17. 公爵と宰相②
「ええわかっていますよ。アリスがいなければ王家vsカサバイン家になってましたからね」
「本当に人間って怖いわよね」
「まああなたが羨ましくて仕方なかったんでしょうね」
皇太子であるオスカーを産んだあと王妃のカサバイン家に対する憎悪は増した。悪評を流したり、危険な任務を任せたり……まあもともと悪評はあったし、国の危険な任務はほとんど担っていたから特段何も支障はなかったのでスルーした。
しかし、王妃のあまりにもカサバイン家への強い執着は彼らを冤罪で投獄しようとしたり、追放しようとしたり無茶苦茶になってきた。権力には興味がないが領民のことは大事にしている彼らはこの地を追い出そうとする行為にブチギレそうだった。
カサバイン家の力によって王妃の謀略など全て粉砕してやったことで敵わないと悟ったようだったが、執着が消えたわけではない。彼女のストレスは侍女たちにむかうようになり、このままでは何かやらかすと思った王はカサバイン家を頼った。
何をふざけたことをと言いたかった、いや、目茶苦茶罵りながら言ってやったが。しかしアリスが自分が餌になると言ったのだ。家族からの擁護がない幼女なら王妃も手を出しやすい。しかし、幼いからこそ手を出すと言っても肉体を傷つけることはないからと。王妃はオスカーの母親。オスカーよりも幼いものの身体を傷つけるほど腐ってはいないと。
いやいや、心が傷つけられるだろう。それにいくら王妃でも幼子を虐めることはしないと思われた。アリスは自分は賢いから王妃が虐めやすいようにするから大丈夫だと宣った。
いやいや、それで良いのかとも思ったが、正直もう王妃の暴走を止めるには廃位するか、カサバイン家を潰すか、カサバイン家が王家を潰すかしか考えられなかった。
とりあえずやらせてみることにした。すると王妃の嫌がらせがアリス一人に集中するではないか。肉体的な攻撃はないものの精神的な攻撃はなかなかのもの。弱い子ならばあの世にいってもおかしくないほど。
しかし、アリスは笑っていた。むしろ愉しそうに今日こんなことを言われたの~。何言ってるんだかバッカじゃないの~と愉しそうに話してくれた。
アリスのヤバさ加減に引いたものの、王妃はアリスを虐める以外はもとの賢妃に戻っていった。なのでお役御免ということになったが、隣国の王子に嫁がされることになるとは。
まあ本人も自国の男は嫌だわ~と言っていたので、良かった……のか?宰相はアリスとジュリアがいると思われる庭園の方を見る。
「……何を話しているんでしょうね?」
「さあ?恨みごとかしら」
「ジュリアは純粋な子です」
「純粋な子ね~……」
「…………なんですか?」
「ただの思い違いをしていただけよ。女は皆女優よ」
「うちの子は純粋培養です」
「意味がわからないわ。あなたがどう思おうと構わないけれど……ジュリアがアリスを見る目は嫉妬まみれだったじゃない」
「……嫉妬は誰しも芽生える感情です」
「まあ我が家のアリス相手では……当然よね」
「公爵殿って意外と親バカですよね」
「あら?今気付いたの?だからこれからやることがあるのよ」
「…………左様ですか」
宰相はエレナの邪悪な笑みを見て見ぬふりした。我が家に関係ないことには関わるべからず。




