30 助っ人登場
………………え。
い、今、なんと……?
言われた言葉が信じられなくて、理解が追いつかない。
だってまさか、そんな。
……聞き間違いとか?
呆けた顔で瞬きを繰り返す私を見つめたまま、陛下が穏やかな声で続ける。
「そなたはエミリアではない。そなたの状況から、異世界人だと判断したがどうだろうか?」
聞き間違いじゃなかった。
はっきり言われてしまった。
しかも二回も。
陛下の口から『異世界人』という単語が飛び出すなんて……。
どうして異世界人なんて言葉が出てくるの?
もしかして異世界からの転生者や転移者がゴロゴロいる世界なの?
そういえば、エミリアちゃんに初めて会ったとき、死者の体を別の人間の魂に譲り渡せるのかと聞いたことがあった。
そのときエミリアちゃんは『伝承でしか聞いたことがない』という言い方をしていた。
つまり、異世界人の存在が伝承では語られていたってこと?
頭が混乱しすぎて、この場から逃げ出したくなったけれど、そんなことをしたら異世界人だと認めているようなものだ。
私の勝手な判断で自分の存在を打ち明けることはできない。
とりあえずこの場はやはり何としても誤魔化して、どうするべきかを改めてエミリアちゃんと相談しよう。
「イセカイジン……? 郷土料理の名前でしょうか?」
あらぬほうを向いて空とぼけてみるが、陛下の視線が痛い。
「他の世界から来た人間の呼称だ。そなたはこことは違う世界に生きていて、エミリアではない別の人間だった。そして、そちらの世界で命を失い、気づいたらエミリアの中に魂が入っていたのではないか?」
わあ、その通りです。
陛下ったら完璧に正解を導き出しちゃってる。
……エミリアちゃん、ここまで勘付かれてるなら、今後も存在を隠し通すのはどっちみち難しそうだよ。
とはいえ、現段階で私が「ご名答!」などとのたまうわけにはいかない。
「ああ、なるほど。この国ではそんな物語が流行ってるんですね。すごく面白そうです」
「そなたの抱いている警戒心も、隠したいという気持ちも理解できる。ただ妃の中身が別人と発覚した場合、生じる影響は計り知れない。そなたの状況を理解できれば、手を打つことが可能だ。そのために協力してもらえないだろうか?」
陛下の言っていることはもっともだ。
エミリアちゃんは秘密にしておいて欲しいって言ってたし、その気持ちを尊重してあげればいいやって思ってきたけれど、国の問題が絡むからとなれば、話はそう簡単ではない。
確かに王妃の中身が入れ替わっていたら、さっき陛下が言ったように影武者だって言われてもおかしくはなかった。
最初の頃、侍女さんが影武者問題から戦争に発展することもありえるって言ってたし……。
王妃の環境に慣れてないとはいえ、私はさすがに浅慮過ぎだ。
エミリアちゃんの妃殿下という立場から考えればわかりきっていたことだ。
これは私とエミリアちゃんだけの問題ではない。
国家規模で損害が発生するかもしれない話だったんだ。
反省しなくちゃ……。
「悪いようにはしないと約束する。事情を知れば、そなたの力にもなれるはずだ」
真剣な眼差しで説得されると、罪悪感がどんどん膨らんでいった。
ただ私は、エミリアちゃんがどうして秘密にしたがったのか、ちゃんとした理由を知らない。
彼女にも、何か秘密が隠されている可能性だってあるのだ。
やはりそれを確かめる前に真実を打ち明けてしまうわけにはいかない。
陛下の目を見ていられなくなった私は、怪しい行動だとわかっているのに、ついつい視線を逸らしてしまった。
「私が異世界人だなんて、そんな……。どうしてそう考えたんですか?」
「そなた、魔法が使えないだろう」
ん?
おっしゃるとおり使えませんが、なぜ今その質問?
え。待って。まさかこの世界の人って……。
「この世界ではすべての人間が魔法を使える」
私の不安を感じ取ったのか、陛下が先回りしてそう告げてきた。
やっぱり!
魔法コンロを使った時に、魔力を込められているから誰でも使えると言われた。そのせいで、魔法を使えるのは一部の人のみで、魔力をみんなが使えるよう、魔法道具開発が行われたと私は完全に思い込んでいた。
なんてことだ……。
「この世界にはマナがあふれている。マナと各々が持つ魔力が共鳴することで、魔法を生み出せるのだ。しかし魔力は魂に根付いたものだから、この世界の人間の体でも、中身の魂が別世界の人のものなら、魔法は使えない。――そなたは魔法が使えるか?」
「それは……」
私は血の気が引いていくのを感じながら、言い淀んだ。
たとえ「使える」と言い張ったところで、じゃあやってみろという話になったら、一巻の終わりだ。
うぐぐ。どうしたらいいの。
悩みすぎて頭を抱えたくなったとき、不意に頭上から喚き声が降って来た。
「ちょっとあんた! なにほとんど認めちゃってるのよ!!」
で、出たー!!
空に浮かんだままぷんぷん怒っているのは、金髪美少女、いやエミリアちゃんだった――。
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