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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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34. 新たな侍女の決定

 翌日のアリスの自室にはいつものメンバーが揃っていた。


「「アリス様」」


「あら、清々しいお顔」


 声をかけてきたアイラとルリハのまぶたがボンボンに腫れている。


「昨日は早退させていただきありがとうございました。それに以前から怪しいと思っていたクズ男と別れることができ、せいせいしました」


 ルリハの言葉の後にアイラも頭を下げる。


「あなたたちには美貌も若さもある。まだまだこれからいくらでも良い出会いがあるわ」


「暫く殿方は結構です」


「あら、イリスみたいに仕事に生きるの?」


 それはそれで良いけれど。


「いえ……早ければ3ヶ月、遅くても1年後には探す予定です」


 3ヶ月って、はやっ。それで暫くとは羨ましい。byフランク。こら、二人して嫌そうにこっちを見るんじゃない。byイリス。


「「アリス様」」


「なあに?」


 緊張している様子のアイラ。


「本日正式に私たちを専属侍女にすると通達がありました。私達をスパイと知ったうえで受け入れるのですか?」


「あなた面白いこと言うのね。むしろ大国の大貴族の娘にスパイ……いえ、監視というべきかしらね。つけないほうがおかしいでしょ。むしろつける方が普通でしょう」


「ですが……」


 それならスパイだと暴く必要はない。暴く場合は追い出すときか逆に取り込むとき、強請るときか。しかしアリスはどれも違うよう。


「どうせ側に置くならきれいで賢いものが良いわ。それにあなたたちは野心があり、腹黒いから更に良し」


 綺麗事ばかり言う人間をアリスはあまり好まない。悪いとは思わないし、綺麗事も必要だ。しかし自分から何かを求め行動する。その際に誰かが涙を流すこともあるかもしれない……誰かを傷つけることがあるかもしれない。それを正義だから仕方ないとするのは好きではない。人を傷つけたことを自覚し堂々と悪党面している方が好きだ。


 もちろんただの意地悪、底意地の悪さで意味もなく人の命を脅かし虐げたり、人の物をとるような人間は論外だが。


「……スパイとわかっている人間の前でその雇い主に聞かれたくないことは言うべきではないと思います」


 王子に不細工とか王妃のこともぶりっ子と言っていた。


「それを言ったのはイリスよ」


 サッと後ろに立つイリスを見るアリス。サッとフランクを見て視線を避けるイリス。いや、俺関係ないしと思うのはフランクだ。そもそも口に出していないと思うアイラ。心が読めるのか?


「フフッ言っておくけど表情から読み取れただけよ。でもね別に私が言ったかイリスが言ったかなんてどっちでも良いのよ。だって私はイリスを守れるもの。私は国から連れてきたイリスとフランクには誰も手出しをさせるつもりはないわ」


「しかし、不敬罪とか」


「不敬罪?別に本人に言ったわけでもないし。悪評を流したわけではないわ。他所から来た嫁が内輪で姑や義兄の悪口を言うぐらい良いじゃない。あなたがチクったってイリスが嫌われるだけでしょ?」


「いや、嫌われるのは良くないんじゃ。嫌がらせされたり……」


 バシッと手に扇が叩きつけられる音がして体が跳ねる新たな侍女二人。


「そんなものどうとでもなるから良いのよ。イリスだっていや~ん。助けて~というタイプじゃないんだから」


「嫌がらせ?なにそれ美味しいの?ってタイプですよね。かと思えば澄ました顔しといて急にどこかでオラアってキレるんで怖いですよね」


「そんな感じよね。体術を教えてからキレに磨きがかかってしまったのよ」


「普通だったらモリモリの身体になるくらい鍛えてますからね。なんで筋肉がつかないのか」


「本当にイリスの体って不思議よね」


「話逸れてますよ」


 イリスの突っ込みで会話が止まった後も、こいつらは何の話しをしているんだという目で見てくる二人に嫣然と微笑むアリス。少し顔を上げ見下す口調で言葉を吐いた。



「弱者が強者に何をできるというの?」


 できることといえば徒党を組んで相手を貶めようとすることかしら。最後には無駄な努力となるのに……。


「憐れだわ」


 アリスの言葉に青ざめる二人。


「あなたたちは私が守るに値する存在になれるかしら?」


 イリスとフランクをちらりと見る。アリスの加護があるからこんなにふてぶてしいのだろうか。へらへらしているのだろうか。


 ちょこっと羨ましい気がしないでもない。



 …………いやいや、待て待て待て自分たちは王妃と宰相の回し者。そもそも彼女とは敵対する関係。彼女にとって守るべき存在になるなどおこがましい。


 おこがましい……?いかんいかん敵に対して思うことではない。


 はっとする二人と面白がっているアリスにイリスとフランクはため息を吐いた。




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