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離宮に向かう道すがら、私はメイジーや料理長さんたちのことを尋ねた。
陛下によると、エミリアちゃんが噂を流した犯人がルゥくんだと突き止めた直後、彼らはすぐ釈放されたらしい。
離宮に戻るとすぐ、陛下は王宮お抱えのお医者様を何人も呼び寄せた。
ぞろぞろ現れたお医者様の数は、ざっと二十人。
いや、白い巨塔じゃないんだからと心の中でツッコミを入れる。
もちろん、そんな大事にしなくてもいいと訴えてみたけれど、過保護な陛下が聞いてくれるわけもなかった。
しかも困ったことに、お医者様方は皆口をそろえて、私がひどく衰弱しているとの診断を下したのだった。
どうやら、私はここ数日の監禁生活と、それ以前に無意識に行っていた社畜生活のストレスをかなり受けていたようだ。
白い巨塔たちが絶対安静をという指示を出して去った後も、陛下は落ち着かない様子で部屋の中を歩き回り続けた。
「本当に安静にしているだけでいいのか? そうだ、エミ! 王都の南に温泉の湧いている保養地がある。そこに行こうか? あ、いや、でも体が弱っている時に馬車で旅をするのはよくないか……。ああ、くそ、何かできることはないのか……!」
「ちょ、ちょっと陛下、落ち着こう!? 私、別に大病人ってわけじゃないからね? ここのところ少し無理をしていたから、体が休みなさいってサインをくれたんだと思う。もう、のんびりできるいつもの生活に戻ったし、すぐ元気になるよ」
ベッドの上のクッションにもたれかかったままそう声をかける。
すると今度は、ベッドの端でお座りしていたエミリアちゃんが元気のない溜息を吐いた。
「エミ、ごめんなさい……。私がそんな不良品の体をあげちゃったせいで……」
「えっ?」
「私が人間だったときも、そんな感じだったの。父親とケンカしただけで、胃が痛くなって何も食べられなくなったりなんてしょっちゅうだったわ。当時は無理をしているせいで、体が不調になっているなんて気づいてなかったけど、多分そういうことなのよね?」
なるほど。その話を聞く限り、どうやらエミリアちゃんの体はもともと、人よりもストレスに弱かったようだ。
となると私もこれからは、できるだけストレスを感じないような生き方を心掛けないといけない。
「もっと丈夫な体をあげられたらよかったのに……」
エミリアちゃんがしょんぼりと呟く。大きな耳はぺたんと垂れてしまっている。
「エミリアちゃん、そんなに落ち込まないで……! それに心が感じた負担が体に出やすいのって悪いことばかりじゃないと思うの」
佐伯えみ時代の私の体は意外にもかなりタフで、ストレスによって寝込むようなことはなかった。
でも、今思えばそれがよくなかったのだ。
そのせいで取り返しのつかないところまで自分の体を酷使して、手遅れになるまで気づかなかったのだから。
しかも性懲りもなく、今回もまた同じように無理をしてしまっていたし……。
これからは、少しでも調子が悪くなったら、自分の生活を見直すようにする。
そのためのサインを体からもらえるのはありがたいと伝えると、エミリアちゃんはホッとしたように尻尾を揺らした。
◇◇◇
それから数日間、ベッドの中で療養している間も、陛下は毎晩様子を見に来てくれたのだった。
ただ、私の体調を気遣うあまり、顔を見るとすぐに「疲れさせるようなことはしない……。我慢……我慢……」とブツブツ言って、すぐ帰ってしまった。
別に大病人じゃないんだけどね……。
私の世話係には、メイジーが戻ってきてくれたし、病人向けに気遣われた食事を見れば、料理長さんが厨房に帰っているのだと気づけてホッとした。
「妃殿下、またお傍にいられるようになって、オラ、オラ……っ」
「わああ、メイジー、泣かないで……! ごめんね。色々辛い思いさせちゃったよね。牢獄の中でひどいことされなかった……?」
「へ? ひどいことですか? それに牢獄って?」
きょとんとした顔でメイジーが首を傾げる。
「え……、牢獄に入れられてたんじゃないの?」
「いえ……! 離宮からお城に連れていかれて、部屋から出ないようにとは言われてましたが、とてもきれいなゲストルームを遣わせていただいていました。もうほんっとにびっくりするほど広いお部屋で……! オラ、恐縮しちゃったんですが、陛下が手配して下さったようなのです」
「陛下が……!?」
私が聞いた話とまるで違う。
「はい。見張りの兵士さんにも、『妃が気に入りの侍女だから丁重に扱え』とお命じになっていらっしゃいました。陛下ってお優しい方ですね……! 厨房の料理人さんたちも、同じような待遇を受けたとおっしゃっていました!」
陛下ああああああ。
なんで意味のわからない嘘をついたの……!?
メイジーたちがひどい目に遭っていなかったことは本当にうれしいけれど、真実を話してくれれば、あんなに気に病まずに済んだのに……!
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