも冷たい目をしてこちらを見ているだけ。やはりアリスの魔法。


 拘束魔法をかけられる者は少なくないが、複数人に出来る者は少ない。ダイラス国では……だが。アリスはこの程度の魔法をどうにもできない公爵に憐れみの視線を向ける。力無きものが何を得られるというのか。


「……っ…………この化け物が……っ!」


 その言葉に見事な微笑みを見せるアリス。化け物……いや、悪魔だ。悪魔の微笑みだ。


「カサバイン家の者としてとても光栄な言葉ですわ」


 失礼と言って公爵や騎士の側を通り抜け部屋から出る3人。


「これで終わりではありませんぞ。王にあなたを逮捕してもらうように進言いたします」


「お好きにどうぞ」


 愛人たちが全て殺されたのだ。しかも最も怪しいのは王子の妃であるアリス。そりゃあ普通は王に報告する。当たり前のことをそんな恨めしげに言われても……とアリスは呆れる。


 それに、そもそも報告してもらわねば困る。


 だって、それこそアリスが望むことなのだから。






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