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54 陛下の後始末

 風が止み、昼間の明るさが室内に戻ると、腰を抜かして固まっていた侍女さんたちが小さな声でひそひそ話を始めた。


 事態が落ち着いて、今起きたことについて考える余裕が出てきたのだろう。

 戸惑った様子を隠さず、身を寄せ合っている。


「なぜ妃殿下が二人いるの……?」

「まさか影武者……!?」

「片方の妃殿下は、幽霊に見えるわよ……。だって透けてるもの」


 困惑するのも当然だ。

 怯えた瞳が向けられるのを感じながら、私はエミリアちゃんを背後に庇った。


 さて、どうしたものか。

 一難去ってまた一難。


「……まずいわね。私の存在が知られちゃったわ」


 エミリアちゃんを振り返ると、珍しく小さくなって困った顔をしている。

 罪悪感を覚えさせたくはないから、ここはなんとしても誤魔化さないと。

 でも、どうやって……。

 私がおろおろしていると、横からすっと陛下が歩み出た。


「エミリア。しばらく侍女たちの前から姿を消してくれ」

「え?」


 私たち二人の声が重なる。

 でもエミリアちゃんは何かを察したようで、無言で頷くと、すっと透明になった。


「きゃああっ!? 消えたわ!」

「やっぱり妃殿下は幽霊だったの!?」


 陛下の前だということも忘れて、侍女さんたちが悲鳴を上げる。

 そんな彼女たちの前に立った陛下は、目を伏せ、静かな声で呪文のようなものを唱えた。

 その直後。

 きらきらした銀色の粉が、侍女さんたちの上に降り注いだ。

 魔法!?

 驚く私の目の前で、侍女さんたちの表情が変化していく。

 まるで幻にあてられたかのような、ぼんやりした顔つきに……。


「陛下、何をしたんですか?」

「この部屋で起こった出来事に関する記憶を、この者たちの中から消す」

「ええ!? そんなことができるんですか!?」


 陛下はなんでもないことのように頷いたけど、これってすごいことなんじゃ……!?


 侍女さんたちはぽーっとした顔のまま座り込んでいる。


 陛下が指で空中に何かを描くようにすると、その動きに合わせて、大破し散らかった室内がどんどん元に戻っていく。

 散乱していた椅子もテーブルも、ちゃんと最初にあった場所へ。

 割れたガラスや破れてしまったカーテンも、魔法のように元通りだ。


 違う。

 魔法のようじゃなくて、魔法なのか。

 最終的に室内は、あんなことがあったなんて分からないくらい綺麗になった。



「さて」


 陛下がぱちんっと指を鳴らすと、侍女さんたちの体がびくっと跳ねた。


「私たち、一体……?」

「あれ……。何が起きたの?」


 狼狽える侍女さんたちを横目に、陛下は侍女長さんに指示をした。


「侍女長。この者たちを連れて外に出ていてくれ」

「は、はい」


 侍女長さんは目に見えた動揺も少なく、他の侍女さんたちを外に連れ出してくれた。


 そうして私は陛下とふたりきりになった。

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