14
翌日から、本格的に栄養ドリンク作りに取り掛かり、その日は三時間ほど休憩なしでひたすらドリンクを作り続けた。
ローガンさんは意外にも重たいガラス瓶を移動させたりという力仕事を、積極的に手伝ってくれた。
今回新たに取り寄せたガラス瓶は兵士さんに振る舞うように特注したもので、もともと私が使っていた瓶と比べて倍の大きさをしている。
中身が入っていると相当な重さで、私とメイジー二人がかりでようやく持ち上げられる感じなのだ。
それをローガンさんは片手で易々と運んでしまう。
ローガンさんが力仕事を手伝ってくれるのはとても助かる。
ただ問題は、あれからガラリと変わったローガンさんの態度だ。
「それにしても、こんな一兵士の願いを聞き入れて下さったことといい、妃殿下ほどお優しい人にアタシ会ったことがないわ! 見た目からして地上に舞い降りた天使って感じなのに、中身まで完璧な人格者なんて、本当に素晴らしいわ」
「……」
ローガンさんはずっとこの調子で、口を開けば私を過剰に持ち上げるようなことばかり言い出すのだ。
はっきりいって、めちゃくちゃ居心地が悪い。
ご機嫌を取り続けなければ、私が協力しないとでも思っているのだろうか。
「あの、ローガンさん。そういうのはいいんで……」
「あら。天使って言い方が気に入らなかったかしら。じゃあ女神ね! うん、間違いない! 妃殿下は女神よ。だって後光が差しているもの! アタシには見えるの。まぶしっ!」
ちょっと笑いそうになった。
だって後光って! しかもちゃんと眩しがってるし。いや、見えてないよね!?
この調子で意味のわからない褒め方をされ続けるのは、さすがにね……。
「持ち上げてくれなくても、手伝うと約束した以上は責任を持って最後までやり遂げます。だからそんなふうに無理しないでください」
「あら……。――どうしてアタシが無理してるだなんて思ったの?」
「どうしてって、過剰に持ち上げ過ぎで、明らかに不自然でしたよ……!」
「ふうん。妃殿下って変わってるわね。普通の人は、持ち上げられると喜ぶものなのに。とくに若い女性は」
「そういう方もいると思います。ただ、私は警戒します」
いきなり過剰なぐらいお愛想を言われたら、壺 か英会話教材を買わせようとしているのではと怯えてしまう。
「警戒とはおだやかじゃないわねぇ。アタシはそんなつもりこれっぽっちもないのに。ひどいわぁ」
「あ、そんなつもりはなかったんですけど……うーん、この際だから言っちゃいますね。ローガンさんはもともと、王妃としての私のことも、陛下の妻としての私のこともよく思っていませんでしたよね。栄養ドリンクの存在によって、王妃としての役割を多少果たせそうだと思ってもらえたとしても、陛下の妻としての私に対する評価が変わるようなことは何も起きてないじゃないですか。だから、今も陛下の妻という観点からは、敵視されたままなのかなって」
敵意を持っている相手にお愛想を使い続けるなんて、無理している以外の何物でもないはずだ。
「公務について言い返してきたときも思ったけれど、意外と食えない女ね……。まあ、いいわ。だったらこれからは素で接させてもらうわよ。ふふふ。目を皿のようにして新米嫁を値踏みしてやるんだから。旦那の親族から嫌われたら、その後の嫁人生真っ暗よ。せいぜいアタシに認められるよう励みなさい!」
腰に手を当てたローガンさんが、ふはははと高笑いする。
天使だなんだと言われ続けるよりはましだとはいえ、これはこれで大変なことになってしまったような……。
「ところでさっそくなんだけど、明日は午前中から作業にとりかかれないかしら?」
私が口を開く前に、ローガンさんは捲し立てるような勢いで続けた。
「大変なのは百も承知してるわ! でも、兵士たちはそれ以上に辛い思いをしてるの。だから、なんとか協力してもらえないかしら。もちろん暗くなる前に解放するし、ちゃんと適宜休憩をとるわよ」
一日中、栄養ドリンクを作り続けるとなると、なかなかハードだ。
趣味感覚で楽しんでる時とはわけが違う。
「なによ。あんまり乗り気じゃなさそうね! 新米嫁がのっけから尻込みしててどうするのよ! こういうときは多少無理してでも頑張って、自分のやる気を見せるところじゃない! それともあなたは他人のために頑張るなんて御免だと思ってるの?」
「そういうわけじゃ……」
新米嫁という単語をちらつかされると、陛下の従兄弟であるローガンさんに認めてもらいたい私としては、強く出られない部分もあった。
それに兵士さんたちが大変なことはエミリアちゃんから聞いて知っているし、私もできる限り協力したいと考えている。
引っかかっているのは、一日中栄養ドリンクを作るというのが、マイペースにのんびり暮らすという私の目標に反してしまう点だ。
まあでも、短期間のことだし、それぐらいならいいかな。
「わかりました。明日は午前中から作業をはじめます」
「ほんと!? さっすが妃殿下! あなたならやってくれるって信じてたわ! 今のでアタシの中のポイントがだいぶ上がったわよ」
ずいぶん現金な言葉なので鵜呑みにしたわけじゃないけれど、こういうことを積み重ねているうち、ローガンさんの中の敵意が少しでも減ってくれればいい。
そう思いながら、私はぎこちなく笑い返した。
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