156.アリスとエリアス①
エリアスは目を瞑る。
彼女たちと出会ったときのことを思い出すエリアス。あれは4年程前、何やら姉とアリスが仲良くなり始めたときだった。
生まれた時から魔力量も多く魔法を扱うのにも長けていた。頭もよく顔も良かった。俺はそのときまで自分は唯一無二の存在で、誰にも負けない自信があった。
自分の力に自惚れていた。
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「……おい、聞いてるのか?王族の身内とはいえその態度はないだろう!?」
うるさいな。
「おい、いい加減にしないか!倅が済まない」
うるさいな、ハゲ親父。なんでこんな弱いやつに頭なんて下げてるんだ?
「国を守る騎士の方たちになんという態度なの。弟がごめんなさい」
うるさい。なんの取り柄もないクソ女が。
「父上も姉上もご冗談を。自分よりも弱いやつに低姿勢になる必要が?ああ騎士の皆さんだけでなく父上も姉上も弱いですからね……仲良しごっこですか」
はは、と笑うと目の前にいた名前も知らない騎士たちが殺気立つ。
「おいお前、我らだけならまだしも妃殿下になんと無礼な!」
妃殿下ねぇ……大層なご身分だよな。だが、こいつ自身は空っぽだ。どんな価値があるというのか。
はあ……
それにしてもこの目の前に立ちはだかる騎士たち目障りだな。
「「「!?」」」
騎士たちが膝をつく。
「やめろエリアス!」
「やめなさいエリアス!」
親父も姉上もなんなんだよ。俺に指図するな。
ほん少し圧力をかけただけなのにこの有り様、騎士のくせにつまらない。この力量でよく俺に盾つけるものだ。
目の前にいる親父はまあ政治家として多少なりとも評価できるが、この姉はなんなのだ。何も力を持たないくせに王子妃?笑わせる。親父の策略で結ばれ、たまたま子をなせただけ。
「お姉様生意気になられましたねぇ?容貌はまあ見れる程度ではございますが頭のできは普通、性格は根暗、魔法の腕は下。だけど女っていう武器があって良かったですねー?王子妃になれましたもん。あんたなんて俺と同じ男だったらただのできそこない?落ちこぼれでしたもんねー?」
「な!?やめろ!妃殿下になんということを……っ!」
エリアスの言葉に声を張り上げるが更に圧力をかけられ顔を地面に押しつけられる騎士たち。彼らを冷たい笑みで見下すエリアス。
無様だ。
力もないくせにいきがって、誰かを守れると勘違いして……
気に食わない――――――――――。
「エリアスやめるんだ!」
クソ親父が俺を止めようと腕を掴んでくる。その顔は青褪めている。
ふん……止めたいなら俺より強いやつを連れてこれば良いだけ。まあそんなやついない、と自惚れていた俺の耳に涼やかな美しい声が聞こえた。
「あらぁ」
「「「アリス様!」」」
俺以外のやつの声が揃って呼ぶのは第四王子ブランクの妃アリスだった。
俺は
俺は……
不覚にも見惚れた。
俺は笑みを向けられはっとする。
その笑みは人をばかにする様な嘲笑だったから。
なんだこいつは。初対面の相手に。しかも騎士を抑えつけている相手にそんな表情を向けるなんて。
ああ、
この女は魔法に長けていると聞いた。色々な武勇伝も。どうせ王室の名声を高めるために盛っている話だと思い込んでいた。
家に籠りがちで友人もいない俺はそんな愚かな考えを持っていた。
この目の前の美女との出会いが
俺を地獄に叩き落すというのに。
「!?」
「大丈夫?」
敵意を向ける俺と正反対に彼女はさっと視線を騎士に移す。彼女がのほほんと騎士に怪我はないかと確認している間、俺は愕然とした。
俺の魔法が……破られた?
立ち上がる騎士たち。彼らではない。
この女だ――――――。
俺は口角を上げた。
面白い――――噂だけの女ではなかったようだ。
「あんた「ご機嫌ようラシア義姉様」」
エリアスの声はアリスの声に遮られた。
「あ、ええ。ご機嫌ようアリス様」
「ハーゲ伯爵もご機嫌よう」
「挨拶もせず失礼いたしました。ご機嫌麗しゅうアリス様」
「騎士の皆様もご機嫌よう」
「「「は!アリス様ご機嫌麗しゅうございます!」」」
膝をつき挨拶をする騎士たちを立ち上がらせた後、エリアスを除く者たちと談笑し始めるアリス。
エリアスの存在を無視して振る舞うアリスに皆は何やら嫌な予感を感じたが無視するわけにもいなかいので談笑を続ける。
「おい、あんた!」
「エリアス!やめんか!!!」
「ッ!?」
存在を無視されカッとなったエリアスがアリスの肩を掴もうと手を伸ばす。それを止めようと伯爵が声を張り上げたのとエリアスが近くの木にめり込んだのはほぼ同時だった。
「ハーゲ伯爵」
「はっ!愚息が申し訳ございません」
「愚息……ねぇ」
「私の次男でラシア妃殿下の弟でございます。昔から魔力が高く、傲慢になってしまい。改心させようにも魔法で打ち負かされ、バカにされる始末でして……。お身体に触れようとするなど大変申し訳ございません」
「ふふ。生意気なところがあなたに似ているわ」
「…………私はもうあなた様とは協力していきたいと思っております故、過去のことはお忘れください」
「あら失礼。それにしても随分と手こずっているご様子。彼……私が頂いてもよろしいかしら?」
「は?頂く?」
伯爵はアリスの言葉の意味がわからず思わず聞き返した。




