43 魔力とオーラ
「この世界の人間は総じて魔法を使えるという話はしたな」
「はい」
「魔力というのは人それぞれ違う。似ているものがあったとしても、まったく一緒ということはない」
「ふむ」
つまりDNAみたいな感じか。
「誰かが作った道具や魔道具には、その者のオーラを放つ魔力が宿る。オーラによって、誰が作った物かを割り出すことも可能なのだ」
「へえ、おもしろいですね!」
「ただしオーラを感じ取る能力が強くなければ、作った者を割り出すところまではいかないな」
「誰にでもわかるわけじゃないんですね」
「ああ。魔力の強さによってオーラを見分ける能力も増す。どれだけ魔力が弱い人間でも、他者のオーラをまったく感じられないということはないがな」
「それってどんな感覚なんでしょう。私には魔力がないからまったく想像がつきません」
「そう、それだ。魔法を持たぬから、そなたが作ったアロマミストからは何の気配もしない。――これはあくまで仮説だが、もしかしたらそれが良かったのかもしれない」
「え? どういうことですか?」
「魔力というものは互いに干渉しあう。自分の持つ力と異なる以上、他人の魔力にずっと触れていると、かなり影響を受けるのだ。疲労を感じたり、居心地が悪いと思ったり、常に気配を感じたりな」
魔法使えるなんて便利そうだしうらやましい。
そう思っていたけれど、いいことばかりなわけじゃないんだ。
さっき陛下は、人が作った物すべてから、魔力のオーラが出ていると言っていた。
身の回りにあるものが自分の体に次々影響を与えてきたら――。
想像しただけでゾッとなる。
「魔力があるって、かなり大変そうですね……」
「相性の問題もあるがな。ずっと他者の魔力を感じているというのは、無意識レベルでの疲れに繋がる」
「それって、みんなそうなんですか?」
「他人の魔力を感知する能力によって、影響力も異なってくるな」
なるほど。
私が魔力がないのをすぐに見抜いたぐらいだし陛下は、けっこう影響を受けてしまうのだろう。
「ちなみに陛下は物に囲まれている時、どんなふうに感じているんですか?」
「人の気配がそこらじゅうにあって、押し寄せてきているような圧迫感を覚える」
常に満員電車でおしくらまんじゅうされてるみたいな?
私は部屋の中にある人工物の数をさっと確認して、ため息を吐いた。
もうそうなってくると心が安らぐ場所なんて、自然物の中にいるときだけになってしまう。
「しかしそなたが作った香水瓶からは、何の気配もしないのだ」
「あ。そうか。私には魔力がないから」
「ああ。そもそも、そなた自身からも、魔力所持者特有のオーラを一切感じないしな」
「つまり存在感がないってことですか?」
「そうではない。濁っていない水のように、澄んでいて心地のいい空気だ。他人が傍にいるとき特有の疲労感を一切感じない。そなたとならずっと一緒にいられそうだ」
「はは。なんだか照れちゃいますよ」
陛下に他意がないことはわかっていても、そんなふうに言われると口説き文句のように聞こえる。
でもときめくどころか、ゲームの台詞に使えそうなセリフだとか思ってしまう自分が悲しい。
もう元の世界には戻れないこともそうだし、恋愛を他人事みたいに思っていることも虚しさを呼ぶ。
って今はそれどころじゃない。
「そなたが作った道具というだけで、オーラを発しない特別な存在になっていることは確かだ。それが何らかの効果を発揮したのではないかと予測している」
「ふうむ。試しにもう一度嗅いでみます?」
瓶をあけようとしたところで急いで止められた。
「いや、万が一また眠ってしまったらまずい。――今は何時だ?」
時計を見ると朝の5時半だった。
陛下と顔を見合わせて、お互いに苦笑する。
完全な朝帰りだ。
そりゃあそうだよね。なんかチュンチュン言ってるし。
「ごめんなさい陛下。もしかして、昨日のうちにやらなきゃいけない仕事があったりしました?」
「そなたが謝ることではない。ところでこのアロマミストを預からせてもらえるか? 色々と調べてみたい」
「もちろんです。これは陛下のために作ったものだから、自由に使ってください」
そう言って差し出すと、陛下は優しく微笑んで、ありがとうと言ってくれた。
お読みいただきありがとうございます!
スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆で、
『★5』をつけて応援してくれるとうれしいです




