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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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113.突撃ルビー宅

 と思ったのに……



 翌日。


「アリスこれはなんだい?」


 ブランクの前には丁寧にラッピングされた長方形の箱。


「ルビーさんに渡す御礼の品ですよ」


「じゃあ誰かに使いを……」


「あら、可愛い我が子たちを保護していただいたのに直接お礼を言わないのは失礼でしょう?」


「「失礼!失礼!」」


 双子の口から失礼コールが発される。


「昨日言っていたことはなんだったんだい?」


「それはそれ、これはこれ。親としてお礼はするべきでしょう?」


「確かにそうだけれど。むしろ会わないのがお礼になるんじゃないかい?」


「昔ルビーさんには色々迷惑をかけられたので彼女の気持ちはどうでも良いではありませんか」


「お礼じゃなくて、嫌がらせ!?なんの為に行くんだよ!?」


 頭の中が大混乱のブランク。アリスはちらりと双子に視線を向けると二人はコクリと頷く。


「ねえお父様~。昨日の優しいお姉さんにまた会いたいよ~」


「迷子?って声かけてくれたのお姉さん一人だけだったんだよ~?ありがとうって言いたいよ~」


「そ、それは」


 可愛いツインズがお目々をキラキラさせておねだりしてくる様に心が揺れる。


「はっ!でもルビーがどこにいるか私は知らない!」


 だから行けない。


「ノラ修道院行きの王命が下されたのです。ノラ修道院でこき使われているでしょう」

 

 ……それはそうだ。

 いや、まだだ。


「いや、でも住まいであると同時に労働の場でもあるんだよ?そんなところに押しかけたら迷惑だろう?」


 な、もう諦めよう?とばかりにアリスに情けない視線を送るブランク。そんな夫に向け1枚の紙を無言で差し出すアリス。


「これは?」


「彼女は今修道院では暮らしておりません。今の住まいはこちらの紙に書いてある住所にあります。ちなみに今日彼女は家にいるようですよ。さあ、居場所がわかったことですし皆で行ってらっしゃい」


「「は――――い!お母様行ってきます!」」


「じゃ、じゃあアリス。君も一緒に……」


「まあ!ルビーさんが私に会いたいはずないでしょう?」


 そんな無茶苦茶な。彼女は自分にだって会いたくないはず。しかし……


 早く早くと目を輝かせる子供たちを前にしてNoとは言えないブランク。


「はい……」


 小さく返事をした後、ラルフとオリビアと共にアリスに渡された紙に書かれた住所に向かうことになった。






 ――――――――――




 ルビー宅にて



 なぜここに?

 ルビーは家の中で一人困惑していた。



「御免下さーい!昨日子供たちを保護していただいた者ですー!」


 外から聞き覚えのありすぎる声が聞こえてくる。嫌だ、会いたくない。まあいい。黙っていれば帰るだろう。


「留守かもしれないね。一旦王宮に戻ろうか?」


 おっしゃあ!いいぞブランク!

 そのまま帰って二度と来るな。


「いるよ」


「居留守ね」


「え?」


「人の気配がするもの」


「「お姉さ~~~ん!あ~け~て~!」」


 こんのガキ共が、余計なことを。それに人様の家の前で騒ぐなんて、嫌がらせか!


 そんなことを考えて、ちょっと笑ってしまった。


 この非常識さ……あの女の子供達らしい。


「扉壊して入っちゃおうか?」


「いい考えね」


「こらこら、非常時でもないのに人様の家の扉を壊したらいけないよ」


「「直せば問題なしだよ」」


 そういう問題じゃないでしょうが!


 その発想、非常識なあの女にそっくり……そっくり……?


 扉を壊す……?

 やりかねない!


 慌てて玄関の扉を開けると


「「うひょー!」」


 子供たちの驚きの声。そして目の前には子供たちの靴の裏がドアップにあった。


 あ……あぶな


「「お姉さん急に開けたら危ないよ!」」


 宙に浮いたままの双子が叫ぶ。


「蹴り開けようとするんじゃないわよクソガキがあ!」


 きょとんとする目の前の王族3人。


 あっ……つい乱暴な言葉が。ノラ修道院には品のないお金のない人が数多く訪れる。貴族時代では考えられない言葉も使ってしまうようになった。


 不敬。


 不敬罪……。


 いや、ここはスルーだ。幸いなことに怒っている様子ではない。何事もなかったようにするべし。


「ん、んんっ。何かご用でしょうか?」


「あっ、えっと……昨日は子供たちを保護していただきありがとうございました。宜しければこちら召し上がってください」


 平民相手に王族が丁寧な言葉を使いそっと差し出されるお菓子。なぜ王族がそんな丁寧な言動をするのか……恐らくブランクもどう接していいのかわからないのだろう。


「「ありがとうございましたー」」


 父親に続き双子もペコリと頭を下げる。幼く見目麗しい子供たちが礼儀正しくお礼を言う姿に思わずほっこりと和んでしまいそうになる。


 違う違う。いかんいかん。


「いえ、ただ声を掛けただけで王族の方にお礼を言われるなど恐れ多いことでございます。せっかくですのでこちらはありがたくいただきます。ご丁寧にありがとうございました」

 

 もう二度と会いませんように。



 扉を閉めようとしたとき、



 ……………あんぎゃあ、あんぎゃあ、あんぎゃあ


 家の中から赤子の泣き声が聞こえてきた。


 あっ…………


「赤ちゃんいるの?」


「見たい見たい!」


 なんと!?


「王族の方々に見ていただくような特別な子では……」


「ルビー子供がいるのかい?」


 そう問うブランクの目には見たい見たいと書かれていた。3人の期待に満ちたキラキラした目に負けたルビーは彼らを家に迎え入れた。





「「「かわいーい」」」


 キャッキャキャッキャとベビーベッドに寝転がる生後2ヶ月程の赤子を取り囲む王族たち。


 なぜ家の中に王族が……。


 家に入れたのは自分だが、なんだか頭がくらくらしてきた。だがこうやって見ると先程までアリスの子供という感じだったがブランクの子供でもあるという感じがしてきた。


 反応が似ている。


 赤ちゃんを囲み盛り上がる様は仲良し親子だ。皆美形なのでとても絵になる。絵になるのだが…………




 早く帰ってくれないだろうか。






 二度と会うことはないと思っていた相手との再会。アリスとの縁もあのときに切れたと思ったのに。



 なのに



 なぜあの女の子供が家の中にいるのだろうか。



 いや、まあ自分が双子に声をかけたからなのだが





 そうあのとき見て見ぬふりをすれば良かったのに


 なぜ自分は声を掛けてしまったのか。




 






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