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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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111.再会

 はあ……はあ……はあ……


 とても有り難い。


 蝶さん、君がいなかったらどこに行っていいかわからなかったよ。君がいなければあちこち走り回ることになっていたよ。


 本当に本当に有り難い。感謝している。


 が……


 速い!

 蝶さん速い!


 ヒラヒラヒラヒラと優美な動きなのになぜそんなにも速いのか……!?


 見失うと戻ってきてくれるのではぐれることはないのだが、速さが一定なので戻ってきても優雅に猛スピードで飛んでいく。


 休みたい。だが休んでいる場合ではない!可愛い我が子たちに何かあったら……。少しでも早く子供たちの元へ……!


 そんな思いが原動力となりブランクは身体を動かし続けた。



 ―――――あれは


 ブランクの目に安堵の涙が浮かぶ。


 我が子達の後ろ姿が視界に入る。誰かと話しているようだが王宮の外に出るときに言いつけられている魔法で変えた茶色の髪の毛、平民の中に混ざっても溢れる優雅な佇まい。間違いない!


 駆け寄り膝をつき後ろから抱きしめる。


「みいつけた!」


 振り返るのは類稀なる美貌を持つ双子。


「お父様!」


「遅いよ~」


「王宮から出たら駄目だろう?」


「「え~そんなルール言ってなかったじゃ~ん」」


 アリスの子だ。見た目もアリスなら言うこともアリスだ。


「そうだな。それは父様が悪かった。でも君たちは王族だし危ない人に狙われる可能性が高いから簡単に王宮の外に出ちゃ駄目だよ」


「え~エリアスもついているのに?お母様のお守りも持っているのに?」


 双子の視線の先、彼らから少し離れたところにクリーム色の髪の毛の青年が立っていた。双子の耳やら胸元にはアリス自ら作ったアクセサリーがあり、どのものにも中心に見事な魔法石が輝いている。


 凄腕の護衛もいる。離れていてもアリスが子供たちを守っている。きっとどこの王族よりも鉄壁の守りと言えるだろう。


 でも


「そうだなお前たちには母様もエリアスもついている。それでも父様はお前たちが急にいなくなったら誰かに連れ去られたんじゃないか、何か危ない目にあっていないかって心配になってしまうんだよ。君たちはまだ幼く父様の可愛い可愛い子供たちだからな。だから侍女や父様に黙って王宮の外に出てはいけないよ?」


「うーん……わかった!侍女には言ってきたけど今度からは父様にも言うね」


 少し恥ずかしそうに、どこか嬉しそうな表情とともに発された言葉にブランクは固まる。


 うん?


「侍女には言ってあったのかい?ラルフ」


「うん。王宮の外に隠れるけど見つかりたくないからお父様には秘密ねって。エリアスをちゃんと連れていくんですよって言われた」


 なんと!?侍女たちの子供たちへの忠誠心すごっ!こちとら必死に子供たちを探していたのに。


 ちょっと悲しくなった。


「そうよねお父様に心配を掛けたら駄目よね!お父様が禿げたら嫌だもの!」


 禿げる?


「なんのことだい?オリビア」


「「お母様がお父様に心労をかけたらお父様の頭がハーゲ伯爵みたいにツルピカになるわよって言ってた」」


「あははは……そうかい」

 

 そんな簡単になるもんか、と思いつつブランクは気づく。


 そういえば子供たちは誰かと一緒にいたはず。子供が二人で歩いていたので声をかけてくれたのだろうか。お礼を言わねば。立ち上がり相手の顔を見る。


 ブランクは目を見開いた。ブランクの口からこぼれ落ちる相手の名前は――――





「ルビー」



 ブランクの目の前にいたのは彼の初恋の相手にして、修道院送りになったルビーだった。


 



 ――――――――――


 


 王宮の庭園にて



「王妃様、夫が無事に子供たちを見つけたようですわ」


「そう。それは良かったわ。…………ブランクはルビーと再会したということね」


「夫が羨ましい。私もルビーさんにお会いしたかったわ」


「夫があんなに恋い焦がれた相手と会っているというのに呑気ね」


「私がそんなことを気にすると?」


「まさかそんなこと思うわけないでしょう?で?」


「で?とは?」


「何を企んでいるの?」


「偶然ですわ」


「本当に?」


 優雅にお茶を口にするアリスからは何も読み取れない。


 本当に偶然?


 それとも……


「我が子達もルビーさんも私の操り人形ではありません。意のままに操ることなどできませんわ。我が子達とルビーさんの出会いは運命でしょう」


 うん?我が子達とルビー?


「ブランクとルビーの再会についてはどうも思わないのかしら?」


「子供命の夫がルビーさんに誑かされるわけもなし。夫が子供たちに恥ずべき行いをするとでも?」


「それはないわね」


 王妃はカップに口をつけながらちらりとアリスを見る。




 ではアリス


 なぜあなたは


 そんなにも愉しそうに


 嘲笑っているのかしら?


 その笑みが向かう先には誰がいるのかしら?



「それにしても……ルビーさんは運がいいですわねぇ。そして……私も……………」



 その呟きはその場にいるものを困惑させたが、


 聞き返すものは誰もいなかった。




 その呟きの意味がわかるのはもう暫く先の未来。






 

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