46 さよならの前に②
「ねえ、エミリアちゃん。転生するときって、どんな感じなのか知ってる?」
私の時は、生きている間からエミリアちゃんの体で目を覚ますまで、まったく意識がなかった。
エミリアちゃんの場合は、間に幽霊の期間を挟んでいるから、また何か違うのかもしれない。
「ああ、それなら調べてみたわ。幽霊って寝なくていいから、結構時間があるのよね。古い本によると、幽霊が転生するときって、星が散るみたいにキレイらしいわよ」
「星が散る?」
「そう。真夜中ちょうどに始まって、それはそれは幻想的な光景なんですって。あなたそれが見れたらラッキーね」
あっけらかんとした様子のエミリアちゃんは、うーんと伸びをした。
「まあ、どこまで本当かはわからないわよ。そのときがくれば知ることができるんだし、待っていなさいよ」
「はは。そうだよね……」
どうしよう。
エミリアちゃんが怒るのはわかっているけれど、胸が苦しくなって、泣きそうだ。
さっと背中を向けたら、後ろから盛大なため息が聞こえてきた。
うう。バレている。
「また辛気臭い空気を作る! 転生は悲しいことじゃないんだからね。新しいはじまりだもの」
この点に関しては、エミリアちゃんの方がずっとしっかりしている。
私達、九歳も年が離れているのに。
「エミリアちゃんって、時々すごく大人っぽいよね」
「ちょっと『時々』ってどういうことよ! だいたいこの世界で十五歳は立派な大人よ」
「そうなの?」
たしかに彼女は結婚もしている。
しかも自分の意思とは関係なく、国や家族のために。
時代や生い立ちが違うとはいえ、私にそんな勇気や責任感はない。
「あなたは二十八歳っていうわりに、時々すごく子供っぽいわよね。侍女のふざけた態度に対してやたら寛大だったり、陛下をガキ扱いしてあしらってるところなんかは、絶対私にはできない行いだけれど」
「え? 陛下をあしらう?」
「なにキョトンとしてるのよ。まさか、意識せずにやっていたの?」
「ええと、なんのことだろう」
「やだ、なおさら面白すぎるわ! あんな面と向かって、あんたは対象外だって言ってのけていたくせに!?」
「ええっ!?」
そんな態度を取った覚えはないのだけれど。
エミリアちゃんは「ぷぷっ。あのときの陛下。いつもの取り澄ました顔が維持できてなくて、ほんと傑作だったわ」と言いながら悪そうな顔で笑うばかりで、詳しい説明をしてくれない。
「はぁ、笑った笑った。話を戻すけど、暗い顔して見送るつもりなら同席させないわよ」
「ええ!? それはだめ!」
ひとりでなんていかせたくない。
エミリアちゃんは、この世界で私のことをずっと見守っていてくれた。
おかげで私はとても救われたのだ。
だから、どうしても見送らせて欲しい。
「最後の時は一緒にいたいよ」
「だったら笑顔でいなさい。泣いたら承知しないから」
「わかった。絶対に泣かないって約束する」
へへっと無理にでも笑って私が小指を差し出したら、エミリアちゃんはきょとんとした顔で首を傾げた。
「私のいた世界では、約束をするときにこうするの。小指同士を絡めてね」
「私達触れあえないじゃない」
「うん。でも、やってみない?」
ちょっと間があってから、エミリアちゃんは照れた様子で、もじもじと小指を出した。
幽霊のエミリアちゃんと、私はもちろん触れ合えない。
でも不思議なことに、透明な彼女と指と重なったところが、なんとなく温かいように思えた。
「約束ね。私、エミリアちゃんを笑って見送るから」
「ええ、約束よ」
頷くエミリアちゃんの微笑みはとっても綺麗で、心残りなんて一切なく、すっきりとした気持ちで転生する時を待っているようにも見えた。
だから私は、このまま問題なく、旅立ちの時が訪れるのだと思っていた。
それなのに、まさかあんな事件が起きてしまうなんて――。
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