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第57話 鬼が出る山には用心棒

 シンセザイ山脈の山道で出てくるモンスターはワイルドベアやグレイウルフなどの動物系が多い。


 いつもならおれは光魔法を使って連射していくのだが、今回は全くと言っていいほど出る幕がない。大先生のお蔭様でモンスターどもは出ては消えるのサイクルに陥っているのみ。唖然としているうさぎちゃんの口を後ろから抱きかかえるようにして塞いでやりたい。



「こらー、バラバラにするな!素材の価値が下がるだろう」


「うっせえよ、これでも手加減してるんだぜ」


 うん、知ってるよ。銀龍(シルバードラゴン)と名乗っているだけであって、彼女は実に恐ろしい魔法の使い手だ。



 伝承通りに彼女の光魔法は驚異的な威力を誇っている。おれの初級光魔法以上の細さでおれの上級光魔法をはるか上に行く破壊力、光魔法をメインに使っているおれにはそれが一見するだけで理解できた。ブレスと光魔法のみで人魔の争いのときに魔族を鎮めさせた神話に誇張の記述はない。



 それにしても大漁、ワイルドベアにコカトリスにアイアンゴーレムにグレイウルフだ。これらの素材は収入が期待できそうで、エティリアの腕ならいい値で売ってくれるだろう。



「お? 魔石がオークの奴より大きいね」


「興味ねえよ、欲しけりゃ全部くれてやんぜ」


 さもあろうな、先からニールはあくびをしてばかりでモンスターの解体を手伝ってくれない。まぁ、銀龍に解体をやらせるのもどうかと思うからおれも言わないけど。



「……等級4の魔石、普通はあまり目にかかれないもん」


「えっ? そうなの? やったじゃん、高値で売ってね」


 ぼそぼそと話しているエティリアにおれはせっせと貴重であると思われる大き目の魔石を集めている。ニールはいうと荷台で眠り始めているし、お気楽なもんだ。



「アキラっちとニールっちって何者なの?」


「え? バカもん?」


「それは前に聞いたもん、真面目に答えて欲しいだもん」


「こらーっ! 誰がバカもんじゃ。絞めんぞてめえ!」


 寝てないじゃないか、ニール。しかもすごい地獄耳だこと、離れているのに聞こえるだね。



「うーん、エティさん。必ず本当のことを話すから今は黙認だけしてくれ」


「……うん。アキラっちがそう言うならあたいは黙ってるもん。でも! いつか本当のことを教えてほしいもん」


 ああ、約束だからそうする。ただ教えられるのはおれのことだけだよ? 銀龍のことなんか話をしたら気味が卒倒しそうでおっさんは怖いのよ。




 山道の途中で魔素の塊があるので何気なくどんなモンスターが出るかと思って踏んでみた。身長が約3メートルで筋肉が盛り上がっていてがっちりした強靭な肉体、二つの大きな角が頭から生えており、その人型のモンスターの両目には凶暴な殺気が込められている。


 これはゲームで見慣れたモンスターの大鬼(オーガ)だ。



 何より驚いたのがオーガはモンスター化したときから武器を所持していて、これは今までにないパターンである。それは1.5メートルはある長いな剣であり、鉄製のものと違って太陽の光りを反射するほど表面は滑らかで切れ味も見るだけでも察せるほどその刃は鋭利なものである。


 オーガがその剣を持つとそれが片手剣のようにに見えてしまうが、実際の攻撃範囲を想定したらうかつにオーガに近付くことはできない。



 大鬼(オーガ)はオークと比べ物にならないほど強いことはその外見からでもよくわかる。なるほど、山の鬼が人を拒んでいるというエティリアから聞いたシンセザイ山に伝わる昔話はあながち嘘ではない。



「グガァーっ!」


 心から怖れさせるような叫び声をあげるオーガは手に持つ長剣を振り上げてからおれたちのほうにゆったりと歩いてくる。おれのほうも光魔法のアイコンを開いて、野太刀を鞘から抜刀しようとした。



「うるせいよ、雑魚が粋がるじゃねえ!」


 おれの後方から光線一閃。オーガの頭が撃ち抜かれて、そのまま大きな音を立ててから倒れ込む。戦闘終了です、まさにゲームで下位のモンスターで素材狩りしているような状態。



 銀龍メリジーこと偽名ニールさん、あなた強すぎ。



 オーガが持つ剣を鑑定したけど高く売れることは確信を得たがこれは売らずに取っておく。なにかの使い道があるかもしれないし、一応は山の鬼と呼ばれるモンスター、その武器が市場に出回ると出所を探られるかもしれないから自重する。


 大鬼のつるぎ(オーガソード)(鋼製大剣・攻撃力+175)


 オーガの魔石も等級4で、オーガの皮は頑丈で鎧の素材として防具屋のほうで高く買い取られるとエティリアは喜んでいる。シンセザイ山は高値となる素材を集めるのに中々の狩場かもしれない。



 その後はニールに頼み込んで手を出さないようにおれもオーガとタイマンを張ってみた。



 結果は惨憺なものであり、野太刀はやつの攻撃で跳ね飛ばされて、初級光魔法はダメージを与えたが想像通りにやつが持っている超回復というスキルで回復されてしまった。皮革の鎧ではやつからの攻撃を減軽することなく、戦いの中で身体中に傷を負ってしまった。



「クソっ。こんなことなら黒竜の装備を着ておくべきだったぜ」


 ニールもおれの言いつけ通り、助けの手を出してこない。軽い気持ちでオーガの強さを測るために戦いを挑んでみたが、やはりおれの実力はまだまだ青くて未熟だ。



「くたばれ!」


 勝ちを意識してか、オーガはおれに向かって突進してきた。直線的な動きはこの戦闘の決着をつけるのにちょうどよかった。上級光魔法であるメガビーム砲がやつの上半身をかき消し、貴重な素材が消失したけど命があってのもの種、この戦闘での経験もきっとあとで役に立つと信じたい。



「おい、てめえはおもしれえ魔法を使いやがるな、人族にしては魔法陣がないじゃねえか」


 エティリアがおれから渡された魔石を魔法の袋に入れているとき、ニールがおれのほうに来て小声で質疑してきた。



「そこは主様仕込みということで」


 ニールに釈明するときはおれに管理神様という免罪符があるので、遠慮なく使いまくります。



「ふーん……それにてめえはなぜかモンスターと自在に遭遇できるみてえだしな」


 ギクっ!ニールにおれが魔素の塊でエンカウントしていることを見抜かれているみたい、ことに戦闘のことに関しては本当に勘がいいことこの上ない。



「魔素が地面から湧き出てるこった俺も知ってんだぜ? 俺が不思議に思うのはなぜてめえがそれを的確に当てることができるということだ」


 うん? この口ぶりだと爺さんはおれが魔素の塊が見えることは彼女に言っていないみたい。ニールになら別段隠すことでもないだけど、なんだか彼女に自分のことを全部いうのも癪だからはぐらかすことにした。



「そ、そそそこも主様仕込みということで」


「ふむ……いいや、今はなにも聞かねえよ。その代わり、もっとモンスターを呼び出せや。多種族領に強えやつがいねえから身体が怠けてしょうがねえ」


 この戦闘狂め、魔素の塊の位置を知っているならエンカウントくらい自分でやれよ。



 こうなったら魔素の塊を見かけたら残さずにモンスター化させてやる。お前に狩らせておれは素材でウハウハだからな。




 ついに山頂で大物に出会った。今までエンカウントしてきたオーガと違って、こいつの武器は大金槌を持っていて、全身を鎧の一式で着用しており、頭を見ると左目が潰されてその傷跡はかなり昔のものと思われる。その背後には十数体のオーガが従えている。


 「ヒトゾク、ケモノビト……殺ス、食ウ」


 この世界に来て、初めて喋るモンスターと出会うことができた。こいつもツワモノたぐいということか。



「うそ……片目の大鬼(シングル アイ)……」


「なんだそれは、名前まであるのか?」


「ゼノスで討伐困難リクエストのモンスター、今までだれも倒せなかったもん……」


 片目のオーガを見るうさぎちゃんの目は恐怖で満ちていて、おれのほうに身体を預けるように寄りかかって、その絶え間のない震えは腕でしっかりと感じることができた。



 ここはうさぎちゃんを惚れさせるためにも片目のオーガを倒したいものだが、こいつの強さは一般的のオーガで比べることができないので、オルトロスほどではないにしろ、ある程度の長期戦を覚悟することが必要のようだ。


 アイテムボックスから相応の装備を取り出そうかと考えているときに、ニールから肩を掴まれて、おれの行動を止められてしまった。



 「てめえじゃあ、勝てねえこったねえがここは俺に任せろや」


 「あ、ああ」


 「てめえとウサギに大先生呼ばわりされちゃ、仕事してやらねえとな」


 片目を瞑ってみせるニールの表情がとても漢らしくて、こいつの性別が男なら義兄弟でもなりたかったのに。こんなに頼りがいがあるやつもめったにいないのだろう。



 「オンナ……犯ス、食ウ!」


 片目のオーガが大金槌を振り上げたときにニールのほうはすでに貫手でそいつの身体を鎧ごと突き破って、心臓を右手で掴み出していた。子分たちは瞬く間に放たれた光魔法で眉間を貫かれて全員が崩れるように倒れていく。



 はい、戦闘終了でーす。



 おれがニールこと銀龍メリジーの実力を改めて驚く以上に、うさぎちゃんのほうが自我を失ったように目の前で起こったことを信じられないような表情でニールのことを眺めている。



 「このオーガもそこそこ強かったぜ、俺の貫手にちょっと力を込めたのは久しぶりだ」



 すでに地べたで動かなくなった片目のオーガを見下ろして、ニールがオーガの死体へ褒めるように言い放つが悪い、言っている基準がおれにはぜんぜんわからない。

 

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