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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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1. 公爵家の末っ子娘誕生①

 ………………オギャーオギャー……オギャーオギャー……


「産まれたか」


 深夜、静まり返っていた廊下に産声が響き渡る。ポツリと言葉をこぼしたのは長身の銀髪に紫の瞳を持つ男。その顔は彫刻家が魂を込めた作品のように美しい。誕生したのはとても元気な子のようだ。


 室内に入ると金髪の女性がベッドにグタリと横たわっている。その横にはオギャーオギャーと元気よく泣く金色の髪の毛を持つ産まれたての赤子がいた。


「エレナ」


「………………」


「エレナ…………?」


「………………」


 金髪の女性はエレナ・カサバイン。ここガルベラ王国にて王家の血もひく公爵家の娘。そして現在は女だてらに公爵を務める女傑。女神も嫉妬するであろう美貌を持つ彼女だが現在は青ざめて、やつれている。そして海を思わせる碧い瞳は現在は閉じられて見ることができない。


 妻の様子に妻に負けず劣らず顔を青ざめさせたロナルド・カサバイン。侯爵家出身の現・公爵の夫。彼はエレナの両肩をがしっ!と掴み揺さぶる。


「エレナ!エレナ!しっかりしろエレナ!」


 その鬼気迫る様子に視線を彷徨わせる産医や助手。

 …………いや、違うそうではない。


「……ぃ……って……」


 エレナが小さい声で何かを言うが聞き取れない。ロナルドは慌ててエレナの口元に耳を近づける。


「もう一度言ってくれ、エレナ!」


「………うるさい。……黙ってって言ってるのがわからないの……?この浮気野郎!!」


 徐々に声に勢いがつき、最後の絶叫に鼓膜が震える。


「エッ……エレナ…………」


 戸惑うようにウロウロした視線は産医と助手に向けられる。


「奥様もお子様もお健やかにございます。旦那様が心配されるようなことはなにもございません」


 産医と助手が先程ロナルドに向けた視線は何やってんだこいつはという意味だった。しかし、ロナルドは産医の言葉を素直に受け止められない。


「いや……前と前の前と前の前の前のお産の時はあんなに元気だったではないか」


 そう、エレナは初めてのお産ではなかった。どのお産の後も大はしゃぎし、産医や助手の邪魔になっているロナルドにお黙りなさい!とベッドから飛び降り張り手をかまし、お付の者たちに慌ててベッドに戻されるほど元気だったのだ。


「…………はあーーーーーーロナルド、後ろをご覧なさい」


 長いため息の後に吐き出された言葉に素直に従う。視線の先にいたのは金銀頭の6人。


「……我が子達がいるぞ」


「そうね……………その子達とこの子どこが違う?」


 前方と後方を見比べる。


「顔…………?その子は猿みたいでこの子達はバックに花が咲く幻覚が見えるほど麗しい」


 室内に沈黙が落ちる。いつのまにか赤子までも泣き止んでいる。


「…………父上。母上が仰りたいことはそういうことではないと思いますよ」


 6人のうち一番背の高い長男が呆れたように答える。少々鈍いところもあるがロナルドは大将軍を拝命しているのだ。書類捌きも王宮官吏以上にできるので、影で『お捌き将軍』と呼ばれている。ちなみに大将軍としての実力も皆が認めているので決して悪口ではない。センスのないやつが言い出した褒め渾名である。


「じゃあどういうことだ?」


 父親の問いにクスクスと笑う娘たち。娘たちも母親が何を言いたいかわかっているようだ。


「年齢の問題かと」


「年齢?」


「ええ」


 改めて居並ぶ子どもたちを見る。皆既にでかい。


 長男……ジャック・カサバイン    20歳

 長女……エミリア・カサバイン    19歳

 次男……ミカエラ・カサバイン    19歳

 次女……アンジェ・カサバイン    18歳

 三女……セイラ・カサバイン     18歳

 三男……カイル・カサバイン     18歳


 この国では18歳で成人を迎える。皆成人を迎えているのだからでかくて当たり前。ああ……と最後に妻を見る。


「そうだな、少々目尻に皺が……」 


 ロナルドのこめかみに向かってコップが飛んできたのでキャッチする。出産後で疲れているだろうに怒りのあまり、元気に暴れだしそうな母親に焦るジャック。


 デリカシーのない父親に呆れるものの他の弟妹たちは更に笑うばかりでフォローする気もなさそうだ。


「んんっ!母上の見た目は昔に比べればまあ……いえ、今も若々しく見えますが……中身はそうもいきません。昔に比べ体力も落ちているでしょうし出産による疲労は昔とは比べようもないほど感じられるはずです」


 その言葉になるほど、とやっと理解してくれた様子の父親。これで母も落ちついただろうと見れば水差しを掴んだ手がブルブルと震えていた。


 


 女性に昔、昔と若かりし頃と比べる発言はいただけない。



 




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