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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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133.疫病神

 アリスを蔑み、ブランクを都合よく利用した罰だろうか。彼女たちだけじゃない、取り巻きたちや身分の低い子息や令嬢たちもバカにしてきた。


 醜い心を持つから醜いものを引き寄せてしまうのだろうか。


 ならば仕方ない。


 でも、


 この子だけは


 強く胸に甥っ子を抱く。


 願わくばこの子にはあの刃が届きませんように。



「っつ!」


 強く目を瞑った彼女に届いたのは刃ではなく、トキの小さい悲鳴だった。彼女は慌てて目を開く。


 そこにいたのは


 まだ5歳の子供2人だった。


「ルビーちゃんから離れろ!」


 トキの腕に絡ませたムチを引っ張りながらラルフが叫ぶ。


「騎士が女子供に手を上げるなんて最低よ!つーか、普通に罪なき人に斬りかかるんじゃないわよ!」


 オリビアが眦を釣り上げながら叫ぶ。よっぽど怒っているのか後ろにオーラが見えるのは気のせいか……。


 驚くルビーとは裏腹にトキは冷静だった。持っていた剣でムチを斬るとそのままルビーを斬ろうとする


 が


 その切っ先は見えぬ何かに阻まれた。結界だ。


「オリビア、ナイス!」


 ラルフの声にフフンと気を良くしたオリビアは両手を口元に近付けるとふーっと思いっきり吹いた。


 キラキラと光る花びらのようなものがトキの上に舞い落ちる。とても美しい光景にこんな非常事態でありながら目を奪われるルビー。


 トキが双子を睨みつけ剣を手に二人に向かっていこうとして気づく。


 身体が動かない。


「オリビアの魔法だよ。身体を痺れさせるんだ」


「きれいでしょう?お母様直伝よ」


「いいな~オリビア。それ魔力のコントロールが難しくて僕できないんだよね」


「ラルフは大雑把だからね」


「おおらかって言ってよ」


 トキやルビーを放置しておしゃべりを始める二人にトキが床に崩れ落ちながら忌々しそうに呟く。


「クソガキが……っ!」


「「…………………………」」


「?」


 なに……?


 子供たちの様子が……。


 急に黙り込み、下を向く二人。よく見ると二人共唇を噛んでいる。それに微かに震えている。


「ねえ、どうし「「…………った」」」


 今、なんて?と口を開こうとすると


「「クソガキって言った」」


「えっ?はっ!?」


 トキが戸惑うように声を上げる。5歳の子相手に一方的にやられ、情けない声を上げる彼は非常に無様だった。が、そんな彼を気にすることなく金切り声が響く。


「「クソガキって言ったーーーーーーーーーー!!!」」


「僕たちは王族だぞ!」


「あんたなんか犯罪者でしょ!なあんであんたみたいな奥さんや身内殺そうとするクズ男にクソガキなんて言われなきゃいけないのよーーーーーーーーーー!」


 二人の周りに彼らの怒りに呼応するようにピリピリと電流のようなものが漂っている。ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人に呆気にとられる大人2名。


 これは一体どうすれば…………これは魔力の暴走か?


 どんどん電流が漂う範囲が広がっていく。いやいや、普通に怖い。


 そして、先程以上に危機的状況だ。


「お二方落ち着いてください」


 まだ若いが落ち着いた男性の声が部屋に響いた。いや、声だけでない。いつの間にか現れた男性――――二人の護衛のエリアスが電流を気にすることなく床に膝をつき二人の背中を撫でている。


「いつの間に」


「扉の影に最初からおりました」


 まじか、気づかなかった。ルビーの呟きに律儀に答えるエリアスの視線は二人に向けられたままだった。


 ――――あいつクソガキって言った

 ――――あいつ私達のこと睨みつけたのよ

 ――――あいつ子供だからってバカにしてるんだよ

 ――――あいつ不敬だよ、不敬

 ――――あいつ弱いくせに

 ――――あいつ犯罪者だよ

 ――――あいつ自分の甥っ子や奥さん傷つけようとするやばいやつだよ

 

 幼い子供らしくあいつあいつとトキを指差しながら癇癪に近い叫び声を上げる二人に律儀にうんうんと頷く様は


「お父さん?」


 その言葉にピクリと口角を震わすエリアス。


 どうやら嬉しいようだ。


 双子が落ち着いたのを確認したエリアスはトキを縛り上げ連行していく。ルビーは彼に何も言えなかった。


 いや、何を言っていいかわからなかった。


 彼に甥っ子も自分も命を狙われたのは事実。


 でも、彼に救われたのも、

 彼を愛したのも事実。


 それに……自分に向けられた優しさも嘘ではなかったと思う。


 なのに、何が起きたか未だに理解できなかった。


 彼が目の前からいなくなったら力が抜けた。頭が真っ白になり働かなかった。双子やエリアスが何やら話しかけてくるが相槌を打つだけで精一杯だった。


 彼らはそんなルビーに気を悪くする様子もなく、部屋の片付けをすると去っていった。





 ……あんぎゃー…………あんぎゃー…………


 あっ…………



 どれくらいぼーっとしていたのだろうか。己の身を守るかのようにずっと静かにしてた腕の中の甥っ子が泣き声を上げたことで意識が浮上した。


 優しく揺らしたり頭を撫でたりしても泣き止まない。


「お腹すいたかな?おしめかな?……怖かったかな?」


 殺められかけたことを覚えていないといいのだが……こればかりはもう祈るしかない。


「……それとも、寂しい?」


 なんて……そんなこと思っているのは自分か……。


「お母さんとお父さんのところに帰ろうね……」


 涙が溢れてきて止まらない。頬に当たる涙に驚いたのか甥っ子は泣くのをやめた。ぎゅっと抱き締めると頬にてしっと小さな手があたった。


「ごめんね……私のせいで」


 

 甥っ子はルビーのせいで親元から離され、その尊い命を奪われそうだったのだ。本当に申し訳ない。



 トキだってルビーと出会わなかったらこんな罪を犯さなかったかもしれない。あのときブランクだって……。ビアンカだって……。



 自分は


 人を狂わす


 疫病神なのかもしれない。










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