第75話 エルフ女王様の実力
長老さんとネシアにパステグァルはローインが消えた後でも地面に跪いたまま、しかも頭を下げたさきにおれがいる。なんだかこれ、パターン化してきたな。
こういうのはいつまで経っても慣れないおれ。ただ精霊王からローインを付けてもらい、そのローインはエルフたちにとっては森の守り神であり、そのローインがネシアの力量を認めたうえで森の守り手に任命した。この解釈でおれが役に立ったことなどなにもないじゃないか!
「あのう、話が進まないので普通に座ってもらえると助かるけど」
「滅相もない! ローイン様の精霊使いにしてネシアを忌子から解き放っただけでなく、さらにはローイン様にネシアを森の守り手にお認めになって頂いた。ひとえにアキラ様のお導きによるものでございます」
とうとう長老さんの言葉使いがございますとなったよ。はあー、おれはエルフ様とお友達にはなりたいけど、従われようとは思っていないよ。
「...アキラ様。このネシアの身はすでに森の守り手としてローイン様に捧げられるものですが、アキラ様のお役に立てられるのならなんでも致します。...」
「え? 森の守り手って人身御供なの?」
あのアホ鳥があ! きれいどころのネシアをどうするつもりだ? まさか異種間淫行をするつもりじゃないだろうな? スマホのメモリー残量をチェックしなくちゃ、ちゃんと撮影して記録に残さないと。
「とんでもございません! 森の守り手はわれら森人の誉れ、全ての同胞をローイン様の教えに従って導いてくれる者なのです。すでに先代の森の守り手が亡くなられたこと久しく、長らくわれらに森の守り手が現れることはございません」
「ああ。女王様みたいなもんだね」
「そのじょおうさまというのはいかなるものかは存じないが、われら全ての森人が従うべきお方なのだ。それがネシアであるとは……ううっ、先代の巫女もさぞや喜ばれることでしょう。生きているうちに知ってもらいたかった……」
「...長老様、お言葉だけでも母は嬉しく思ったことでしょう...」
「ネシアお姉さま、おめでとうございます。パステは、パステはもう……ウェーン!」
まあ、エルフたちにとっては慶事なんだろうね、みんなは跪いているのにで肩を抱き合って喜びを分かち合っていた。だけどおれとペッピスは暇でしょうがないじゃないか。
「エルフ姉ちゃん、よかったね。ペッピスはとても嬉しいよ……」
イタチよ、お前もか。
そのペッピスだが、尻尾が5本になっているよ。どういうこと? 考えられるとしたら、ローインから祝福を受けたネシアの力がこの精霊にも伝わっているように思える。ネコミミ婆さんのときのフクロウと同じことがこの風の精霊にも起こったということか。
「ペッピス」
「なんだよ、人族のおじさん。せっかくぼくが感動しているのに」
「いいから身体を顕しなさい、できると思うから」
「無理だよ。ぼくら森に住む精霊にそんな力はないから」
「いいからいいから。やってみてよ」
「もう、無茶をいう人族のおじさんだね。やってみるけど無理だからね!」
おれがイタチの精霊と喋ているのを訝しげに見ているエルフたちは沈黙を保っていたが、決意したネシアのほうからおれに問いかけてくる。
「...アキラ様? どなたとお話しをされているの?...」
遠慮した口調と仕草がとても美しいエルフ様におれは微笑んで答えることにした。
「きみの近くでネシアを守っていた者だ。風の精霊ペッピスという名のね」
「人族のおじさん! できた! ぼくは顕現することができるんだ!」
イタチの精霊ペッピスは嬉しさを露わにしておれに声を上げてからネシアのほうに身体を向ける。
「エルフ姉ちゃん!」
「...あなた、精霊さんね。初めて会った気がしないわ。...」
黄金色したイタチの精霊は五つの尾をなびかせて、月の光を浴びながらその輝きを持って唖然としている美しいエルフ様の胸元に飛び込む。それは絵画にして後世まで残しておきたい森人と精霊が邂逅した光景であった。
本音でいうとはおれも精霊と一緒に美しいエルフ様に飛び付きたかった。
だがそれではいやらしいおっさんがきれいなおねえさんに襲いかかっている洒落にならない低俗的なエロ絵図になってしまうので、我慢に我慢を重ねて、おれは自分の忍耐力という数値化にされない能力のレベルをあげた。
「いいか、これは約束だ。集落へ帰ってもおれはアキラ殿、様付けで呼ばないように」
くどいほどに嫌がっている長老さんにおれは根気よく説得を続けた。それでも納得できなさそうな長老さんに自分の気持ちを打ち明ける。
「おれは、あんたたちエルフと対等でいられる友達になりたい。おれのことを精霊使いとして崇めるのじゃなくて、友として認めてほしい」
「...アキラ様……アキラはどうしてあたしたち森人にここまで親身になってくれるの?...」
肩にペッピスを乗せたネシアは率直な質問をしてくる。おれの答えを待つように長老さんもエルフの少女パステグァルも何も言わないままジッと見て来ている。
「おれは遠い所から来た、故郷ではあんたたちエルフは物語の中でしか存在しない。そんなあんたたちと出会えて、話することもできた。これを感動と呼ばずに何と呼ぶ? だから、できればあんたたちと仲良くしていきたい。お友達として」
それが偽らざるおれの思い。だってさ、エルフだぜ? 耳が尖っているのですよ? 夢中になっていたゲームと小説にしかいないと思った架空の生物が生身で感情豊かにおれと喋っている。これにそそらないはずがない。
「アキラ様……いいや、アキラ殿とお呼びしましょうぞ」
「アキラさん、絶対にお友達になってください!」
長老さんとエルフの少女はウルウルさせた眼差しをしておれの右手と左手をそれぞれ握って来る。美形なるネシアは微笑みしてからおれのほうに頭を下げて礼をしてくる。
「...精霊使いのアキラ。あたし森の守り手ネシアは、あなたを森人エルフの同胞として絆を結びましょう。末永くわれらエルフと仲良くしてくださることを願うわ。...」
エルフスキーのおれは異世界で一つの夢を果たすことができた。エルフと仲のいいお友達になれました。
集落でエルフ様たちが大騒ぎになったのはもう言うまでもない。集落のエルフたちはネシアが忌子ではなくなったこと、ローインから森の守り手として認められたこと、風の精霊ペッピスを従えたことにお祭りのように集落が賑わっている。
「...われらアラリアの森人、いいえ、われら全ての森人はローイン様のお使いであるアキラを友として友情を誓いましょう。アキラがヌシ様とお会いしたいのなら、その決意を支えてあげましょう...」
ネシアの演説が決め手となって、満場一致でおれが森のヌシ様地竜ペシティグムスを探しに行くことに支持してくれた。たとえこれがアラリアの森人の絶滅に繋がるとしても、この場にいる全てのエルフに異論を唱える者はいないくらいの決心らしい。
そんなことはおれもそうだけど、銀龍メリジーがさせるはずもないけどね。
「いねえと思ったらローインを使って森人を誑かしやがったんか」
「人聞きの悪いことは言わないでくれ、誠心誠意、真心を込めておれの人となりを知ってもらっただけなの」
ニールは兎人とエルフの若者を連れて、森で時折りで会うモンスターを狩りながら戦闘技術を教え込んでいたみたい。ニールと同行した兎人とエルフの若者は精悍そうな顔付きになってきているので、このあとはモンスター化でレベル上げするだけ。
「この後はどうすんだ? まだここで遊んでくか?」
ニールの問いにおれは頭を横に振った。
「もういいよ。許可はしてもらえたみたいなもので、森の主に会いに行こうかと思ってる」
「そうか。ペシティグムスをやりにいくんだな?」
「物騒なこと言うなや! 話し合いをするだけだ。ドラゴンとやり合うなんて冗談でもよせよ、怖いわ!」
「軟弱なやつめが。地竜ごときにビビってんじゃねえよ」
ニールは軽蔑した目でおれを見てくるけど、お前の基準でおれを測るじゃない。地竜の強さはわからないが、森の主として恐れられているから並大抵のモンスターでも歯が立たないはずだ。
「...あのう、アキラ。こちらのお方がニール様なの?...」
おれがニール話し込んでいるところにネシアがペッピスを連れて、遠慮しつつ少し離れた場所から声を掛けてくる。
「ああ、そうだよ。ニール、このエルフさんがローインに森の守り手にされてしまったネシアさんだ」
おれの説明にニールは無言で鋭い視線をネシアに送っている。ニールに見つめられているネシアは居心地悪そうに狼狽した顔色を見せ始め、ペッピスはかなり怯えているがネシアを守ろうと全身に逆毛を立たせてた。
「おい、ニール……」
「……ふん、ローインが見込んだだけはあんな。多種族にしては大した魔力の持ち主だ」
おれがニールを宥めるよりさきにニールはネシアの実力を見定めたらしい。ローインと銀龍メリジーに認められたネシアの実力に好奇心を掻き立てられたので、ニールがいるにも関わらず鑑定スキルを発動させた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
名前:ネシア
種族:エルフ
レベル:12
職業:森人の導き手
体力:204/204
魔力:2247/2247
筋力:68
知力:???
精神:555
機敏:78
幸運:142
攻撃力:68/(68+0)
物理防御:51/(48+3)
魔法防御:0/(0)
武器:無し
頭部:無し
身体:アラクネ糸の布(物理防御+48)
腕部:無し
脚部:無し
足部:ツタのサンダル(物理防御+3)
スキル:風魔法Lv3・???Lv?・回復魔法Lv2
時空魔法Lv1・精霊魔術Lv1・弓術Lv1
交渉術Lv3・気配察知Lv2・異常耐性Lv1
魔力操作Lv2・魔力使用半減Lv2
ユニークスキル:魔力増強・風炎混合魔術
絶対風壁・精霊召喚
人物看破
称号:アラリアの元忌子・森の守り手
風の精霊の祝福
炎の精霊の祝福
森風の精霊使い
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ネシアのステータスにおれも驚いた。知力は慣例である想定通りなのでなんの感想もないが、その凄まじいともいえる魔力の量にびっくり、レベル12でこの高い数値、レベルが上がればどうなることだろう。
それにしても彼女のユニークスキルとスキルの多さ。スキルどれも低レベルだが、鍛えたら彼女はどこまで強くなるのかを想像せずにはいられない。
装備はおれのコレクターから彼女に相応しいものを見繕ってプレゼントする、ムチに皮革のボディスーツ。おっさんの趣味全開でいこうかな? ひゃっはっはー。
「...そんなにずっと見つめられると恥ずかしいの...」
「あっ! ごめん」
「人族のおじさん! 変なことをエルフ姉ちゃんにしたらぼくが許さないからね」
いつものように妄想していて彼女を凝視してしまったので逆毛のイタチはおれのことを警戒して威嚇してくる。ネシアはいうと頬を赤く染めて上目遣いでおれを見つめている。
違うんだ、そういうつもりで見ていたわけじゃない。
「エティにチクってやんからよ、覚悟しな」
「やめてくれよ」
ほら、ニールが脅迫してきたじゃないか、こいつの口止め料は数が多いんだよ。まあ、チョコに炭酸飲料水、どれも無料だからいいか。
ありがとうございました。




