52 デトックスしよう!
まだ黒い靄が完全に消滅したわけじゃない。
でも、これでエミリアちゃんと会話ができるようになった。
とにかくエミリアちゃんの怒りを鎮めなくちゃ……!
「エミリアちゃん、お願い、目を覚まして! このままじゃ悪霊になっちゃうよ」
「私だってわかってるわ……! でもだめなの! 怒りを呑み込もうとしても抑えられない……!」
「そんな……」
エミリアちゃんは胸元に手を当てたまま、苦しそうに顔を顰めている。
きっと自分の感情と戦っているのだろう。
前回は、陛下の説得で落ち着くことができた。
今回だって、エミリアちゃん自身は感情を落ち着かせたいと頑張ってくれている。
ところがエミリアちゃんがこらえようとすればするほど、靄の色が淀み、闇に覆われた範囲が広がっていってしまうのだった。
なんで……!?
会話が通じるようになったし、怒りを鎮めようとしてくれているのに……。
これじゃあ感情を我慢していることが、どんどん悪い方向へ作用しているみたいだ。
「待て! エミリアは何か溜め込んでいるのではないか」
陛下の言葉を聞き、やっぱりと確信を持つ。
私が慌てて振り返ると、魔法のバリアを維持してくれている陛下と目が合った。
「怒らないでいようと我慢することが、却って負荷を高めているように見えるのだ」
確かに陛下の言うとおりだ。
恐らく怒っていること自体が悪いわけではない。
苛立ちや怒りを抱いているのに、それを抑えようとして強烈なストレスを感じる。
それがエミリアちゃんの心を不安定にさせて、悪い方向へ引っ張っていってしまっているのではないだろうか。
だってあの黒い靄、人間のどす黒い感情を具現化させたような色をして見える。
それなら――。
「エミリアちゃんデトックスしたほうがいいのかも!」
「は!? でと……何よそれ」
「溜めこんだ気持ちを全部吐き出してすっきりしちゃうの!」
私が説明すると、エミリアちゃんは首を振って嫌がった。
「嫌よ、そんなの。全部吐き出すなんて。だいたい苛立ちを抑えられないなんて、みっともないじゃない!」
「大丈夫だよ、エミリアちゃん。全然、恥ずかしいことじゃないから。誰だって、そういう爆発しそうな気持ちを持つことがあるもの。私も社畜時代、上司に対するストレスを溜めまくって眠れなくなったりしたからよくわかるよ。そういうときは大声で文句を言いまくって、鬱憤を晴らすのが一番なの!」
「でも……」
「そうしたらすっきりして、心が浄化されたみたいな気持ちになれるんだよ! だからやってみよう!」
エミリアちゃんはそれでも割り切れないようだった。
「思ってることを全部話すなんて無理よ……! 私は王族だもの。そんなことしちゃいけないの。結婚が嫌で逃げ出したから、その罰で死んだようなものなのに!」
「でも、いまはもう幽霊だよ。死んでまで立場気にして言いたいことも言えないなんて変だよ。そのせいで転生できなくなるかもしれないのに!」
「う……」
図星をつかれたと思ったのか、エミリアちゃんの瞳が戸惑ったように揺れた。
「誰に遠慮することもないよ」
「……やっぱりいやよ……。あなたはともかく、他の人に聞かれたくない」
「わかった。じゃあ私が近づくから小声で話そう!」
本当は大きな声で発散させてあげたいけれど、仕方ない。
強い向かい風の中、なんとかエミリアちゃんの傍に近づく。
さっきまでと違って、拒絶されているような感覚はない。
私は目の前まで行くと、エミリアちゃんに語りかけた。
「教えて。何が一番納得いかなかったの?」
「……全部よ。全部許せない」
「王族だったことが、辛かったって言ってたよね?」
「そうよ。そのせいで、私の人生は台無しになったの」
エミリアちゃんはそう言って、胸の内を語りはじめた。
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