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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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帰郷遊戯①

 ~ ガルベラ王国王宮 ~


 王妃の執務室から声がする。中には王妃と彼女の息子で皇太子のオスカー、皇太子妃のジュリアがいた。


「お義母様、お願いです」


 お義母様ーーー王妃に懇願するのはジュリアだ。


「無駄なことをする必要はないわ」


「孫のお披露目が誕生会が無駄だと言うのですか?アナベルはまだ一度も皆の前に出たことはありません。もうすぐ2歳です。2歳の誕生日祝いとお披露目をさせて頂けないでしょうか?」


 アナベルとはオスカーとジュリアの長女である。赤銅色の瞳と髪の毛を持つ母親の特色を受け継いだ女の子。


「アナベルはまだ幼いし身体も弱いでしょう?あなたも懐妊中なのよ?無理をする必要はないと言っているのよ。それに懐妊祝賀パーティを開くのだから直近で二つもパーティをするなんて税の無駄遣いだわ。準備だって大変だし、何よりも次代の皇太子に何かあったらどうするの?」


 ジュリアは今第二子を妊娠中、あと6ヶ月程で産まれる予定だ。


「母上、お腹の子が男の子と決めつけるのはおやめください。それに懐妊祝賀パーティ兼アナベルの誕生パーティとすれば良いではありませんか。我が王族は産まれたらすぐにお披露目するのが慣例です。アナベルも……」


 黙ってしまったジュリアに代わりオスカーが母親に物申す。


「一つに纏めるなどお腹の子が可哀想でしょう?」


「アナベルは可哀想ではないと?なぜアナベルをいない者のように扱うのですか?」


「私はジュリアの身体とお腹の子に何かあったらいけないと言っているでしょう?アナベルも丈夫ではないでしょう?」


 オスカーの言葉に王妃はとても穏やかな笑みで答える。まるで聞き分けのない子に言い聞かせるように。


「アナベルは丈夫です。とても健やかに育っております!誕生会の開催の許可は陛下からも得ております!」


「王家や後宮の女は私の管理です。陛下も皇太子も口出しは無用です。さあもう出てお行きなさい。私は忙しいのです」


「母上!!」


 完全に二人に背を向けてしまった王妃を見て、渋々部屋を出る。


「オスカー……」


「大丈夫だ」


「私が王妃様の理想のお子を産めなかったから……」


 目からツーと涙が溢れるジュリア。


「やめるんだ。それはアナベルを貶める言葉だ。君はアナベルが可愛くないのかい?」


「そんなことないっ!可愛い可愛い私の大切な娘だわ」


 王妃はアナベルをいない者のように扱っている。それは彼女の求める王族像をアナベルが持っていないから、ただそれだけの理由で。王妃の態度により貴族間ではアナベルを未だに王家の娘として受け入れない雰囲気になっている。


「私にとってもそうだよ。それに、母上をこのままにはしない。少々やることが度を過ぎている。気に入らないものを徹底的に蔑ろにするなど王妃のすることではない。必ず私達の娘を王家の娘として皆に認めさせてみせるからもう少し待ってくれ」


 安心させるためであろうオスカーの言葉に、ゾッとするジュリア。とてつもない不安を感じるのは気のせいだろうか。


「一体何をするつもりなの?」


「それはまだ秘密だ。でも私を信じて欲しい」


 もう既に根回しは始めている。あちらにもこちらにも。そして誰よりも今回の企みに関わるべき彼女にも………………。不安げなジュリアとは違い非常に腹黒い笑みを浮かべるオスカーだった。




 ~ガルベラ王国 カサバイン邸~


「はあーーーーーーっ…………」


 公爵執務室にて盛大なため息をつくのは当主のエレナだ。彼女の視線の先には手紙の山。そばに侍る侍女長及び専属侍女たちはその悩ましげな表情に感嘆の吐息が出そうになるのを堪える。


 ドカーーーン!!!

 

 邸内が大きい音とともに僅かに揺れた。


 あっ、壁に穴空いたーーー侍女は察した。


『こら、待ちなさい!』


『誰が待つかババア!』


『誰がババアよ!たったの4つ違いでしょうが!』


『ミ・ケ・ン・ニ・シ・ワ・ダ・ヨ!オ・ネ・エ・サ・マ!』


『あんたに怒ってるからできてるだけでしょうがーーー!』


 犯人はお孫様たちかーーー。


 エレナの次男ミカエラのところの姉弟だ。12歳と8歳。弟の生意気さが増し、姉は苛つきが増すといったところだ。


 ドカーーーーン!!!


 あっ、もう1箇所壁に穴空いたーーー。



 エレナの手がスッと上がり、机をバンッと叩く……



 ピシャッ!


『きゃっ』


『うおっ、あっぶな』


 あっ、雷落ちたーーー。



 その後は執務室に静寂が戻る。


「はあーーーーーーっ…………」


 再びエレナの口から深ーーーいため息が漏れた。





 ~ガルベラ王国 エベレスク侯爵邸~


「うーーーーーーーーーっ」


 先程から執務机で頭を抱えてうーうーうーうー唸っているのはジュリアの父であるガルベラ王国の宰相だ。彼の前には大量の手紙が積まれている。


「父上、そんなに悩まれることなのでしょうか?悪い話ではないと思うのですが……」


「うーーーーーーーーーっ」


「……父上、聞いてますか?うーうーうーうーと。…………お便秘ですか?トイレで力んでくださいね」


「馬鹿たれ」


「いてっ」


 スネを蹴られて涙を浮かべるのは彼の長男だ。彼は先程からずっと父親の隣に立っていた。


「お前はもう良い年だというのに……変なことばかり言いおって」


 父親からはこのような言われようだが、宰相補佐を務める彼は次期宰相間違い無しと言われるほど優秀な人物だ。


「悩ましいことはわかっておりますし、簡単に返事をすることが難しいのもわかっております。が私個人の意見としては応と言って欲しいですね…………って聞いてます?」


「うーーーーーーーーーっ」


 また唸りだす宰相に


「はーーーーーーーーーっ」


 長男の大きなため息が重なった。




 

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