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――そんなわけで、翌日さっそく栄養ドリンク作りに取りかかることにした。
エミリアちゃんは朝からはりきって城下町に出かけていったので、今は私一人だ。
天気のいい日、エミリアちゃんはほぼ必ずどこかへ遊びに行く。
目的地は城下町だけでなく、山や湖、小さな農村、少し離れたところにある港町など多岐に渡る。
姿を消して、精霊の羽で飛び回る彼女はとても自由だ。
人間の移動手段では、半日以上かかる道程もびゅんっとひとっ飛び。
エミリアちゃんは、精霊になる前から望んでいた『何ものにも縛られない暮らし』を手に入れて、とても幸せそうだった。
私もそれがうれしい。
「今日はエミリアちゃんに倣って、外で作業しようかな」
料理を作るのなら厨房を借りなければいけないけれど、今回は水場の近くに簡易的な作業台を用意できさえすればいい。
ちょうど中庭と林の境に井戸があるので、そこで栄養ドリンク作りを行うことにした。
ここなら離宮で働く使用人さんたちも通らないので、悪目立ちすることはない。
そうと決まれば準備開始だ。
頭の中でどんなドリンクにしようかと考えながら、必要な道具や材料を運んでいく。
ちなみにこの道具類は、先日陛下にプレゼントしてもらったものだ。
大小様々のガラス瓶や使い勝手のよさそうな容器、それから折りたたみ式の簡易作業台に至るまで、すべて職人さんに特注してくれたらしい。
癒しアイテムを作る際、毎回厨房から用途に応じた道具を借りていたので、めちゃくちゃ助かった。
でも私が大喜びすると、陛下は少し複雑そうな顔をした。
「こんな安い日用品でそこまで喜ばれても微妙だ……。俺としては先日贈ったブレスレットの時にそういう反応を見たかった」
実を言うと、陛下からのプレゼントはここのところ毎日届く。
ただ、とんでもなく大きな宝石のついたアクセサリーや、どこのパーティーに着ていくんですかっていう豪勢なドレスをぽんぽん贈ってくるので、そういうのはやめてもらえるようやんわりと伝えたのだ。
その時も陛下は「贈り物も愛情表現のうちだろう。エミへ愛情を示すのに、金に糸目をつけるようなことはしたくない」と言って不満そうにしていた。
それでも私の意を汲んでくれて、それ以来、高そうなプレゼントの代わりに、私が使えそうなものを贈ってくれるようになったのでホッとしている。
さて、栄養ドリンクの材料のほうは、いつもどおり料理長さんを頼ることにした。
「栄養どりんく? 滋養のある液体ということは、煎じ薬のように苦いものでしょうか?」
当然ながら、この世界には栄養ドリンクなどという飲み物が存在しているわけもなく、料理長さんは不思議そうにしている。
味を想像したのか、表情はいつも以上にしかめっ面だ。
彼の人となりはわかっているので、怒っているわけではないことは承知している。
「私の作ろうと思っている栄養ドリンクは、シロップや蜂蜜を使って飲みやすい味にする予定です。今回は薬というよりジュースに近いものを作りたいので」
「それは大変興味深い……。是非、私に妃殿下の助手を務めさせて下さい! ――おい、おまえたち、すぐに調理台を空けてくれ。――む、なんだ。私が指示を出す前から動いていたか。でかしたぞ」
「自分たちも妃殿下の新作を心待ちにしていたんで」
料理長さんにそう返事をすると、若い料理人さんたちは私に期待の眼差しを向けてきた。
「あっ、ごめんなさい! せっかくなんですが、今日は厨房ではなく外で作業をしようと思っていて」
そう伝えたら、あからさまにみんながっかりしてしまった。
「そんな……。栄養ドリンクとやらをお目に掛かることすらできぬのですか……」
「妃殿下のお作りになる世にも不可思議な飲み物……。気になって夢に出てきそうだ……」
「我ら決してお邪魔は致しません! どうか、陰ながら見守らせて下さいませんか!」
「でもみなさん、これから下ごしらえがあるんじゃ……」
さっき以上に肩を落としてしまったところをみると、図星だったらしい。
毎度のことながら素人が趣味で作る料理に、ここまでの気持ちを寄せられると申し訳ないやら、恥ずかしいやら。
「えと、とりあえず完成したら持ってくるので、そんなにがっかりしないでください」
「本当ですか妃殿下!?」
全員が一斉にガバッと顔を上げる。
その勢いがすごすぎて、思わず「ひえっ」となってしまった。
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