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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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32. ご対面

 澄み渡る青い空、絶好の対面日和。


「よく参られたアリス嬢。昨夜はよく眠れただろうか?」


「はい陛下」


 客間にて相対するは王、王妃、3人の王子とアリスだ。


「あら……それは良かったわ。私は王に嫁いだ日は緊張で眠れなかったから……」


 小娘の心配をするなどお優しいと王妃の言葉にうるうるとする侍女たち。それに比べ……アリスにはなんと鈍感な娘とでも言いたげな視線。


「クスッ」


「アリス嬢?」


 アリスが軽く笑ったのに気付いたマキシムが反応する。


「いえ。私はカサバイン家の娘ですので、魔物や悪党どもと戦う機会が多くあります。それはいつ起きるかわからぬもの。幼き頃より、そのときに備えてとるべきときに睡眠はしっかりとるようにしつけられております。それがこのように大人になってからも活かせるとは母と父に感謝せねばと思った次第です」


 皆の身体がギクッとする。カサバイン家のやり方にケチをつけるのか?と軽いジャブである。それに悪党ならいざ知らず、魔物退治をしてくれる者がいるからこそ安らかに眠れるというもの。王妃の顔も軽く引きつっている。素知らぬふりしてお茶を口にするアリス。


「それにしても王子様方はどなたもとても素敵な方ばかり。どちらの方が私の運命の相手となってくださるのでしょうか?」


「あら、とても嬉しいことを言ってくれるわね。でも残念ながらアリス嬢のお相手はこの子達じゃないの。せっかく気に入ってくれたみたいなのに……ごめんなさいね」


 そのときコンコンと扉を叩く音がした。

 

「アリス嬢。やっと来たようだ。早く入りなさい」


 入室してきたのは側妃ザラと息子のブランクだ。


「アリス嬢、こちらがそなたの婚姻相手であるブランクだ」


 その言葉に頭を下げるブランク。挨拶をしようかと迷っていると先に王妃が声を発した。


「この子達を気に入ったようだったけどごめんなさいね。既に皆気に入った相手がいるみたいで……。母親としては子供の気持ちを優先させてもらったの」


 ごめんなさいと言いつつ嬉しそうな声を出す王妃をよそにイリスの目が遠いところを見る目になる。ハハッ何言ってんだか、その程度の顔を惜しむわけ無いだろうとアリスを見ているとその美しい唇が開いた。


「構いませんわ。むしろ嬉しいくらいですわ!私完璧な美貌よりも多少崩れてた方が好きですの!」


「「「は?」」」


 ダイラス国の王族の顔が歪む。それは、ブランクだけじゃなく、先程素敵といった3人の王子のこともけなしているということ。


「ファザコンやブラコンとは思われたくないですが、我が家の家族の美貌と言ったら言葉に表せないほど。毎日毎日あの顔を見ていたので完璧な美貌というのは胸焼けがしますの」


 アリス様やめてください。無邪気を装うアリスに吹き出しそうになる。腹筋に力を入れて耐える。ひきつる王族の顔に更に笑いそうになる。


「……贅沢な悩みですわね」


 なんとか絞り出された王妃の言葉。


 そして、突き刺さる使用人たちからの敵視、殺気。


「母上、ブランクも来たことですし。私たちは下がりましょう」


 不穏な空気がいつまでも霧散されないことに気づいたマキシムが退室を促したので、これ幸いと側妃とブランクを除く王族と侍女、侍従たちが外に出る。


 扉がぱたんと締まり、静寂が満ちる。


「アリス様。ブランクの母のザラと申します。こちらがブランクです」


「ブランクです。これから……よろしくお願いいたします」


 ふ~~~~~~~~~~~ん。二人共礼儀正しいが、こちらに対する気持ちは真逆のようだ。ザラはこの婚姻を喜んでいる。ブランクに強力な後ろ盾ができたからだろう。


 弱々しい印象、いや実際に弱いのだろうが賢いよう。噂を鵜呑みにせずこちらの価値を正確に見極めている。父親が有名な商店を営んでいるので、父親からの助言があったのかもしれない。商人は噂の真偽を見極める目をもたないと成功しない。


 ブランクは……ときた。よろしくの前に……はいただけない。躊躇いを感じる。


 まあ、当然かと内心嘲笑う。力の無きものは結婚も望むようにいかぬもの。ブランクには想い人がいる。


 三男のルカ王子の婚約者ルビーだ。淡い水色の瞳と髪の毛を持つ可愛らしい女性。


 ルビーは幼い頃より父親について王宮に来る機会が多くあった。年の近いルカやブランクと特に交流があり、ルビーはルカとブランクに好意を持たれた。ルビーが選んだのはルカだった。


 が、ルビーがブランクも捨てがたいと思っていることをアリスは知っている。ブランクが嫁を娶ると聞いて彼女は気が気でないだろう。


(どんなことが起きるだろうか……)


 ニタニタするアリスに嫌そうな顔をするイリス。アリスの表情に訝しげな顔をするブランク。


「先程王妃様になめた口を聞いていたようだが……。あまり歯向かわない方がいい。あの方は周りのものを味方にするのがうまいから」


 アリスを心配してくれるあたり、悪い人間ではないようだ。ニッコリと笑みを深める。


「心配いりませんわ」


「別に心配しているわけじゃ……」


 あら、素直じゃないわね、でも……。


「あなたの考えは弱者だけが心配すべきこと。私はダイラス国の全ての者と対立しようとなんの問題もありません」


 ブランクの目が見開かれる。


「だってこの国の誰よりも強いのは私ですから」


「……束になって襲われたら」


「束……?塵も積もれば山となるって言いますわね。でも山は山でも所詮小さい山などなんの問題もありませんわ。私のワンパンで崩壊する山など恐るるに足らずですわ」


 嫣然と微笑むアリス。


 ザラとブランクは開いた口が塞がらなかった。









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