第77話 ヌシ様に会いに行こう
銀龍メリジーこと武芸の達人に鍛え上げられた兎人とエルフの若者たちは、おれから見ても間違いなく強くなっていた。今度、ニールと二人きりになることがあればおれも稽古を付けてもらうつもり。もちろん、臨死体験を覚悟した上でだ。
「...アキラ、こんなにいいものをもらっていいの?...」
ネシアはおれからもらった装備一式を身に付けている。ダンジョンで得た装備はそれこそおれに装着できないものが多くて、コレクションとして死蔵するだけではもったいな過ぎるからこういう場合は出し惜しみしないでプレゼントはさせてもらう。
なにもネシアが美形のエルフ女性だからではないからね。
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名前:ネシア
種族:エルフ
レベル:12
職業:森人の導き手
武器:シルフィードスタッフ(ミスリル製杖・攻撃力+350・風魔法使用魔力半減及び射程延長)
頭部:エルフィ・コロネット(物理防御+50・魔法防御う+75・精神力+50)
身体:メイガス・ロープ(物理防御+75・魔法防御う+75・物理魔法攻撃半減)
シルフ・カンディス(物理防御+150・魔法防御う+100・風の防壁)
アラクネ・ビスチェ(物理防御+45)
腕部:サラマンダー・ムスクテール(物理防御+120・魔法防御う+50・火と炎魔法効果倍増及び射程延長)
脚部:無し
足部:シルフ・アルパルガータ(物理防御+30・機敏+50)
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うん、強いね。こんなものおれが持っていてもしょうがないからネシアに着用して頂こう。見た目も清楚な仕上げで王女みたいになっているし、彼女が持つ魔法の威力を底上げした装備になっている。
「ネシアさんに使ってもらえればいいよ、きみに相応しいものばかりと思うから」
「...ありがとう。...」
身体を屈めてお礼をしてくるネシアは、森の守り手としてこれからエルフたちの頂点に立つ。狙われることもあるだろうし、エルフを守るために戦うこともあるだろうからこのくらいの装備はあってしかるべき。なにより、エルフスキーとしてのおれは美しい彼女を着飾ってやりたかった。
陰の日の終わりにアラリアのエルフの集落でネシアが森の守り手になった祝いの宴会が開かれた。おれからのオークの肉と牛肉はやはり大変喜ばれて、エルフが醸造した果実酒の樽が広場の真ん中に運ばれてくる。
この果実酒は実に良い口当たりで飲みやすいからおれとニールはこれを気に入って、エルフさん特製で牛肉の果実煮込みやオーク肉の香草包み蒸焼きと相性が抜群であるため、おれもついつい深酒になってしまって、そのまま広場の隅で眠り込んだらしい。
朝陽が眩しくておれは用意してくれた宿泊先のベッド上から身体を起こしてからしばらくボーっとしたが二日酔いはなっていないみたい。森の主地竜ペシティグムスのことが片付いたら帰りに集落によってエルフの果実酒を交換して、エティリアにも飲ましてやりたい。
「これからの出発かあ……若者たちのレベル上げして祭壇の岩まで行くとしよう」
長老さんたちは祭壇の岩の位置を教えてくれた。そこはアラリアの森人が森のヌシ様にエルフの果実酒を献上するための大きな岩であるらしく、果実酒を置いておけば地竜ペシティグムスが果実酒を飲みに森の奥から現れるだそうだ。
身なりを整えてから、同行するメンバーと合流するために集落の広場へ向かった。
「んん? なんでネシアさんがやる気満々でみんなの中に混ざっているのかな?」
おれが渡した装備一式を着込んだネシアが若者たちに交じっていて、本人はコソコソと隠れたつもりだろうがまぎれもないその美形、彼女を止めようとする長老たちが取り囲んでいることですっかりバレている。
「...アキラの役に立ちたいです。...」
ネシアは懇願するようにおれに語り掛けてくるが長老さんたちが黙っているはずもない。
「いけませんぞ! 森の守り手になにかあればローイン様に申し訳が立たぬ」
「さよう。ネシアはわれらアラリアの森人に限らず、同胞たちを導く立場にあるぞ!」
「危ないことはいけません、同行することは許しませんよ」
「アキラ殿もなんとか言ってやって下され」
馴染みの長老さんに頼まれて、おれからも一言を言えということらしい。
「なんとか?」
おれの気が抜けるようなくだらない一言で凍り付いた空気が辺りを張り詰めている。みんな、その可哀そうな生き物を見るような目でおれを見るんじゃない。
「……」
「ったくよ、てめえのバカさにゃあ、ほどほど呆れかえるぜ」
長老さんたちは沈黙を保ったまま今にも溜息をつきそうな表情を見せて、ニールはおれの横で何とも言えない顔でおれに文句を言ってくる。ニールさん、そのにゃあってのが子猫の鳴き声みたいで可愛かったのでワンスモアプリーズです。
「バカは放って置いていいんだよ。ネシアは連れてく、強くしてやるから俺に任せろ!」
「まあ、ニール様がいるなら……」
「さようか。ニール様がそう言うなら問題はない」
「ニール様、くれぐれもネシアのことを頼みますね」
「ニール殿、貴方様だけが頼りです。どうかネシアに力添えを!」
長老さんたちはニールに縋って、ネシアの安全と強化を願っている。気を良くしたニールは右手で胸部を強く叩いて、膨よかで豊かなお胸様がボヨヨンと揺れ動いていた。本日のベストショットですね、眼福眼福。
「おう!俺に任せろ、心配はいらねえよ。ハーハハハハっ!」
この場ではおれのみがいらない子となりました。みんな、おれのことはいないように集まっていて、ネシアまでもが高笑いしているニールの手を握っている。そりゃ空気を読まないおれも悪いけど、この扱いはないんじゃない? グレてやるぞ? グスン
結局ネシアのお守りでアラリアの森人から5人の使い手と成長させたい若者が10人、おれたちと同行することになった。これでエルフが16人、兎人が5人とおれにニール。合計23人のヌシ様訪問隊を組むことになったが、地竜ペシティグムスに会うのはおれとニールは勿論、ネシアも加わることに強く主張して譲らなかったので最終的におれも妥協することにした。
森の守り手である彼女はこれからエルフを統率していくことになるので、大物とお知り合いになっても損はない。これはいわば保険みたいなもので、人族といざこざが起きた場合は彼女にも頼れる存在をおれは増やしてほしかった。
「さあ、いくぜてめえら!」
「うおーーっ!」
「ケっ……おにぎりはうまいぜ」
号令を怒声で発したニールにほかの全員が威勢よく声を合わせて上げている。ふてくされているおれは地べたに座り込んでおにぎりを食べていた。
「ったくよ。いつまで立ってもシマらねえ野郎だぜてめえはよ。おらっ行くぜい!」
「ま、待って? せめて飲み込ませて」
おれの願いをニールが聞き届けることもなく、おれの首根っこを掴んでからズルズルとアラリアの森へ引きずっていく。
「そっちに行くぞ、盾役はしっかりみんなを守ってね」
魔素の塊を踏もうとしているおれは隊形を組んで備えているエルフと兎人たちに声を掛ける。エルフたちは中々優秀な魔法の使い手で、風魔法の威力は同じ初級でもおれのに比べて威力が高かった。
特にネシアはローインに祝福を授かられ、風の精霊ペッピスは彼女が魔法を行使する度に補助術をかけているようで、その風魔法は初級でも中級くらいの殺傷力を誇っている。いいなあ、おれにも優しく背中から抱きしめるようにお胸様を当ててくる女性の人型精霊様がつかないのかな。
アラリアの森のモンスターは多様であった。
アルス砂漠で出会った鳥人のハーピーはこの森で現れている。彼女たちは飛びながら鋭い巨大な爪で空中から狙う一気に飛びかかって、致命的な一撃を狙ってくる。追いつめたと思っても翼から尖った羽を飛ばしての射撃攻撃を仕かけてから逃亡を図ったりする。おかげで今のおれは傷ついたエルフや兎人たちのヒーラーに徹することになった。
蜘蛛型半人のアラクネはモンスター化した次の瞬間、木の上へ移動しておれたちの頭上から絡めようと糸を飛ばして来たり、初級の土魔法を使って来たり、剣のような八本の足先で切りつけてくるなど多彩な攻撃を仕掛けてくる。
尻尾の先に毒針を持つ半人のライオン型モンスターのマンティコアは番でタッグを組んでいる。オス型は鋭利な爪と火魔法をメインに正面から攻撃してきて、メス型は風魔法を使用しながらその尻尾を鞭のように使って全体的に薙ぎ払ってくる。息の合う攻撃にときには一方的な防戦を強いられている。
ほかにも魔素の塊からゴブリンにコボルト、オークやオーガなどがモンスター化してきて、アラリアの森はハッキリ言っておれから見れば危険度がとても高い。その分、素材の回収は豊作と言っていいほど大量に集めることができた。
どのモンスターからも魔石はもちろん、パーピーは羽と爪、アラクネは足と糸、マンティコアからは爪に尻尾や使い勝手の良さそうな皮を取ることができた。ただ、おれとしてはいささか困ったことになっている。メス型のモンスターはどいつもこいつも色っぽ過ぎなんだよな。
「うーん。これはやっぱりお胸様だよね……いったっ!」
「てめえはメスならなんでもいいんかよっ!」
アラクネの死体を眺めてその胸部を突いていたおれはニール様からキツいお叱りを受けている。
「だってさあ、ゲームは平面だよ? 3Dでも画面は平面だもん。立体的にはできていないよ」
「んだよそのげーむとか、すりーでぃとかよ。わけのわかんねえことを抜かすな! 素材素材とかいつもはほざいたじゃねえか!」
「だってさあ……」
やはりモンスターとは言え、上半身が結構妖艶な美女もいたりするわけで、おっさん的に心理的のプレッシャーがかかって来るわけですよ。オス型やどう見ても美人には見えないオークやコボルトなどのメス型なら簡単に剥ぎ取れるのだけど。
「あの、アキラさん。あたいらがやりましょうか?」
おれの様子を見かねたようにゾシスリアからの助け船が来た。
「頼めるか?」
「はいっ、任せてください!」
エルフや兎人の若者たちはおれから教わった解体術でモンスターの素材を剥ぎ取りに取り掛かっている。
「マジでしまんねえ野郎だぜてめえはよ」
呆れ顔でニールはおれをばっさりと切り捨てる。
そんなこというなよ。動物や人と似つかないモンスターならおれも喜んで素材集めに勤しんだりするが、美女のモンスターは初体験でまだ慣れていませんから勘弁して。
モンスターの素材は一旦おれのアイテムボックスに預かって、エルフの集落へ戻ってから分配することになっている。ネシアは全部おれの取り分でいいと言ってくれたが、おっさんとしてはいい恰好するためにもエルフ様にはおすそ分けしたい所存でござるよ。
あ、ローインの口癖が伝染っちゃった。
おれたち一行はヌシ様を果実酒でおびき寄せるため、祭壇の岩を目指してエルフと兎人のレベル上げをしながらさらに森の奥へ踏査していく。
ありがとうございました。




