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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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28. 大掃除⑥

 俯いてついに黙る女。やっとか…………。


「リリア様!リリア様は私を見捨てないですよね?」


 まだなの!?どれだけ不屈の精神なんだか。それに何を言っている。リリアは思う……そもそも我らは無関係。


「不要なモノ扱いされた者同士支え合っていきましょう!」


 いやいや、誰にも不要なんて言われてないし。もう通じ合え無いものは通じ合えないのだ。どこまでも自分にとって都合の良い解釈しかしない生き物が目の前にいる。


「じゃあリリアが家を出たら雇ってもらえばいい」


 本人が良いならだが、と小さく呟く。


「えっ…………?それはどういうことですか?」


「リリアは成人したらこの屋敷を出ていく予定だ」


「私はあくまで居候。成人するまではこちらに置いていただき、その後はカサバイン家とは関係ない生活をすると公爵と約束しております。そして、慈悲深い公爵はそれまでは兄姉やアリスから何か得るも良し、人脈も得るも良しと言われております。なのでいただけるものは頂いていく予定です」


 王族さえもひれ伏す公爵家の当主。器が違う。良い縁とは言えないが、アリスの趣味に付き合ってくれたり役に立っているから褒美として、と言われた。


 父親であるロナルドはカサバイン家とは別で財産を持っており、家も用意してくれると言うが正直あまり関わりたくない。貴族家育ちの庶民。贅沢な生活に慣れた人間が一般の庶民としてやっていけるのかと言われたら無理だろう。だから贅沢して……売り払った。おかげで母親と苦労せず暮らしていけそうだ。


 ちなみに母親は最初ロナルドの正妻になどと戯けたことをおほざけになっていたときもあるそうだが、公爵の圧倒的な美貌、カリスマ性、夫以上の雄々しさに恐れをなして……否、惚れて目障りな自分は彼女の前から消えると池に飛び込んだそうだ。自分が勝っているのは若さのみ、と。自分は傲慢だったと。


 慌てて飛び込んだ父親。そこで再び愛が燃え上り結局この家でご厄介になることに……ではなく。潜る父親の隣を浮上していく母。もちろん魔法。使い手は公爵であるエレナ。


 彼女は母に向かって言ったそうだ。


「若さのみ……?贅沢な!!誰しも若返ることは不可能!この私だって不可能!そんな羨ましい理由で儚くなるなんて許さなくてよ!羨ましい!!!」


 と張り手をかましたそうな。母はうっとりとそのときのことを語るがわけがわからない。なんだその理由は?天才の思考は凡人にはわからないと悟った。


「そんな…………。いえ、でしたらお供させてくださいリリア様!」


 ショックを受けたようだったが、すぐに気を取り直したようだ。解雇が覆らないとやっと悟ったのはおめでたい。次はリリアにロックオンしたようだが。リリアは天使と見紛うばかりにニッコリと笑った。


「い・や・よ」


 仕える相手を蔑ろにする使用人を雇う人間などいないだろう。それに何よりも……


「私、アリスのこと好きなの」


 女の目が見開かれる。何を驚くことがあるのか。


「裏で人のこと嘲笑ってるような趣味の悪い子よ。でも……誰よりも美しく、賢く、強い、それに器もでかい!そんな相手を嫌いになるなんて……皆頭ヤバいんじゃないの?」


 小馬鹿にしたような目。女は衝撃のあまり動けないよう。それを見つつ思う。お前なんて大嫌いだと。大事な大事な妹をいじめるやつなんて。


 ちらりとカサバイン家の麗しい彼らを見る。自分と彼らは全然違う。でもアリスは年も近かったからなのかよく接する機会も多かった……姉妹って感じで過ごしてきた。アリスは自分のやべえところを隠そうともしなかったからか、自分も腹黒いところを堂々と見せられた。それに、エミリアがやり過ぎないように見守ってくれたのも彼女だけだった。


 自分はカサバイン家の一員だなんて一度も思ったことはない。だけどアリスに関しては妹だと思っている。本人には恥ずかしくて言えないけれど誰よりも幸せになってほしいと思っている。


 だから目の前の奴らーーーアリスをバカにする奴らは大嫌いだった。


 ……まあ本人は彼女たちのお陰で非常に愉しそうにしていたが。 


 何にしろ自分はあと2年でこの屋敷を出る。寂しさなど無い。だって彼女が先に巣立っていったから。




 これで女も身の程を知っただろう。


 これで大掃除は終わりだ。




 ………………




「さっきから黙って聞いていれば…………!」

 


 



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