120.追放後のルビー④ 後悔
「嫌いな女ってアリス様?」
知っているんだ。罪状に彼女への言動は入っていないのに。平民にまで噂が広がるほどの愚行だったというわけだ。
「そう。見たことある?すっごい美人で賢くて化け物みたいに強くて……あの女を蔑ろにしてたら自分がすっごい人間になった気がした」
「…………………………」
「馬鹿にしてるのに、頼りにしてた。魔物と戦っても無傷で帰ってくるアリスを見るたびに彼女が戦うのは当たり前になってた。むしろああ今日もご苦労さまって……なんか自分がこき使ってるみたいな気になってた」
本当に自分は何様だったのだろうか。
「娼婦の人といいアリスといい誰かの為に、自身が生きる為に頑張っている人をどうして見下してたのかしらね。あはは、私って本当に自分を中心にしてしか物事を考えられない恥知らずだよね」
ルビーは自分を蔑み乾いた笑いを漏らしているのに泣いているように見えるウェンディ。少し目を伏せる。
「人間なんてそんなものでしょ。自分の都合の良いように考えるもの」
「でも」
「あんたは自分の勝手さに気づけた。それを当たり前と思わないでいけないことだって考えた。これから成長していけるチャンスなんだよ」
「でも……私たぶんなんかこれからもここに来る人に色々と嫌なこと思っちゃうかも」
「そんなもん私も思ってるから大丈夫だよ」
「マジで!?」
「マジマジ。だって忙しい時にこんなちょっとした怪我で来るんじゃないわよって思うでしょ。のろま、下手くそ、ブスなんて言われるとお前何様だよとか思ったりするわよ」
「全然わかんなかった……」
「そりゃそうよ。ムカついても笑顔ではいはいって頷いてるし、思ってもいないこと言ってることもあるもの。ルビー、人間って思ってること以外も口に出せるんだからね?」
「そ……そんなことはわかってるわよ」
わかってはいるが好き勝手言いたい放題の人生を歩んできた。改められるだろうか。
「ここでの生活だって忙しいしムカツクことも面倒だと思うこともあるよ。でも基本的に人助けじゃん?自分が何かすることで誰かの助けになってるんだよ?それって自分を誇れるっていうか好きになれるっていうか……」
ゴニョゴニョと最後の方は恥ずかしそうに話すウェンディ。
誰かの助けになる……そんなこと思ったことない。何もしなくても存在自体が至高。そんな風に思っていた。
なんか恥ずかしい。
ばっかみたい。
なんて自分は格好悪い人間なんだろう。
「過去のことなんて考えたって仕方ないわよ。これからよ、これから!あんたはまだ生きてるんだから」
ルビーの脳裏に今日目の前で泣き叫んでいた女性と命の灯火が消えた女性が浮かぶ。
「変われるかしら」
人は皆いつかその命を失う。そのとき悲しんでくれる人がいて欲しい。
「あんたがそう思うならきっと」
ウェンディの笑顔が眩しい。
変わりたい。いなくなって良かったと思われる人間ではいたくない。
変わりたいとは思う。でも……
人の為に変わろうと思えない自分は人でなしだろうか?今なお自分のことを中心に考えてしまう自分は最低な人間だろうか?
くすっ
口から軽く笑みが溢れるルビー。
あの女……アリスならこう言いそうだ。
『 人の為に変わろうとするルビーさん?
えっ、気色悪い 』
と。




