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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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161.頻発する暗殺未遂

 ~食堂にて~


「ん、んんっ」


 わざとらしい咳払いをするのは王だ。王は冷や汗をかきながら目の前の王妃と目を合わせないようにキョロキョロと落ち着きなく目を動かす。


「陛下」


「あ、ああ」


「私を侮辱しているのでしょうか?」


「い、いや王妃……そういうわけでは…………。ただ……」


「ただ、なんでしょう?」


 言葉を重ねるごとに膨らむ王妃の威圧感。それと比例する王の冷や汗。ごにょごにょと何か言っているが全く聞き取れない。


「陛下!」


「はいぃ!」


「まあ、怖い」


 コロコロと笑い声がする方に視線を向ける王妃。そこにはむせ返るような色気を放つケイトがいた。今日もまた気合の入ったけばけばしい胸元の開いたドレスを着ている。


「私との約束を優先させただけではありませんか。より大切に思う相手を優先させるのは人の性。夫の心に寄り添うのが妻というもの……陛下をそんなに責めるのはいかがなものかと思いますわ、王妃様?」


 こて、と首を傾げるが顔も大して美しくない品のない女がやっても嫌悪感が増すばかり。居並ぶ侍女等使用たちは王妃を下に見る彼女をあからさまに睨みつける。


「ほほほほ、先日陛下から食事をと誘われたので来たのですが……」


 ちらりと見る王とケイトの前には食べかけの食事。


「夫の心に寄り添うのが妻、仰る通りですわね。ですが……約束を違えるのであれば連絡するのは常識では?」


「まあ、陛下をまるで非常識みたいに仰るなんて酷いですわ!」


( 陛下もだが、一番の非常識はお前だ! )


 王妃と使用人の心が一つになった。


「ケイト、やめよ。すまなかった王妃。最近忙しくて約束をその……忘れてしまって。よければ一緒に……」


「陛下、王がそのように頭を下げる必要はございません。こういうときはそっと見て見ぬふりするのが淑女というもの。文句を言いに来るなど、とても一国の王妃とは思えませんわ。陛下、お労しい…………」


「け、ケイト……やめ…………」


 王妃や使用人から立ち昇る苛々オーラを察知した王はもう冷や汗が止まらない。


 これ以上このような不快なところにはいられないと踵を返す王妃は何か聞こえたような気がして足を止めた。


「王妃様、いかがなさい「きゃあああああ!」」


 食堂に響き渡る侍女の悲鳴。


 一人の使用人が血を流しながら倒れていた。その側には一人の侍女が気味の悪い笑みを浮かべて立っていた。彼女は片手を上げると魔法の球を練り上げる。


 倒れる侍女から黒いもやが滲み出て彼女の手に絡みつく。一層大きくなる球。


「陛下に不敬な態度を取るお前など王妃に相応しくないわーーーー!」


 ブオンと両手サイズになった球を王妃に向かって投げる女。ざっと侍女や護衛が王妃を守ろうと盾になる。


「あははははは!みんな消えろおおおおおおおお!……は?」


 絶叫を止めた彼女の目の前にはヒョイッと魔法の球を受け止めたフランクの姿。彼は風を巻き起こして窓を開けるとどいせっと思いっきり球を投げた。球が外で爆発したのを確認したフランクは王妃と向き合う。


「ありがとう」


「いえ、そちらの女性を救えず申し訳ございません」


「あなたが悪いわけではないわ。それよりもまた…………ね」


「ええ世の中こんなにも命を軽んじる者が多いのに驚きです」


 二人の視線の先には先程まで絶叫していた女が絶命した姿があった。事前に毒を飲んだ命がけの暗殺だった。


「命がけで臨むのは構わないけれど他のものの命を奪うのは論外だわ」


「黒魔法を使うには人なり動物なり魔物なり何かを犠牲にしなければなりませんからね」


 二人はギロリと暗殺者を睨んだあと、犠牲となった女性に向かって手を合わせた。


 最近黒魔法を使った暗殺未遂が増えていた。標的は王妃、ラルフ、オリビア、ブランク、アリス。アリスの指示によりラルフ、オリビアにはエリアスが、王妃にはフランクが、ブランクにはイリスが護衛としてついている。


 なぜかは不明だが他の王族たちは狙われていない。


 黒幕がいるはずだが暗殺者たちが全員自ら命を絶ってしまうので手がかりがなくお手上げ状態だった。


 はあと暗くなる雰囲気の中、なんともその空気にそぐわない声が上がる。


「んまあ、陛下私怖いですわ~。きゃっ!王妃様よくそんなもの見られますね」


 私には無理ですわぁと王にしがみつくケイト。その声は怖がっているでもなくただ王妃を攻撃する口実ができた喜びで溢れている。

 

 王妃は気を落ち着けるようにすぅーとゆっくりと息を吸って吐いた。


 怖いって、あなたは狙われてないでしょうが……


 それに亡くなった者に対してそんなものなどと……


 怒りが増幅する。



「王妃、大丈夫か?」


 王が気遣わしげに近づいてくる。がそうするとその腕にしがみついているケイトも近づいてくるわけで……。王の隣に立つ自分と優越感に浸る彼女を見ると怒りが爆発しそうだ。


「はい、陛下。ですが少々休ませていただきます」


「ああ、ゆっくり休むが良い」


 その言葉に王妃は穏やかに微笑む。ほっとしたような王の表情にグーパンチを食らわさなかった自分良くやった。


 大丈夫そうだとほっとしたのだろうか、それともそんなにも目の前から消えてくれるのが嬉しいのか。皆の前でボロクソに王を罵るわけにはいかない。


 とりあえず撤退を選択した王妃だった。






 

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