第42話 焼き肉は大好評
黒い盾に隠れて頭とウサミミだけを覗かせている可愛いうさぎちゃんがチョコンとした置物みたいだ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
名前:エティリア
種族:兎人族
レベル:5
職業:商人
体力:186/186
魔力:429/429(279+150)
筋力:62
力:111(+50)
精神:32
機敏:110(+50)
幸運:40
攻撃力:62/(62+0)
物理防御:583/(75+150+350+8)
魔法防御:0/(100+250)
武器:無し
頭部:英知のサークレット(物理防御+75・知力+50)
身体:闇カラスのシュルコートウベール(物理防御+150・魔法防御+100・機敏+50)
腕部:黒竜のシールド(物理防御+350・魔法防御+250・物理魔法攻撃反射)
脚部:無し
足部:皮革のサンダル(物理防御+8)
スキル:短剣術Lv1・??Lv?
記憶強化Lv3・???Lv?
称号:愛すべき食いしん坊
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
一応スキルに剣術がついているので、護身術くらいはあるそうだ。それよりも称号が愛すべき食いしん坊って、そのままじゃないか。プププ
エティが走車の反対側で渡した装備を着替えているときに、おれはアイテムボックスから一つの時間停止付きの魔法の袋を出して、エティリアが村へ届ける食糧に関係する荷物をできるだけその魔法の袋に入れておいた。
「アキラっち、これ……暑いよ」
あれれ? 似合わないぞ。白うさぎに黒衣装、てっきり違う色の組み合わせがエティリアを引き立たせると思ったが、闇カラスのシュルコートウベールが豪華で大きすぎて、エティリアが着せられているみたいな見た目となった。ありていに言えば子供が大人のお姫様の服を着ているみたいだ。
笑いそうになるのを耐えろ、本当にこの旅はおれの様々な忍耐力を試されてばかりだ。
「アキラっち、これ全部ダンジョンから取れたもん?」
「ああ、まだ誰にも言ってないんだ。君とおれの秘密ってことで黙っててくれるかな?」
「うん! アキラっちとあたいの秘密にするね、誰にも言わないもん」
えへんという姿勢でエティリアは胸を張るが、闇カラスのシュルコートウベールの姿では布団を包まっているみたいで色気もなにもあったもんじゃない。この装備がエティリアを守るためにあるのだからこれでいい。黒竜のシールドによる反射効果はオルトロス戦で確認済み、多少のことでやられはしないだろう。
「これにエティの荷は全部入っているからこの魔法の袋を持ってくれ」
「こんなの貰えないもん」
「これは投資ということで持ってくれ」
「……本当にあたいはアキラっちになにを返せばいいの?」
そんなの求めてないしいらない。こんな大盤振る舞いしたのも、突っ込んでいるお宝を人前で気にしないで出せるのも君が初めてだ。うさぎちゃんが喜んでくれるならそれでお礼になるからね。だから、もらって。
「アキラっちはいったいなにもん?」
「バカもん?」
「もう、バカなんだから」
どうやらこのやり取りはウケそうにないからもう封印だな。
「とにかくだ、君を都市ゼノスまで守る依頼はセイたちからの報酬を頂いた。それ込みで思ってくれていいから」
「うん、ありがとうね!」
そうそう、それでいい。うさぎちゃんの笑顔ひとつだけでいいからね。愛すべき食いしん坊さん。
ゼノテンスの大森林の中にある道を進んでいくと、気になったのはたまに打ち捨てられた走車があること。エティリアはそれらの残骸を見て、森を縦断することに失敗した商人や旅人がいることを教えてくれた。
早モビスの便で物を届けたり、森の危険を知らなかったりと理由は色々かもしれないが、森の道に点在している魔素の塊の存在を知るはずもない人たちがモンスターの餌食となってしまったのだろう。
魔素の塊はモビスが踏んでもモンスター化しないが、おれとエティリアに荷台越しに掠るだけでコボルトとオークに変化して後ろから襲い掛かろうとしてくる。その都度におれは走車の操縦を止めてモンスター狩りを余儀なくされる。
「戻れ!」
ククリナイフとハチェットを交代して投擲してモンスターの眉間で一撃で殺し、エティリアは驚愕して口が塞がないままおれを見ているだけ。アイテムボックスに放り込んだモンスターの死体がたまったらまとめて解体する。その素材も投資するからと言うことでおれとエティリアで平等に分けることにした。
ゼノテンスの大森林に肉体を得て棲み付いたモンスターたちが襲ってくることもあった。それらのモンスターは産まれたてのモンスターよりも知恵がついて、行動そのものに狡猾さと残虐性が備わっていた。深い草に待ち伏せして飛び出してくるやつ、木の上から飛び降りてくるやつ、モビスを先に始末しようとするやつ。そいつらは全部、おれが魔法や投擲術で1体も残さずにことごとく討伐を果たした。
このゼノテンスの大森林にある森の道が危険と言われていることがおれにもよく理解できた。
「前はね、父さまと通ったの。あの頃は冒険者を雇うこともできたもん……」
「そうか。お父上はどうされたのかな?」
「都市ラクータにある商会に騙されて店もお金も命もぜんーぶ無くしたの」
無理矢理な微笑みが似合わないエティリア、おれはその言葉の続きを待っている。
「だからね、あたいがもう一度頑張って店を作るもん。今度は大きな店にして獣人も人族もみんなが買い物できるようにしたいもん!」
「エティならできるさ、みんなが笑顔で買い物できるの大きな店」
「うん、あたい頑張るもん。アキラっちはトウシ者だからちゃんとあたいを見るもん!」
さて、今夜は久しぶりに牛肉で焼き肉パーティにするか。大食いのエティならいくらでもお替りしてくると思うから、食事のバランスを考えて買いこんだ野菜も沢山焼いてやるとするか。
鉄板はテンクスの町で一枚物を買っておいた。土魔法の生活魔法でコンクリートブロックを作って、それを積んでから鉄板を乗せて、薪は走車の荷台に荷物のカモフラージュ用に購入したやつを鉄板の下に入れておく。
火魔法の生活魔法で着火してから鉄板が熱するのを待つ。その横で涎を流しているうさぎちゃんが待ちきれずに食器を持って生の牛肉に凝視している。
ジュージューと香ばしい匂いが辺りに漂っている。焼き過ぎないのが美味しいと教えたらすぐに食べようとするエティリアに、表面に焦げ目がついたサイコロステーキを彼女の口にフォークで食べさせた。目をつぶって牛肉をじっくりと味わう彼女は本当に幸せそう。
「お、お代わり!」
「はいよ。おっと、ちょっと待てね」
初級光魔法のアイコンを押す。焼き肉の匂いに誘われたモンスターが現れては光線を頭に命中させられて死体となっていく。そばで射殺劇が繰り広げているにもかかわらず、食い意地が張った兎の獣人は食べることに専念していて気にするそぶりを全く見せていない。
まったく異世界の食いしん坊は恐れ入るぜ。
捌いたオークの肉を焼いてみたが、豚のバラ肉みたいに脂身があって臭みがない。調味料は今のところ塩と醤油しかないが、それで味付けするだけでもとても美味しく仕上がる。ご飯が食べたくなったのでおれはおにぎりを取り出すが、さっそくうさぎちゃんに強奪された。
「なにこれ! 粒々だけど噛んだら粘々して美味しいもん。アキラっちは美食家なの? ほかにないの?」
「故郷の味だ、味わって食ってくれ」
この食いしん坊めに梅干し入りのやつを出してやる、その可愛い口をカルチャーショックで尖らせてみせろ。
「……!」
両目と口がともにXとなったよ。プププ
その後で炭酸飲料にチョコレートや飴と持っているものでご機嫌取りにどっさりと出したが、食後のコーヒーやチョコレートのデザートにエティリアの喜びのあまりに愛くるしい踊っている姿が見れたので、良い目の保養ができたことに満足した。
エティリアがテントで睡眠をとる時におれはいつも独りで森の大掃除に勤しんだ、森の奥からこっちを狙って出てくるオークやコボルトなどのモンスターどもは素材に変えていく。
「や、やめ……ぐふっ!」
「畜生、なんだこいつは……ガハッ!」
みすぼらしい恰好した盗賊らしい人族もたまに現れてくるけど、言葉を発さないおれは彼らに永久的に人生の舞台より強制退場してもらった。人族は取れる素材なんてないし、こんな盗賊崩れの装備は金になりそうにないから森で栄養分になってもらう。死んで役立つこともあるからよかったな、お前ら。
「エティ起きろよ、もう出発するから」
寝ぼけた目を擦りながらコクコクと首を小刻みに動かすエティリアはおれに提案する。
「アキラっちはぁ? 寝るならあ、あたいが見張り番するもん」
うん、君に任せたらなんとなく死亡フラグが立つから全力で遠慮させてもらおう。
「走車で走りながらウトウトするからいい。それよりも早くゼノスへ行こう」
あと一回の陰の日で目的地に到着するはず、モビスが手綱に反応して森の中を走り出す。
アキラからは見えないエティリアのスキルです。
スキル:短剣術Lv1・鑑定Lv5
記憶強化Lv3・交渉術Lv4
ありがとうございました。




