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第79話 魔物と交易したい

 アラクネというモンスターはモンスター化したときに詳しい観察は済んでいる。八本の足に蜘蛛の腹、上半身は人型で二本の腕を持ち、個体によってはお胸様の大きさも違う。ただモンスターだけであって、その顔付はどれも綺麗と言えないこともないが、獰猛で禍々しい表情が際立っていた。



 だがこの里のアラクネはそうじゃなかった。体付きこそアラクネそのものだけど、表情が豊かで人族のそれとなんらかの変りもない。彼女たちはネシアを見るとその美しさに羨望の視線を送り、ニールのことに気が付くと震えながら距離を置いてから畏れている目の光に変わっている。


 なぜか、おれを見ると品定めするような目となり、しばらくするとクスクスと笑ったりしている。なんでかなあ、美男ではないことは自覚しているけど、笑われるようなひょうきんな顔もしてないはずなんだけどなあ。



 アラクネの女王であるダイリーのステータスをこっそりと鑑定してみたがこれがなかなかの強さだった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

名前:ダイリー

種族:アラクネ・クィーン

レベル:53


体力:?????/?????

魔力:????/????

筋力:475

知力:???

精神:320

機敏:355

幸運:154

攻撃力:???

物理防御:???

魔法防御:???


スキル:??Lv?・??Lv?・????Lv?

    気配察知Lv3・???Lv?

    ???Lv?・????Lv?

    ????Lv?・????Lv?

    ????Lv?・威圧咆哮Lv3

称号:人蜘蛛の女王様

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 体力は五桁があり、魔力もおれよりは多い。読み取れないスキルにやはりおれよりは高い数値の知力、さすがは女王様といった所か。



「先から気になってましたけど、天井からおれを睨みつけているスパイダーさんはなにですかな?」


 ダイリーが住まいを構えている住居はこの里で一番大きく、頑丈な太い木材を使用した合掌作りで組み立てられ、屋根には雨避けに樹皮で分厚く葺いている。侍女に案内されたおれとニールらを天井は高い迎賓の間でダイリーと対面したが、その天井から大きさがアラクネの半分程度の黒い蜘蛛型モンスターから、おれだけにただならぬ視線をずっと送り込んできた。



「ごめんなさいね、アキラ。うちの旦那様はヤキモチ焼きなので、うちがオスと会うことになるといつもこうなのです」


 言い終えたダイリーが両手を広げると、天井から黒い蜘蛛型モンスターが彼女の胸に飛び込んで、おれになにやら勝ち誇ったような目線を差し向けてきた。



 心配するなよ、ダイリーの旦那さん。人外はマンガや動画では好きでよく見るけど、現実的になった今は興味が湧きません。どうやってイタしたらいいかわからないし、その前にヤる気が起こらない。


 アラクネさんを見ても屹立(こんにちは)はしないんだもん。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

名前:ジョジッス

種族:アサシンスパイダー

レベル:36


体力:?????/?????

魔力:????/????

筋力:370

知力:112

精神:256

機敏:???

幸運:156

攻撃力:???

物理防御:???

魔法防御:???


スキル:??Lv?・??Lv?・??Lv?

    ????Lv?・????Lv?

    ???Lv?・魔力操作Lv3

    ????Lv?・???Lv?

称号:人蜘蛛の王様

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 そうか、蜘蛛型モンスターはアサシンスパイダーという種族なのか。ダイリーの旦那はジョジッスの名が付いて、王様だけであって妻に負けない程度の強さはあるみたい。



「お初お目にかかる、王様。おれはアキラという人族です、以後お見知りおきを」


 丁寧なあいさつに気を良くしたかのように、アサシンスパイダーのジョジッスはダイリーに抱かれながら、足を一本だけおれに向けて上げてくるように振っている。



「シッシャー」


 なにか王様からありがたいお言葉を頂戴したようですけど、さっぱりわからん。というか、アサシンスパイダーに言葉は解するのか。



「大儀であると言ってますのよ、アキラのことが気に入ったみたい」


 朗らかに笑っているダイリーの胸にいるジョジッスは、ダイリーの通訳に八本の足をせわしくワサワサと動かしている。おれとしてはどこで気に入られたのか、その要素を見出すことはできませんでした。




 ニールはエルフと兎人たちを連れて、侍女に案内されて部屋のほうへ休憩しに行った。この場にいるのはおれとネシアに王様と女王様、あとはお茶をお替りしてくれるアラクネの侍女が二人だけ。ここは女王様とお茶を飲みながらお話をしたいと思っている。



「まずはいきなりニールが襲い掛かったことをお詫びしたいと思います」


「いいのよ。うちらアラクネとアサシンスパイダーは見た目がモンスターそのものだから、ニール様の取られた行動をアキラが詫びる必要はありません」


「そう言っていただけると助かります」


「ところでお聞きしたのだけど、なぜアキラたちはケモノビトとモリビトを連れてこのような森の奥に来たのです?」


 旦那のアサシンスパイダーを両手で撫でつつ、ダイリーはおれに問いかけてくる。ジョジッスは気持ちよさそうにもそもそと動いているから、おれも撫でられてみたい思いに駆られたがそれを口にすることもなく、ダイリーの問いに返事する。



「アラリアの森のヌシ様である地竜ペシティグムスに会いに来たんですよ」


「なんと、うちらを滅ぼしに来たのではなく、地竜(アースドラゴン)様に会いに来たと?」


 ダイリーは返答を聞くとすくっと八本の足で立ち上がり、旦那のジョジッスはその拍子でダイリーの足元に落ちてしまっているが、その体勢で小刻みに体を震えさせている。



「いや、あなたたちアラクネと会ったのは偶然で、この森に暮らしていることも知らなかったから、討伐しに来るわけないじゃないですか」


地竜(アースドラゴン)様にお会いしたいなんて……人族は恐れを知らぬか」


「……キシャー……」


 おれが弁明していることをこの蜘蛛の夫婦にはまったく耳に入らなかったようで、話を進めるためにも地竜(アースドラゴン)様の強さを聞いてみる必要があるみたいだ。



「おーい、聞いているか? あなたたちから見ても森のヌシ様はそんなに強いのですか?」


「人族は知らないのでしょうけど、以前にマンティコアたちがパーピーの一族とうちらに攻撃したことがあって、森の喧騒を嫌った地竜(アースドラゴン)様は口から火を吐き、一瞬にしてマンティコアたちが数百はいたマンティコアの里を全滅させたことがあったんです」


 おれが単独でマンティコアと戦うのなら、素材を放棄しての上級光魔法を使って攻撃するか、神器であるダンジョン武器である滅龍の槍や破滅の斧を使用する必要がある。それをブレスだけで数百体のマンティコアを殺し切った地竜(アースドラゴン)は確かにお強い。


 だが、ここでうちの大先生の威光を出しておかないとな。



「ダイリーさまが言う通り、地竜(アースドラゴン)は強いと思うけど、おれたちにはニールというとーても強いお方がいるから心配なしだよ」


 ニールの名がおれの口から出されると、蜘蛛の夫婦や侍女さんがおれのほうに向いて、ネシアまでもがおれのことを見ている。



「ニール様はどのようなお方ですの? 人族にはとても見えないわ」


「ッシシッシャシャー?」


「...アキラ、ニール様はいったい何者ですか?...」


 ニールがこの場にいないため、ネシアはずっと聞きたかったことを蜘蛛の夫婦と一緒に聞いてきている。おれのほうもネシアに確認したいことがあったので、まずはそれをネシアに質問してみる。



「ネシア、その問いに答える前に聞きたい。ネシアはニールのことを見通してみたことはあるか?」


「...ええ、あるわ。だけどまるで力を強引に散らされたように何も見えて来ないの。...」


 不思議な出来事を思い出したネシアは困り果てたようにしきりと頭を左右に振っているので、彼女もおれと同じようにニールから覗き見を撥ねつけられたようだ。でもおかげで神話級の強者には人物の鑑定ができないことは確認できた。



 確信するためにも今度はエデジーさんに鑑定させてくれることを願い出てみよう。



「ニールは何者かは言えない。というよりはあなたたちは知らないほうがいいと思うので教えない。世の中には知らないほうが幸せでいられることもあるのでな」


「アキラがそう言うなら聞かないでおきますわ」


「……シャー」


「...わかったわ。アキラはあたしたち森人を騙すことがないから信頼してる。...」


 おお、女王様と王様にエルフ様から嬉しいお言葉を頂けた。それならニールの情報を少しだけ教えてあげよう。



「これだけははっきりと言える。ニールからすれば地竜(アースドラゴン)なんてただの地に這うトカゲ。戦えば対等どころか、勝負すらならないはずだ」


 おれが言ったことに蜘蛛の夫婦と侍女さんの蜘蛛さんたちは揃って一斉に震え出したので、見ていてとても面白かった。侍女さんのお胸様のプルプルに、おれの首も釣られてプルプルしてしまった。




 すでに何杯ものお茶のお代わりを頂いて、この森に住むほかの魔物のことやアラクネ一族の歴史などの情報ををさわりだけ耳に入れた。今後の交流については獣人たちの意見がまとまってから、改めて獣人さんと一緒に訪問するとダイリーに了承してもらった。


 王様なのにこういうことにはまったく興味と意見を持たないで、嫁さん任せのアサシンスパイダーの王様は女王様の胸の中でスヤスヤと寝ているようだ。侍女さんは女王様から熟睡している王様を預かると奥の部屋へ運んで行く。



「お(いとま)を頂く前にダイリーさまにお話があるのです」


「なんでしょうか?」


 女王様がご着用している服はセンスがとてもよく、大きすぎない胸を大胆的にクロスホルターネックで胸の谷間を見せつけている。素材のほうも間違いなくアラクネの糸で作られているので、この村で作られている衣服と素材であるアラクネの糸を、恋人(エティ)の商売のためにダイリーとつながりを作っておきたい。



「ダイリーさまの村で作られている服やアラクネの糸を売ってくれませんか?」


「売る? ああ、昔におババさまから人族では物を交換するのに、小さな丸い金属板を使っていると聞きました。だけどそのようなものはうちらには価値のないものですよ」


 それもそうか、ダイリーのいうことがもっともだ。


 彼女たちは貨幣を通しての経済行為ではなく、物と物を交換することでほしいものを得る。原始的というよりもこの森で人族や獣人族など他の種族との交流がないから、封鎖的な社会構成を長期的に営んできた彼女たちにとって、人族の貨幣など意味のない金属の板でしかない。



「ダイリーさまはなにかほしいものがおありですか? それと交換するというのはいかがでしょうか?」


「畑を耕す道具がほしいですの。人族がこの森に来ていた頃に交換したものがほとんど使えませんのよ」


 つかつかとおれのそばへアラクネの女王様は目を輝かせて近付いている。上品な顔立ちに立ちこもる色香におれはクラクラさせられた。しかし残念ながらおれには人外と人妻属性がないから劣情に走ることはない。



 もう少しお胸様があったらなあ……って、いかんですよ! ダイリーの旦那はアサシンスパイダー、おれは暗殺されたくありません。



「それならいいものがありますよ、是非それで交換させてください」


 アイテムボックスにはエティリアから担保として預かっている農具がたくさんある。鋤、鍬、鎌に熊手、確かに手斧もあったな。これなら喜ばれるかもしれない。



 エティ、待っててな。きみが人族から二束三文で叩き買いされそうなものを、人族が羨むような商品に変えてやるからね。




アキラには見えない人蜘蛛夫婦のステータスです。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

名前:ダイリー

種族:アラクネ・クィーン

レベル:53


体力:14250/14250

魔力:4455/4455

筋力:475

知力:175

精神:320

機敏:355

幸運:154

攻撃力:873

物理防御:768

魔法防御:485


スキル:夜目Lv5・回避Lv5・身体強化Lv4

    気配察知Lv3・糸巻きLv6

    土魔法Lv8・防御魔法Lv7

    回復魔法Lv5・魔力操作Lv7

    配下指揮Lv8・威圧咆哮Lv3

称号:人蜘蛛の女王様

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

名前:ジョジッス

種族:アサシンスパイダー

レベル:36


体力:11100/11100

魔力:3312/3312

筋力:370

知力:112

精神:256

機敏:425

幸運:156

攻撃力:654

物理防御:676

魔法防御:325


スキル:夜目Lv6・回避Lv7・加速Lv8

    気配察知Lv4・気配遮断Lv6

    土魔法Lv5・魔力操作Lv3

    身体強化Lv4・暗殺術Lv7

称号:人蜘蛛の王様

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



ありがとうございました。

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