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第48話 銀龍さんに名付けを

「いいですか、とにかくいまから都市ゼノスへ行くがくれぐれ行動には細心に自重してくれ。あんたはただでさえ目立ってしょうがないからな!」


「うるせえな、先から何回それを繰り返して言ってんだよ、わかってんだから黙ってろや。こっちとら久しぶりの多種族領の景色を楽しんでんだから」


 銀龍メリジーは元々の荘厳な音色を人族の女性らしく艶のあるものに変えているが、口調そのものは変わらず俺様のままで、美しい見栄えとは相反しているもののなぜかそんなに違和感を抱かせない。



 都市ゼノスまではメリジーがドラゴンの姿に変身して運ぶとか抜かしていたが、そういうことをやめてほしかったおれはこめかみを抑えつつ、ローインにおれとメリジーを連れて行くことをお願いした。


 神龍の爺さんと再会することを約束して、色んな怖そうなドラゴンが賑わう神殿の付近から風に包まれ、都市ゼノスへの帰途についた。その途中でおれはメリジーの今後のことで彼女と相談することにした。



「ふーん。俺にその冒険者とやらになれってのか」


「ああ、それならあんたが強いだってこともおかしくはない。いや、あんたの強さはおかしいが冒険者なら言い訳も付けられるから」


 旅人の装備である皮革の鎧をメリジーに譲渡しようとしたが彼女は激しく拒んでいた。どうやらその高貴な竜の身に下等生物である動物の皮で作ったものを纏うのが許せないと言うことらしい。


 あーそうでっか。どうせおれは下等生物だから動物の皮で作った鎧がお似合いですよだ。



 魔法少女のようにメリジーは一瞬で神聖な雰囲気を持つ白銀の鎧を一式で固められている。どう見たってそれは人の身が持つべきではないと一目でわかるような代物だ。絶句したおれに銀龍メリジー(あばれんぼ)はその鎧の由来を偉そうに教えてくれた。



「俺の鱗から変化したもんだ、着るならせめてこのくらいじゃねえと銀龍(おれ)の名が廃るわ!」


 ハッキリ言って鑑定する気持ちすら起こさなかった、とんでもない装備であることは見ただけで理解できる。こんなの人が集まるところで現れれば、ひと悶着を起こしそうのは火を見るよりも明らかだ。それでもそれはこいつが解決すべきの問題で、おれは係わることをやめようと思っただけ。



「武器はどうする?いるなら貸そうか?」


 やけっぱちに聞いてみた。どうせこいつは想像を絶するものをお持ちだろうが、聞くだけならただだから聞いてみた。



 メリジーは右手を伸ばして虚空の中から何かを掴むように手のひらでなにかを掴んでいる。引っ張り出すようにしてそのバスタードソードが神々しい姿を露わにする。この一連の動作はカッコいいよな、おれにも教えてくれないかな。



「俺の爪から変化したもんだ。竜の首だろうなんだろうとサクサクと草を刈るように切れるぞ」


 アカンやん。竜の首をサクサクと刈り取ってどうする、あんたはなにと戦闘するつもりなのか。だけどもういい、もう突っ込むまいぞ。たとえ人族との間でトラブルになってもそれは彼女が解決することで対応方法を学ぶことということだから口は出さない。



「ほう、何も言えないのはこの剣の良さがわかると見た。それでいいんだ、はははは!」


 アホが勘違いしているけど、放っておいて問題なし。おれも彼女に見習って空からしか眺められない素晴らしい景色を堪能しよう。




 都市ゼノスを遠い上空から見ても大変な賑わいであることは一望するだけでわかる、女神がここに降臨したことはすでに四周のコミュニティに知れ渡っているだろう。その分、アルス神教の関係者がここに集合していることは考えずともわかるものだ。



「ここでいいよ、ローイン。ちょっと離れているけど森に降りてくれ」


「すげえもんだな、魔族領だとこんなにはわんさかと集まらん」


 メリジーは横でなんかはしゃいでいるが無視だ。おれはこれからどうやってこの派手な女を都市ゼノスへ連れて行くか少しばかり悩まないといけない。



『わかったでござる』


 ゼノテンスの大森林へ降下し始めていると思ったら、ローインは瞬く間に森の中へ着地する。ここなら人気もなく、騒ぎを起こすこともない。



『では、拙者はこれにて失礼でござる。用があらば呼ぶといいでござるよ。メリジーも達者でござるな』


 おれとメリジーを解放した鷹の精霊は再び風となって四散した。もう見えないがとりあえず手を振って送ってくれたことに感謝をしよう。



「それじゃ行こうか、その前にお金を渡しておく。先も言ったように多種族領では食べ物や日用品を買うのに必要だ。持ってて困ることはないから」


「ああ、わりいな。対価に俺の身から変化した武器か防具を渡してやってもいいぜ」


「いりませんから勘弁して。お願いだからそういうことはよそでもやらないでくれよ、大騒ぎどころじゃ済まなくなる」


 銀龍の武器や装備が市場に出たら宗教関係者どころか都市の有力者たちが放置するわけがない。



「チッ、わかったよ。てめえの言ったことように主様から目を付けられたら俺も嫌だからな」


 そうなんだ、こいつを脅すのに管理神のことを話したらなぜか効果てきめんで一発で黙ってしまった。でも嘘はついてないよ? 管理神様とは自重することを約束しているからね。それに都市ゼノスに着いたらこいつを扱う目途もついている。



「腕のいい冒険者を紹介してやるからそいつらから冒険者のことを教えてもらえ、おれなんかよりよほど多種族領のことがわかるから」


「お前、案外いいやつかもな。そのスケベなところを直せば友くらいにはなってやんぜ」


 おや? てめえ呼ばわりからお前に昇格したよ。だけどごめんね、ただあんたのことをセイレイちゃんたちに押し付けようとしているだけだから。お詫びに魔法の袋を贈呈いたします。



「これは魔法の袋というものだ、色んなものがこの中で収納できるから冒険するのに役に立つはずだ」


「おお、これは知ってんだ。魔族領でもみたことはあるぜ。俺らは親父といるから物を持つことはねえから要らねえが、お前が役立つというならもらっておいてやんぜ」


 嬉しそうにメリジーは魔法の袋を受け取ると開けてみたり、渡した金貨4枚・銀貨45枚・銅貨500枚を中に入れてみたりと愉快そうに試していた。




 よく考えてみるとこいつは神と崇められるお偉いさんの中でも偉いほうで、俗世のことなんて知らずに済ませられる身分のお方でおられる。それが爺さんの言いつけでおれと同行することになった、ようするにおれのせいでここにいるのだ、そう思うと心がチクっと痛くなってくる。よし、ちょっとはお持て成しさせてもらおうか。



「メリジーさん……いや、この名はまずいな」


「なぜだ? なぜ俺の名がまずいのか!」


 いきり立ちそうな銀龍メリジーを宥めつつ、そのわけを彼女に説明する。



「いやな、あんたの名前は以前に知り合いがアルス神教の教典を解説しているところ、その名に聞き覚えがあるんだ。あんたの容姿と合わさって、街の中でその名を呼ぶとどうも騒ぎが起きそうで良くないと思うんだ」


「そうか、確かに俺の名はかなり知られているからな。なんかいい案はあんかよ?」


 即座に理解するところをみるとこいつもバカじゃない、むしろ頭脳は冴えるほうだと思う。直情的な感情表現や物言いは彼女の個性として見なすべきだ。



「偽名を使うのはどうかな?」


「偽名? それでいいぜ、なんか良い名はあるんか?」


 ええ? おれが付けるんですか? カンリシンサマと同様にセンスはないけれどいいのか?


「ええっとね、ファフニールというのはどうかな? 普段はファフかニールの愛称で呼んでもいいと思うし」


「ほう、なぜその名なんだ」


「あ、うん。おれの世界でよくでてくる伝説の竜の名前で、普段は人の姿しているが竜に変身することもある。なんとなく似合うじゃないかなと思っただけで」


「ファフニールか……よしっ、それでいい。お前もこれから俺を呼ぶときはこっちにしろ。人の姿で竜に変化するって話が気に入ったぜ」


「ああ。じゃ、ファフニールさん……長いからニールでいいかな?」


「いいぜ。お前が呼びやすい方でいい。ファフニールでニールか、ふふふふ」


 なぜか嬉しそうな顔をしている巨乳さん(あばれんぼ)であるが、ファフニールの伝承である北欧神話では雄のドラゴンということを教えるのは無しにしよう。だって、見た目は女でもその豪快さは並み居る男に負けませんもの。



「お腹が空いたからご飯にしてから都市ゼノスへ行こうか。メリ……ニールは飯とか食べるのか?」


「俺ら上位のドラゴンは魔素だけで生きていけるが味覚はあんよ。お前が作ってくれるなら俺も食うぜ」


 そうなのか、便利だな。魔素なんてこの星では無尽蔵にある、飢えることのないこいつは不死身ともいえる。それはそうと味覚があるというのならここは牛肉の一択、外したことのないおれの定番料理である焼き肉でびっくりさせてやる。



「はいよ。ならば異界の味を味わってくれな、本日の献立は焼き肉だ」


「ああ? やきにくだ? 何だか知らないが楽しみにしてんぜ」


 さてと、料理の準備に取り掛かりますか。




 食った。食いまくった。表面だけ焼けた(ミディアムレア)の牛肉でも間に合わないくらいに食い尽くした。メリジーもといファフニールことニールがな。


 食後のコーヒーまで美味しく頂かれ、満足げな彼女はチョコレートまで袋ごと食べられました。なぜにおれの周りは大食いが集まっているのでしょうか、はなはだ疑問に思います。とりわけニールは大食漢と形容してもあながち間違いではない。いや、一応は雌なので大食女漢といったところか。女なのに漢とはこれ如何に。



「お前、名だたる料理人であるとみた。こんなに美味しいものは魔族領でも中々食べたことがねえ」


「いやいや、ただのサラリーマンですから。そんな料理の達人みたいに言わないでくれ」


「うむ? そのさらりーまんとやらはなにかしらんが、料理ができることはいいことだ。決めた、俺はお前の一生について行ってやんぜ!」


 いやったー! 美人で神クラスの強さを誇るドラゴンから結婚を申し込まれました。えっちな生殖行為は抜きで時々暴力。異世界移転してて良いことばかり……なんてあるかっ! 食い物に釣られてきただけじゃねえか! 見た目がよくとも使えないのは頂けないぞ。



 精霊王(ようじょ)と言い、風の精霊(メガミ)と言い、この銀龍(あばれんぼ)しかり、この世界の女神とでも称されるものは食い気に走っているやつばかりなんだね。グスン



「一生はついて来ないでくださいよ。この牛肉の焼き肉は管理神様のおかげで食い放題ですから、食べたいときは食わしてやるのでストーカーは勘弁してよ」


「むむっ! すとーかーってやつはよくしらんが、主様がお許しになった食べ物なら喜んでもらってやろうじゃねえか」


 なんだかね、管理神によるせっかくの御好意も彼の一族を恵んでばかりで、俺得はどうした! こんなことになるのなら雲隠れというスキルを付けてもらうべきだったな。まぁ、そんなことよりも一刻もはやく都市ゼノスへ戻ろう。うさぎちゃんによる心のいやしを願っているおれがいるよ。



「もう行こうよ。市内へ入る行列が長いから多分待たないといけないと思うから」


「おうよ、都市ゼノスに着いたらなんか俺に食わしてくれ!」



 この巨乳さん(くいしん坊)はまたお食べになるつもりですか、とほほ。


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