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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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30. 到着

 無事隣国ダイラス国の王宮に到着したアリス。馬車の窓から目に入ってきたのは美麗な王宮と馬車と並行してズラリと並ぶ黒と白の格好をした人、人、人。いわゆる侍女や執事、侍従、下級使用人もいるよう。


 その中から一人歩いてくるのはグレーの短髪の初老の男性。馬車のドアが開け放たれるとさっと手を差し出される。アリスがその手を取り地面に両足を付けると、胸元に手を当て頭を下げる。


「ありがとう」


 男性はそのままの姿勢を維持していたがアリスが声を掛けると声を発した。


「ようこそおいでくださいました」


「あなたは執事長かしら?」


「さようでございます。僭越ながら私がお部屋まで案内させていただいてもよろしいでしょうか?」


「ええ、よろしく」


 アリスは執事長の背中をじーっと見て歩く。ふむ…………。おっと、見すぎたのか執事長の肩が少々強張ってきたよう。部屋に入ると二人の女性がいた。


「アリス様の仮の侍女にございます。何かございましたら二人にお声掛けください」


 アリスは二人に視線を向ける。


(ほぉー…………仮ね。気に入らなかったらチェンジ可能というわけ。それにしてもこの二人……)


 アリスの目の奥が輝いたことに気付いたイリスとフランクが微妙にアリスから距離を置く。


 失敬な。


 二人共茶色の髪の毛と目をした女性だ。ただ、受ける印象は全く違う。ストレートロングヘアの彼女は勝ち気そうな吊り目の美女。すらっと背が高くメリハリのある身体つき。

もう一人の緩やかに波打つ茶髪の彼女は目がクリクリとしておりリスみたいに可愛らしい。身長は低めながらメリハリボディー。変なオヤジに目をつけられないか心配になる。


「フフッ……そうきたか」


 呟かれた言葉に二人の瞳に訝しげな色が宿る。


「フフッなんでもないわ。とりあえず今は用はないから下がってもらえるかしら」


「「かしこまりました」」


 二人は言われた通り下がろうとするが、荷解きを心配しているのか荷物をチラチラと見ている。実家から持ってきたものが詰め込まれた箱が山積みになっている。ニッと笑うと、アリスはスッと箱に向かって手を伸ばし、軽く振った。


 箱から中身が飛び出て浮いたかと思うと勝手に飛び交い、アリスが思う位置についていく。二人はドアに向かっていた身体を硬直させた。アリスは鋭い視線を向けるとその二人に指が向く。


 二人はビクッとすると慌てて外に出ていった。


 物が飛び交う室内にはアリスとイリス、フランクだけになった。二人はアリスを見る。


「なあに?」


「「暴君設定でいくんですか?」」


「ただ魔法を使っただけよ」


「「また虐められて影で笑うのかと思いました」」


「あらあら、私は私らしくしているだけよ。なぜ侮辱の対象になってしまうのかしらね」


「「いや、趣味でしょう」」


(だって目の前の女神様にどこに虐められる要素がある?自分でそのように見せなければターゲットになどならない)


「あなたたちよくそこまで合わせられるわね」


 イリスもフランクも嫌そうな顔をする。二人がアリスの側に仕えるようになったのはほぼ同時期。現在フランク32歳、イリス23歳少々年齢差はあるものの共に過ごした時間はそれなりに長い。恋心の一つでも芽生えるかと観察するものの一向にその気配はない。



「今後のことは相手次第とでも言っておこうかしら。この国にも私の評判は届いているでしょうね、かといってカサバイン家の娘。どのように扱うか迷っているところじゃない?大事大事だいじだいじにするつもりはないようだけど。ここにはこわ~~~い狐の女王様が君臨していらっしゃるからね」


 姉のエミリアの言葉を思い出す。この国を牛耳っているのは王妃よ。王は善良なおじさんって感じ。自分がないわけでも意見を言わないわけでもないけど穏便に済ませられるならそうしようって感じのタイプだったわよ、と言っていた。出迎えに大臣たち、使用人以外の貴族は一人もいなかった。恐らく王妃の指示。ということはダイラス国の貴族に大国の大貴族の娘におもねるものは一人もいないということ。彼らは王妃を選んだのだ。それだけ王妃が絶大なる権力を握っているともいえる。


「あったま悪いわねぇ……」


 その気になればこの国などすぐに潰せる。祖国の王妃や一部の貴族たちの態度も褒められたものではないが、王妃のことは優秀だと思っている。なぜって謀反も革命も起こっていないから。台風による大災害があった際には王妃自らが節制に努めたり、事前に対策をしたりした為、飢饉に陥ることはなかったから。当たり前のことのようでありながらそれができない王や王妃の多いこと多いこと。それになんやかんやいって祖国だ。牙を剥こうと思わない。


 しかし、ここは祖国でもなんでもない。なんの思い入れもない。格上の相手に取るべき行動はまずおもねることだ。だが、王妃は自分の権威を示し、周りからの信頼は自分のものだと誇示した。


 これは……


「とても楽しそうだわ」


 わくわくしながらぼそりと吐き出された言葉に二人は顔を見合わせた。


「「とても愉しそうね(だな)」」



 そういう二人の顔も少々愉しそうだった。側に仕えるものは本人の自覚がないまま主人に似てくるものなのだろうか。




 


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