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47 陛下の報告と事件のはじまり

 エミリアちゃんの心が穏やかなまま、静かに最期を迎えられますように。

 そう祈っていたのに、その日は私がこの世界に来てから最も波乱に満ちた日になってしまったのだった。


 事件が起こる前、私は自室で陛下の訪問を受けていた。


「持ち帰ったアロマミストを、昨晩もまた試してみた」

「おお! どうでした?」

「……」


 項垂れた陛下が、はあっと盛大なため息をつく。


「気づいたら香水瓶を握ったまま、朝まで眠り込んでいた……」

「あー」


 中途半端な相槌を返すぐらいしかかける言葉が見つからない。

 ていうか心底悔しそうな陛下を見ていたら、ちょっとおかしくなってきてしまった。

 思わずふふっと笑うと、拗ねたような目をギロッと向けられた。


「笑ってごめんなさい。でもこうなると、偶然とは言いがたいですね」

「ああ。それに、もうひとつ発見があった。今朝ジスランに今回の件を話して聞かせたら、止めるまもなくアロマミストの香りを確かめだして――」

「どうなりました?」

「それが、ジスランにはなんの効果もなかったのだ」


 そう言った直後、陛下はなぜか気まずそうに視線を逸らした。

 ん?


「もしかして陛下、そのときも寝ちゃったんですか?」

「……ジスランに水をかけられて起こされる羽目になった」


 ジスランさん、起こし方雑じゃない!?

 二人のやりとりを想像してしまい、また笑いが込み上げてきた。


「陛下とジスランさん、仲良しですねえ」

「子供じゃあるまいし、何を言っている」


 仏頂面をする陛下にふふふと笑顔を向けてから、私が気づいたことも説明した。


「私も昨日、侍女さんにハンドクリームを渡したんです。お話ししたとおり、ハンドクリームにもラベンダーを使っているんですが、使ってみてもらったところ、彼女が眠ってしまう様子はありませんでした。……陛下にだけ睡眠を誘発する効果が発動されるんでしょうか?」


 陛下は考え込むように腕を組んだ。


「ジスランと侍女の共通点といえば、本人の持つ魔力が弱いことだな」

「え? そうなんですか?」


 侍女さんたちに魔力の強さが求められないのはわかるけれど、ジスランさんもというのは意外だった。

 なんとなく見た目の雰囲気から、色んな能力に抜きんでた人というイメージだったのだ。


「ジスランは国一番頭が切れるといっても過言ではないが、魔法についてはからっきしだ。――別の魔力が高い者でも試してみたほうがいいだろう」

「でも忙しいでしょうし、逐一私に教えてくださらなくても大丈夫ですよ?」

「……ああ、そうか。確かにそうだな。言われてみれば妙だ。なぜ、そなたにすぐ伝えねばと思ったのか……」

「え? 何か言いました?」

「いや。なんでもない」


 それから少しして、陛下は別の仕事へと向かった。

 立ち去り際、まだ何か言いたそうな顔をしていたけれど、結局、迷いを振り払うように首を振って去って行った。


「陛下いったい何が言いたかったのかなー」


 独り言を呟いて、ソファーに腰をおろしたとき。


「……――きゃああっ……!」


 え!? 今の悲鳴!?

 かすかにしか聞こえなかったけど、隣の部屋からだよね?

 そこは侍女さんたちが控えている部屋だ。

 私は慌てて部屋の扉に駆け寄り、乱暴にノックをすると扉を勢いよく開けた。

 すると中では――。

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