表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/230

第50話 悪者さんには辱めを

 可愛いうさぎさんがおれを見つけるとすぐに駆けつけてきて、強くおれを抱きしめて泣き声をあげる。ああ、いい匂いが俺の臭覚を刺激する。


「アキラっち……フェエーン……グスン……ブビーッ」


 ええっ! コイツ、今度はおれの服で鼻水をかみやがった。



「ほほう、アキラッチという人ですな。どうやらエティお嬢ちゃんのお知り合いであるそうですな」


 無法者たちが気を失っている仲間を介抱しているときに初老のおじさんがおれに話しかけてきた。上品な服装を着用し、その材質は見たことがある。アラクネの糸で作ったものだ。一見、穏やかそうで人当たりの良いおじさんに見えるが無法者を使っているところを考えると表裏のあるやつとみていいだろう。


 なにより、エティを襲撃したことにおれは許容することができない。



「ああ、ラッチと呼んでもいいんだぜ」


 名呼びにエティのおかげで勘違いをしてくれた。ここはそれに乗っかって誤魔化しておいた方がいいかもしれない。



「ほう。ではラッチさん、エティリアお嬢とはどういうお関係で?」


「エティはおれの大事な契約商人だ。そういうあんたはエティとどういう繋がりでここにいる」


 エティのことをエティお嬢ちゃんと呼んでいるから、なんらかの知り合いであることは予測できる。



「ええーっ、大事な人だなんて。アキラっちったら、あたいは心の準備がまだなんだもん」


 はいそこーぉ、話が拗れるからうさぎちゃんは黙ってなさーい。腰のクネクネはそのまま続けてるように。



「ははは、これはこれは。あなたがエティお嬢ちゃんと契約している冒険者さんですな。ワタシはエッシーピ商会の会長を務めるエッシーピです、以後はお見知りおきを。エティお嬢ちゃんとは昔から家族ぐるみの付き合いをさせてもらってね、お嬢ちゃんがお子さんのときから遊んでもらってましたよ」


「白々しくウソをつかないで! あたいん家の商会を汚い手で潰したくせに! (ちち)さまを殺したくせに! あんたなんか、あんたなんかもうエッシーおじさまじゃないもん! ウェーン……」


 丁寧なエッシーピ商会のエッシーピ会長の言葉に反応したのはエティだった。彼女の哀れさが入り混じった悲嘆から以前にセイから聞いた話を思い出して、これでうさぎちゃんのお家の悲劇をおれは理解ができた。


 目の前にいる紳士のように見えるおっさんがうさぎちゃんのお家を嵌めやがって、崩壊させやがった。ムカつくぜ。



「おやおや、これは異なことを。トストロイさんには不運が重ねられて、亡くなられるという不幸に見舞われましたが、古い付き合いの友人としてワタシも心を痛めましたよ」


 本当、エティの言う通りだな。白々しさこの上なしだ。でもね、エッシーピ会長よ。あんたが人族であるようにおれもそうだぜ? 異世界から来たけどどの世にもエチゴヤというのがいるからな。ここはあんたの流儀で行こうか?



「なるほど、それは痛み入るね。あんたも友人を亡くして悲しいというわけか」


「そうです。トストロイさんと奥方が残した唯一の遺児であるエティお嬢ちゃんのことが心配でラクータへ連れて帰り、ワタシの許で不自由のない生活を送ってもらおうと思ったのですが聞きわけがなくてね。それで少々荒っぽいやり方ですが、ゼノスの友人にお願いして手助けをしてもらっているところですよ」


 ははは、物は言いようだが聞くにも限界があるぜ? おじさんよ。あんたのやってることをおれの世界じゃそれを拉致監禁って言うんだぜ。



「ご苦労様だな、だがそれには及ばない。エティはおれが預かることにした、あんたはなにも心配しないでとっととラクータという田舎町にお帰りになっていいぜ」


「ほほう、これは聞き捨てにならぬことを。ラッチさんがどういうお人は存じないが、お嬢ちゃんを昔から知っているワタシとしては安心してお預かりすることはできませんな」


 エッシーピ会長はスッと目を細めて、右手の手のひらがわずかに動いた。それに合わせて残りの無法者たちが得物を抜いて構えだした。



「エッシーピ会長さんよ、こっちは話し合いで済ませてやろうって親切心だったんだぜ?」


「これは気が合いますな、ラッチさん。ワタシも先まではそう思いましたがね、残念です。色々と良い品をお持ちになってそうなあなたといい友人になりたかったですが」


 交渉絶裂というわけか、いいねそれは。こういうのは嫌いじゃないよ? 元の世界みたいにここは法という縛りがないし、若い時しか患わない病気を全開してもちっとも変に思われないからね。



 無法者が足をジリジリとこっちに向かって進んできている。


 残念だね、こっちには強力な助っ人がいる。あんたらの後ろで今にもキレそうな顔でおれを睨みつけているんだ、どうもしれは暴れたいのサインらしい。オーケー、問題ない。



「ニールさーん、吠えてあげてね」


「よし来た、そうこなくちゃ!」


 驚いた全員が振り返るとそこにはスタイルがとっても良い絶世の美女が突っ立ている。



『消えろっ!』



 うむ、効果絶大。おれ以外の全員が腰を抜かして地べたにへばり込んでいる。無法者の中には粗相をしてしまったやつまでいて、クサいったらありゃしない。銀龍猛哮という技で名を付けておこう、おれも習得できないかな。



「エッシーピ会長さん、お帰りなって身を清めたほうがいいじゃないかな?」


 紳士だったおじさんが臭い匂いに包まれていて、真っ白なズボンが変な色でシミを作っていた。プププっ



「……お、覚えてなさい、この礼は必ずさせてもらうから」


あー、もうそういうお決まり事はいいから早く帰って風呂に入んなさい。




「おかえりぃ、アキラっち。助けてくれてありがとう、あたいは嬉しかったもん」


 腰に抱き着いたままで離れないエティの顔に叩かれて腫れた痕がある。二人の女性冒険者にもあっちこっちにエティを守るために負った傷があったので、その治療をするために泣く泣くエティを引き離した。


 彼女は少し不満そうな顔を見せたが、一番離れたくないのはおれなんだ。


 懐からダミー用の魔法陣を描いた紙を取り出して、回復魔法を3人に順番でかけていく。魔法のことはエティにはある程度知られているし、銀龍様にははなっから偽装不要なのだが二人の女性冒険者はまだ信用がおけないので用心するに越したことはない。



「あ、あのう、あたしモージンと言います。都市ゼノスで冒険者している者です」


「あたいはゾシスリアでモージンと組んで冒険者してます、エティお姉ちゃんと同じ兎人で従姉妹です。あたいのことをゾシスと呼んでください」



 なんだ、エティの従姉妹か。兎人の特徴である長い耳は頭から生えて、エティリアと違い、割と身長のある体付きはセイに近い体格を持ち、エティリアとセイに及ばないとしても中々のかわいい子さんだ。ただ幼さがやけに目につくからおっさんの守備範囲から若干外れている。


 でもここはなにがなんでもいい印象を与えてやらないと。おれがアキラっちお兄さんになるかもしれないからな。


 モージンと名乗るもう一人のほうは人族で、髪は短めのソバカスが目立つ快活な雰囲気をする若い女性だ。



「先は災難だったね、よくエティを守ってくれた。ありがとう」


 爽やかな笑顔で二人の若い冒険者を魅了させる、おっさんのジェントルマンぶりにこの子たちはおれに対する好感度が鰻上りのはずさ。ハッハッハ。



「あのう、後ろにいるお方はどなたですか?」


「そうそう、あたいらに紹介してくれませんか!」


 あ、好感度はそっちね。おれはお呼びじゃないのね。おーい、ニールや。お客様がお呼びですよ。チッ



「……アキラっち。その人だーれ?」


 心細げに上目遣いでおれの右手を二つの手のひらで握りしめて、うさぎちゃんは確かめるような口調でボソボソと小声で聞いてくる。


 くーっ、かわええよなこのうさぎちゃん。今からおっさん殺しと名乗って良い、おれが許す。その代わりに殺していいのはおれだけだからね。



「うん。紹介するよ。この人は知り合いで無名だが腕は抜群にいい剣客のファフニールさんだ。ニールと呼んでもいいだそうだ。ニール、ご挨拶を」


 呼ばれたニールは激しく自己主張している二つの胸をバンッとこれでもかと張り出して、首をクイッと少しだけ上にあげてから自己紹介をしようとしている。



 うさぎちゃんはその強烈な仕草にびっくりしたようで、自分の胸をしきりと撫でまわしてからニールのそれと比べているようだ。


 うさぎちゃん? いいのいいの、ニールのそれは観賞用で実戦では使えませんから気にしないでよ。



「俺がメリ……ファフニールだ。敬語はいらねえからニールと呼べ」


 随分と豪気な挨拶だね。この際だ、もうあんたが姉御でいいよ。お姉さんキャラ枠はセイが独占しているから大丈夫、被っていないから。



「ふわー、お姉さま……モージンはついて行きます……」


「カッコいいです! ニール様はそこら辺の男より漢らしいです」


 うっとりしている若いお二方、早速ですがニールの魅力に取り込まれたようだ。へーんだ、羨ましくもない、おれにはうさぎちゃんがいるからいいもん。



「うわうわっ、凄い人族だ。うんうん、カッコいいよね、ゾシスっち。あたいが男なら惚れちゃうもん」


 エティリアよ、お前もか……


 従姉妹二人と人族一人がニールに取り付いて、困惑そうにしているニールをよそにかしまし娘たちがキャッキャッと燥ぎ騒いでいる。イイなぁ、オレまたもやヒトリボッチかぁ。



 おのれ銀龍メリジー(いらないこ)め!! 可愛い子を総取りしやがって、てめえを連れてきたのがおれの間違いだぜ!




「あの会長さんはエティが買い付けた食料品を奪おうとしていたわけか。遅く帰ってきてごめんな」


「ううん、いいもん。あの時にアキラっちが来てくれたから嬉しかったもん」


 ニールのことは若い子たちに任せて、冒険者のことを教えに酒場へ向かわせた。おれはエティから事の成り行きを聞くために倉庫で彼女とこれまでに起こったことを話し合っている。


 突然に女神がここ都市ゼノスへ降臨されたことは付近の村で小麦粉を買い付けていたエティたちが帰ってきてからそのことを知ったという。



「それでね、色んな種族がゼノスへ集まってきて、急なことだからどこも食料不足になってて、商人ギルドも余剰の食料品を探してたからあたいの所へ来たもん」


「売ってくれないかということか」


「うん。でもね、食料品はあたいたちが使うもんだから売れないもん。商人ギルドはわかってくれたけどほかの商人も探してて、それでここのことがわかっちゃったらしいもん」


「あの会長さんはその線でここに辿り着いたというわけか、なるほどね」


 目前に山積みにされている梱包した小麦粉の山に目をやって、あの陰険な会長がこのまま引き下がるとは思えないから、対策は打っておくことにしようか。



「エティ、おれの魔法の袋なら全部を積み込むことができるから、信用してくれるか?」


「もう、アキラっちはなんてことを聞くの?ここにある物は全てあなたのトウシで買ったものだもん、二度とそういうことをあたいに聞かないで」



 プクっとした膨れっ面もとてもチャーミングなうさぎちゃん、本当はおれのほうから君を隙間がないくらいにきつく抱きしめたいの。だが恋愛経験の少ないおっさんはそうしても君に拒絶されることをとても怖がっている臆病もの、だから今は手も足も出ません。



 いつか、お互いの気持ちを確かめ合えたらおっさんに熱い抱擁をさせてくださいね。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ