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 ローガンさんが栄養ドリンクを「部下の兵士たちにも飲ませたい」と言うと、陛下は私の意思を確認してから条件付きで許可を出した。

 条件とは、誰が作り出したものか明かさないというものだ。

 私の存在が注目を集めると、それだけ異世界からの転生者だとばれるリスクも増える。


 ただ、いつまでも隠しきれるわけがないので、表向きの生産者を用意するそうだ。

 私はもちろん悪目立ちなんてしたくないし、ローガンさんも陛下の案に賛成だった。


「妃殿下の特殊な能力が知れ渡れば、他国もその力を確実に欲するはずよ。最悪、妃殿下を巡って戦が起きかねないわ」

「栄養ドリンクのせいで戦!?」


 万が一そんなことになってしまったら、戦争を引き起こした原因として文字通り『災厄の異世界人』認定されてしまうのではないだろうか。

 これは絶対、栄養ドリンクの作成者だとバレるわけにはいかない。

 徹底的に裏方ポジションを死守しなければ……!


 ローガンさんは、兵舎に栄養ドリンクを届けてから、改めて城へ向かうと言い残して立ち去った。


「なあ、エミ。軍に力を貸すという話、本当によかったのか? 俺やローガンはもちろん助かるけど、エミに無理はさせたくない」


 二人きりになるのを待って、陛下が尋ねてきた。

 そのほうが気兼ねなく、私が本音を話せると思ったのだろう。


「ありがとう、陛下。でも大丈夫だよ。もともと私でも役に立てることを探していたし。それにローガンさんにもちゃんと認めてもらいたいしね」

「ローガンに? どうして?」

「だって、陛下の従兄で、幼なじみなんでしょう? 二人の気安い態度を見ていればわかるよ。 私がこれから陛下の后としてやっていくなら、できれば嫌われたままはよくないかなって思って」


 旦那さんの友人に嫌がられている妻って悲しいじゃない?


「やばい……。今のもう一回言って。『陛下の后』ってやつ」


 何が陛下の琴線に触れたのか、めちゃくちゃうれしそうに腰を抱かれて、わあっとなる。


「エミ、早く」

「や、やだよ。言わない……」

「なんで。さっきは言ってくれたのに」

「さっきはこんな空気じゃなかったからね!?」


 距離感が恥ずかしいので、陛下の胸に手をついて抗ってみたけれど、私の腰を両手でしっかり抱いている陛下は離してくれそうにない。


「って、そうだ! そんなことより陛下、あの蝶のこと! 黙って監視しているなんて……」

「それは…… ごめん……。あ! でも、もちろんエミが自室で過ごしている時は、俺が覗けないようになってるから」


 一応最低限のプライバシーは守られていたようだ。


「エミは不快だろうけど、できれば今後も部屋の外に出る場合は、蝶に見守らせたい」

「……う、うううーん。…… ………………………………わかった」


 ローガンさんも言っていたとおり、危険人物かもしれない私は本来、ふらふらと自由に歩き回れる立場ではない。

 それを陛下は、離宮の周辺でなら好きに過ごしていいと言ってくれている。

 優しさで譲歩してくれている彼に対して、自分の望みばかりを主張するわけにはいかない。


「不自由な生活をさせてごめん」

「ううん。しょうがないよ。それにほら! さっきは蝶のおかげで助かったから」


 私一人では、あのときのローガンさんと渡り合うのは無理だった。


「エミ、ローガンには気をつけろ」

「ん? うん。そうだね。残念だけど、ローガンさんは絶対的味方って感じじゃないもんね」

「いや、そういう意味じゃなくて。あいつ、俺が駆けつける前、エミに馴れ馴れしく接していただろ。本当に油断も隙もあったもんじゃない。だから会わせるのが嫌だったんだ」

「あっ。もしかして昨日陛下が言ってた『私と引き合わせるわけにはいかない』人って……」

「そう。ローガンのことだよ。国境の防衛をしている一軍所属だし、帰還するならあと数日はかかると思って油断してた。そうやって裏をかくのが得意なやつだってわかってたのに……。くそっ」

「私の魔力が皆無だって、見抜けちゃう人だもんね」


 それは陛下としても会わせるわけにはいかなかったはずだ。


「それもあるけど、俺が警戒しているのは……」


 そこで言葉を止めた陛下が、何か言いたげな顔で私をじっと見つめてきた。


「エミ、ローガンを好きになったらだめだからな」

「え!? ローガンさんだってあっちだよね!?」

「あっち?」

「あ、つまり、男性が好きなんじゃ……」

「あの口調はフェイク。あいつは女好きだよ。しかも自分と渡り合える肝の据わった女がな」

「……!」

「だから気をつけて。エミは俺のものだ」

「……っ」

「あいつは大人だし、余裕もあるし、あんな喋りで適当に生きてるくせに、なぜかやたらとモテる。だから、すごく心配だ」


 陛下は私の額にコツンとおでこをあてると、切ない溜息をこぼした。


 何この態度……。

 かわいすぎやしませんか……!?


 こんなふうにやきもちを焼かれたのなんて、二十八年間生きてきて生まれて初めてだから、私はどうしようもなくドキドキしてしまった。

お読みいただきありがとうございます!

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