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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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100/186

100. 赤っ恥

 玉座の間に響き渡るイリスの悲鳴。


 ざわざわとしていた場が彼女の誰よりも大きな悲鳴で静まり返る。この騒ぎの仕掛け人であるブランクも呆気に取られ動きを止める。静寂を破ったのは後からちょっとのんびりめにきたアリスだった。


「イリス」


「あ……あ……アリス様……」


「あら、金魚みたいよ」


 口をパクパクさせるイリスをからかうアリス。


「懐かしいっすね~」


「そうでしょ~」


 フランクの言葉にうんうんと頷くアリス。


 イリスの悲鳴に始まり、特に焦るでもなく呑気におしゃべりしているアリスに王妃が焦ったように声を掛ける。


「あ……アリス……魔物が」


「はいはい、わかっておりますよ。王妃様」


「何を呑気な…………!」


 こめかみに青筋が浮かんでいる。普通に怖い。


「まあまあ王妃様。冷静になられませ」


「んなっ!こんなときに冷静でいられるものですかっ!」


「あらあら優雅な王妃様でも取り乱すことがあるのですね」


 驚きですわ~とコロコロと笑うアリスに苛ついてくる王妃。そして気づく


「…………魔物が……襲ってこない?」


 王妃の呟きにその場は少しずつ騒がしくなる。


 ーーーーーおかしいよな。

 ーーーーー誰か襲われたか?

 ーーーーーいや、ていうか


「あれ…………動いてないよな?」


 魔物は何やらゆらゆらと僅かに揺れているが、それ以外の動きがない。


 兵士たちが盾を構えつつ剣先をでかい魔物ーケルベロスに向けて近づく。一人の兵が剣で軽く突っつく。


 

 スカッ。


 スカッ?


 ???


 何がおきた?


 もう一度突っつく。


 スカッ。


 剣先は空を切った。


 彼に背後から忍び寄る影。


「ドーーーーーーーーン!!!」


 大きな声と同時に一人の兵士が背中をドンッと押される。犯人は勿論アリスだ。


「うおっ!」


 ケルベロスに向かってダイブする兵士。彼はとっさに目を瞑る。彼が感じるは牙か、鋭い爪か、モフモフの毛か。


 バタンッ!


 彼が感じたのは床に打ち付けられた身体の痛みだった。ノロノロと起き上がった彼の姿に周りからうおっ!と驚きの声が上がる。


 彼はケルベロスの身体の真ん中に突っ立っていた。


 まじまじと観察する周囲の者。


「なんかこれ微妙に色薄くないか?」


「いや、薄いっていうか……少しだけ透けてるような」


 あちこちで同じような声が上がる。



「な……な…………な…………………」


 自分の思っていたような展開とならないブランクは叫ぶ。


「何だよ!動け!動けよ!!!」


 彼がどれだけ声を張り上げようとゆらゆらと風に揺らめくようにしか動かない魔物。


「無駄ですよ」


「何が無駄だ!うるさい!これはルビーが僕にくれた贈り物なんだ!!!」


「まあ……ルビー嬢もこの阿呆くさい脅迫に加担されているのですか?」


「阿呆くさい?脅迫?誰がそんなことした!?僕はちょっとお願いを聞いてもらおうとしているだけだ!」


 ブランクの言葉に静まり返る場。冷たい空気が漂う冷たい視線がブランクに集まる。


「アリス」


「はい、陛下」


「ブランクのことは良い。何がどうなっているのか説明してもらえないだろうか?」


 困惑と、どことなく安堵も見える王の顔。魔物により国が侵略されることはなさそうだと判断したよう。


「承知致しました陛下」


 胸に手を当て恭しく頭を下げるアリス。今回の騒動を起こしたのはブランクだが、なぜこんな事態になっているかは本人もわかっていない。わかっているのは此度の件とは関係ないアリスのみ。


 関係ないん……だよな?王は胸に何やらもやもやしたものを感じるが知らぬふりをする。


 アリスが口を開く。


「まずブランク様が魔導書を手に入れ、比類なき力を手に入れたと勘違いし、脅迫?謀反?彼曰く、陛下にお願いをするためにこんな騒ぎを起こしたわけですが……」


 皆がブランクを見る目が更に冷たくなる。突き刺さる視線にブランクは顔を伏せる。


「そもそもそれは魔導書ではありません。それは「アリス様!」」


 叫んだのはイリスだった。向けられる視線に気まずそうにしながらも言葉を紡ぎ出す。


「アリス様……言わねばなりませんか?」


「イリス……これも真実を明らかにする為よ」


 イリスの悲痛な声とアリスの悲しげな声。


 イリスの顔には青筋が浮かび震えている。そしてアリスの顔は笑いをこらえている。イリスは唇を噛み締めながら護衛のフランクの隣まで下がる。何やらブツブツ呟いているが隣のフランクに窘められている。


「侍女が失礼致しました。話をもとに戻しましょう。これは彼女が作った魔導書ならぬ、魔法研鑚魔力貯蓄書にございます」


 ??????????


 何だそれは。


 アリス、イリス、フランクを除く全ての人が不思議そうな顔をする。


「細かいことは省きますが、彼女は一時それはそれはもう懸命に魔法の腕を磨こうと研鑚する日々にございました。そして私もちょこっと魔力コントロールを鍛える助言をしたのです。自分のイメージするものを立体的に可視化してみては……と。これ殆どの人はできないんですよ。魔力を可視化していますからね。魔物はイメージ対象として良いのですよ。細かいですし。細部まで再現するのは非常に難しいですから」


「は……はあ」


 陛下から少々気の抜けたような声が漏れた。何を言っているかよくわからない。


「その後まあ色々なことがあり……。有り余る魔力をもて余し、時には暴走しそうなこともありました。なので身体が爆発する前に魔力を外に出しちゃえば良いのじゃない?となりました」


「ほ……ほう」


 気が抜けたような相槌を打つ陛下に律儀な方だな……と周囲の者からの好感度が何気に上がる。


「魔法石にするかとも思ったのですが、それでは面白くない」


 面白くない。面白い面白くないで魔法石を作る作らない決めるんだ……。一体いくらになったことだろう。自分だったら魔法石作って売る。お金持ちはいいなー……。


「なのでお手製の本を作りイリスの魔力を放り込み、召喚という言葉の合図で彼女が作り出した映像が出現するようにしたのです。そこの本から魔力が流れ同じ模様のところに出現するようにしたんですよ。しかけ絵本みたいでございましょ?」


 なんて傍迷惑なしかけ絵本だ。


「ちなみにその紋様を考え描いたのもイリスなのですよ。その魔物にあったイメージで作ったそうです。本当に私の侍女は想像力豊かで、手先も器用で……自慢の侍女ですわ~」


 オッホッホッホと高笑いするアリスに皆無言で、イリスを横目で見る。彼女は両手で顔を覆っていた。隙間から見える彼女の顔は真っ赤だった。


 気の毒に………………。


「…………アリス。それがどういったものかはよくわからないままだが。とりあえず魔導書ではないのはわかった。が、なぜそれがブランクのもとにあるのだ?」







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