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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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帰郷遊戯⑭

「「アリス」」


 二人の咎めるような声が揃う。


「フフッ。人間性がどうであれあなた様が優れた王妃であったのは事実。ジュリアも賢いし優秀です。ですが、あなた様ほど人を従えることはできないでしょう。それにオスカーは人間性を重視しすぎる。


 あなたのように不要なものを虐げることはしてはいけない、もちろんその通り。でも……わざわざ無能を持ち上げる必要もない。大事大事にする必要もない。


 血がつながっているから、愛する子供の子供だから……自然と愛せる?一般的に湧き上がる感情かもしれませんが、全ての人がそうではありません。まして王族がそのような甘ちゃんな考えでは…………ねえ?


 だからあなた様の気持ちもわかるのですよ?無能が有能な者、役に立つ者と同等の扱いをうけるなんて納得いきませんよね?かつて王国を支えてきた王族と同じ扱いなどしたくないですよね?


 でもやり過ぎですわ。王族としての必要最低限の扱いはしていればよかったのです。そもそも王族の子育てなど乳母任せ、教師任せではありませんか。関係など希薄なもの。


 今までの王族が受けてきた儀式や慣例などだけはしておけば良かったのです。生誕パーティだって……」


「民の税を無駄に使う必要などないわ」


「まあ怖い。でもアナベル姫に対する評価は時期尚早では?成長して使える人間になるかもしれませんよ?それにたとえ無能であったとしても他国に嫁にやれる時点で役に立つではありませんか」


「幼児相手であろうと見る目はあるつもりよ」


「大層な自信ですね。それにしても人とは面倒なものです。無能な者を虐げると酷い、可哀想だと騒ぐくせに無能な者が厚遇を受けると何様だ、税を何だと思っているんだと騒ぐ。侮蔑の視線を向ける。


 そしてそれを王族なのに無能なのが悪いと自分を正当化する。民とは勝手なものです。アナベル姫に彼らの視線が向かわないと良いですね」


「オスカーならばうまくやるわ」


「オスカーはあなたの子どもとは思えないくらい甘ちゃんです。人が親や子供、孫を溺愛するのは当たり前。血がつながっているのだから自然と家族になるのだ、と思っている。


 母から自分の娘を守るというのは格好良いように見えますが、国にとっては損害を与えていることに気づいているのでしょうか?


 アナベル姫は乳母も侍女も高いお洋服も、お食事も与えられている。ちゃんと姫扱いされている。ご両親からも祖父からも大切にされている。あなたの目を気にして貴族たちもあまり姫を受け入れないように見せていますが、次代の王たるオスカーの溺愛ぶりを見れば近い将来、掌返しするでしょう。


 オスカーは優秀です。臣下の扱いもうまい。けれど少し家族愛が強く、情にもろい。母親を裏切ってまで現状を変えないといけないのかと思ってしまうのは私だけなのでしょうか?」


「…………さあ。人にはそれぞれ考えがあるものだわ」


「あなた様は私やカサバイン家を目の敵にしており、色々やらかしています。しかし結果それで誰か命を落としたり職を失ったものがいるわけでもない。自分に対抗できる者、虐めても大してダメージを与えられない者を鬱憤ばらしの相手としています。


 アナベル姫だって、あなたの愛情がないくらい何だというのでしょうね?王族は民を守らねばなりません。無能に民が守れるでしょうか?王族として価値のある者を可愛がり優遇するのが悪いとは思えませんが。


 ただ王族の血を引くだけで何も役に立たぬ者と立つ者が全く同じ扱いや待遇を受けられる。同等に扱うなど優れている者に失礼と思ってしまいますね。私なら……ですが」


「あなた……友人やその子どもをそんなに見下して楽しい?」


「フフッ私はこういう考えだと言っているだけです。でも

………………他国に嫁いでいった身。他国の人間からすれば大国が衰弱していくのは少し楽しみであったりもしますね。


 オスカーやジュリアはあなた様ほど冷酷にはなれない。それがこの国を衰退させていくかもしれない」


 とても楽しそうに笑っている。


「あなた……最低ね。友の苦境を楽しむなんて」


「フフっ。べつにオスカーやジュリアができない人間とは言っておりませんよ。でも貴方様に比べたら少々思うところはあると言っているだけです。衰退といっても全盛期から盛期になるくらいのことだと思いますよ。でもあなたにはとてつもない悲劇でしょう?」


「あなたたち……友なのよね?」


「友であり、敵です。他国に嫁いだ身ですので」


「あなたを他国にやったのは失敗だったわね」


「今更ですわ」


「…………友にそのような言動、私以上の化け物ね」


「内緒ですよ。友としては好き……。でも他国の皇太子、皇太子妃としてどう思うかはまた別物というものでしょう?」


「あなたの言うようにアナベルが何かに開花するかもしれないわよ」


「私はベラドンナ様の人を見る目は自分よりも上だと思っております。そのあなた様が幼子とはいえ無能と判断したのなら……。まあ次のお子様に期待しましょう?


 それに比べうちの子達は魔力量が有り余っているようで困りますわ~!カサバイン家の我が姪っ子甥っ子にもあそこまでの魔力量を持つ者はいないようですし……。もしかして、我が国のほうが将来的に強国になったりするかもしれないですね?」


 小首を傾げてフフッと笑うアリス。


 何がね?だ。本当にこの女は性格が悪い。軽く睨みつけるベラドンナにアリスは思い出したと言いたげに軽く言い放つ。


「ああ、敗者は勝者の言うことに従わねばならぬもの。勝者から一言。寿命尽きるまで生きてくださいね」


「………………承知したわ」


「では失礼致します。陛下、ベラドンナ様」


 ドアから出ていくアリス。


 軽い口約束。破ったとしてもなんら問題はない。



 だが、



 なぜかあの世に行ったら負けのような気がして…………




 生きようと思った。


 



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