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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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帰郷遊戯⑧

 王妃の心底どうでも良さげな様子を見て、攻める方向を変えるアリス。


「ジュリアも傷ついております。昔から私に対する冷酷な態度が嘘のように彼女を可愛がっておられたではありませんか。彼女のことは考えないのですか?」


「人を見る目には自信があったのだけれど。美しく、賢く、血筋よく、前に出過ぎず、私に歯向かう強さを持たぬ子。オスカーを引き立てるのに一番条件の良い子……でもまさかあんな娘を産むとはね。


 子供のことは天の采配だから仕方ないけれど、正直残念ではあるわ。でも次の子がお腹の中にいるし、次代に繋ぐ役割は果たしているから可愛いと思っているわよ。じゃなければさっさと側室を迎えたり、事故にあってもらったりしているわよ。可愛いけれど……彼女の気持ちはどうでも良いわ。王家の者に情など不要よ」


 王妃にとってはジュリアもただの道具。アリスを蔑ろにする為、オスカーを引き立てるのに一番良い条件を持った女性がジュリアだっただけに過ぎない。


「王妃様は心が氷でできているかのように冷たいですね。情は不要と言いますが、オスカーに並々ならぬ情をかけているように見えますが」


「ふふっ、氷であろうと心は心。温かくなくてはならないと誰が決めたのかしら。温かいから心が美しいの?過剰な正義、偽善はときに人を傷つけることだってあると思うのだけれど?……私だって人間だもの自分のお腹を痛めた子にくらい情はあるわ」


「…………………………」


 王家に情などいらないと言いつつ、息子には過剰な愛情を注いでいる。無茶苦茶だ。


「アリス。貴方は私がオスカーに与えたかったものを全て持っているわ。美貌も頭脳も魔力も。そして更には理想的な子供まで。なぜこの世はこんなにも不公平なのかしらね」


「王妃様も十分お持ちでしょう?」


「一般的に見れば……ね。でも私以上に貴方達の方が持っているわ。羨ましくて仕方ない。本当に妬ましい程に…………」


 ねっとりとした声音を放つ王妃の目に宿るは欲望、狂気。


「自分の欲に振り回されてはならないかと」


「ふふっ、人間は欲深い生き物よ。もっともっとと際限なく求めるもの。もうこれで良いと思える貴方達の方が化け物だと私は思うわよ」


 小首を傾げ、ひっそりと囁く姿は異様だ。


「……わかりあえないようですね」


「そんなのは昔からわかっていたでしょう?でもアリス……その言葉は適切ではないわ。オスカーやジュリアと私の考えは違いすぎる。でもあなたは私の心がわかるはずよ。あなたは誰よりも私を理解しているもの」


「……失礼致します」


 どれだけ話しても平行線だ。だがそれで良い。それでこそ王妃は動き出す。彼女は売られたケンカは買う人間だ。エレナとアリスは席を立つ。


「ねえアリス。貴方も何か一つくらい失ってみると良いんじゃないかしら……?」


 王妃が向ける視線の先にはラルフとオリビア。



「王妃様……そこまで墜ちますか?」


 アリスの静かな問いかけに、毒花が咲く王妃の顔。


 使用人の手によって扉が開けられる。一歩足を踏み出したアリスに声がかけられる。


「明日、久しぶりにチェスをしましょう?もちろん格下の国の王子妃如きが大国の王妃からのお誘いを断らないわよね?」


 傲慢不遜な言葉。されどそれが許されるのが大国の王妃。


「…………もちろんです。とても楽しみですわ」


 完全に扉が閉まるまで、二人の視線は絡み合ったままだった。



~~~~~~~~~~


「想定外ね……」


 途中から黙って王妃とアリスの話を聞いていただけのエレナが声をあげた。


「あの王妃のことだから劣等感を刺激すればするほど、とことん矛先をあなたに向けると思ったのだけれど。まさかこの子達に向けられるとは」


 エレナの視線が双子に向けられる。祖母や母の心など知らぬとばかりに愛らしい笑顔を見せてくれる。


「王妃様はどんどん狂っていかれますね」


「歯止めが効かなくなってきているのかしらね。それだけその座は重いのかもしれないわね」


「絶対に座りたくないですね」


「そうね」


 シーンと途絶える二人の会話。


「で……どうするの?ダイラス国に帰るの?」


「帰りませんよ。ジュリアのことも放っておけませんし。何より戻ったところで何かされる恐れがあるのなら、ここで方を付けます。今なら貴方方も宰相家も王も皇太子も私が何をしようと目を瞑るでしょう。皇太子の策通りに動きたいと思います」


「うちは動かないわよ」


「結構です。動かないというのが私にとっては重要です」


「そう…………」




~~~~~~~~~~



 部屋に戻ったアリスは公爵を追い出し、イリスとフランクだけ残した。長い事話し合いは続けられた。




 話し合いの後、アリスはラルフとオリビアの寝顔を見ていた。愛らしい寝顔。ずーーーっと見ていられる。そっと二人の頬を撫でる。


「危ない目に合わせることになるわ……ごめんね。化け物の子供は化け物ね。我が子を危険な目に合わせるとわかっていながら利用しようとしているのだから……」


 でも必ず守る。

 弱気になるな。弱気になったら勝てる勝負も勝てない。


 

 強い覚悟が宿る瞳。



 もし守れなかったときは、共に逝けば良い。

 それだけだ。

 自分に言い聞かす。


 ゆっくりと目を瞑り開く。



 開いたその目にはいつもの余裕が浮かび、

 愚者の末路を思い描く……



 嘲笑が浮かんでいた。




 



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