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番外編 第6話 白豹が変な男と出会う・上

番外編からのスタートです。




 そっちに行ったわよ、レイっち。お願い」


「...セイちゃん、レイ任せる...」


 オークがレイのほうへ逃げていき、それをレイの風魔法が魔法陣が起動するとともに一陣の風がオークをズタズタに引き裂いた。全身が傷で血塗れになり、それでも森へ逃げ込もうとあがいてるオークの首へセイのバスタードソードが振り下ろされた。



 静かになった戦場には5体のオークの死体と12人の人族の死体が地面に千切られた手足や内臓が撒き散らされている。セイは得物に付いた血とともにほろ苦さを振り払ってからレイを呼び寄せ、せめて依頼対象である人族の遺体を持ち帰ろうと考えながら剣を鞘に納めた。




 受けたリクエストは半分の成功と半分の失敗で依頼の終了となった。セイは無表情に装い、下唇を血が滲むくらいにかみしめつつ、都市ゼノスの騎士団本部で亡くなった人族の遺族達から罵声が交える詰問を聞いていたが。騎士団長の取り計らいで、半ば遺族達から引き離すような形でようやく外へ出ることができた。



「...セイちゃん、レイごめん...」


 外ですっと待ちぼうけしていた済まなさそうな顔をする相棒にセイは手を伸ばして、グシャグシャとその美しい黄金色の長い髪をかき混ぜてから笑みを向ける。


「レイっちのせいじゃないの、今回は依頼主が情報を隠していたからしょうがないわ。3人の救助が12人になっちゃったから二人で対応が難しかったわ」


「...うん...」


「いこ? エティ姉と待ち合わせしているの。美味しいご飯を食べよ、ね?」




 セイが冒険者になったのは3歴前のこと。それまでは豊かではないが住民が和気あいあいにみんなで助け合う優しさに満ちた兎人族の小さな村に住んでいた。父親は村一番の剣の使い手、いつもセイに厳しく剣の稽古を仕込んでくれた。


 だがそんな父親は家に帰ると母親に頭が上がらず、家事の手伝いに畑仕事に勤しんで、普段はセイにも優しくするいい父親であった。


 母親は村での一番器量良しで知られて、料理が上手で村の主婦たちからも頼られて、セイにとっては自慢の母だ。どこのでもあるようなありきたりの光景の中でセイは生まれ育った。



 変わったのはセイたちが相互関係を結んでいる新任の都市ラクータの長から村へ届けられた通知である。毎歴に納めている税は倍となり、前の歴の分は追加されて村から食料や貨幣が奪われるように取られた。


 村での生活が苦しくなり、みんなの顔に笑いが消えるようになった。以前は仲良かったの人族の村との交流も途絶えがちで、村の特産品である森にいるエルフと交換してもらっている鉄製品も買いたたかれるようになった。



 その中で比較的に良心的な人族の村の長は、都市ラクータの長が人族による多種族を支配するつもりと噂されていることを教えてくれた。それを聞いたセイの村の長は城塞都市ラクータ以外の近辺の都市と総合関係を結び直すと東奔西走したが、すでに近辺の都市は都市ラクータの長によって口説き落とされていた。


 城塞都市ラクータの勢力下にある獣人族の村々は等しく差別のある政策によって苦境に陥っており、獣人族による助け合いも難しくなっていた。相互関係を結ばないと獣人族の土地では育たない小麦などの食糧は売ってもらえないと脅された。




 セイの村は若い子たちが話し合って、村を出て出稼ぎすることに決めた。ここ一帯では元々都市や人族の村で働いていた獣人たちは村へ追い返されるか安い賃金で働かされるか、近辺ではまともな働き口がない。そこで都市ゼノスまで出かけて、そこで仕事を探すことをみんなで決意した。


 送ってくれたのは都市ラクータで中規模の商店を営んでいるトストロイさんとその娘のエティリアであった。


 両親は娘を送り出すことに難色を示していたけど、村の現状ではみんなが食べていけないということで渋々とセイの両親は承諾した。



「気を付けるのだぞ」


「いつでも帰ってきていいのよ」


「はい、父様、母様。お金は送りますからね」



 長い道のりの末、初めての長旅に苦労を重ねながらようやく到着した都市ゼノスは獣人の子供たちに優しくなかった。獣人族は自然の摂理に従うように生きており、生きる術そのものを自然に頼っていた。


 このことはエティリアからも繰り返されて聞かされたが、現実を目の当たりにしないとどうしても実感できない。そのために獣人の子供たちは仕事を探すのにかなり困難を強いられた。



 ある子供は故郷に帰りだがって、そのままゼノスから消えた。


 ある子供は華やかな都市に惑わされて、普通に生きる道から踏み外され、都市の暗部に生きるようになった。


 また、ある子供は人族に騙されて奴隷の身に陥れられた。



 村でセイと笑い合った幼馴染たちは人族の渦に揉まされて、一人また一人と行方が分からなくなり、素朴で未来を笑い合っていたあの頃へ二度と戻れることはなかった。


 見た目がいいセイは酒場ですぐに仕事は見つかったがもらえる給料は安く、セイは自分が生きるのに精いっぱいで親に仕送りもできず、村の仲間を助けることもできないまま、ただ陽の日と陰の日を意味もなく繰り返してゼノスで過ごすだけ。



「ねえ、アルス様。あたいらはなにが間違ったというの? 教えてください」


 たまにある休みの日はいつも教会でお祈りを捧げながらセイはいつも女神像の前で涙に明け暮れていた。




 転機となったのは久しぶりにゼノスへ来たエティリアがセイたちを見かねて、護衛の仕事を依頼したことだった。その時に一緒に仕事を共にしたのが小汚い布切れをまとっているエルフのレイであった。


 エルフである彼女は魔法の使い手だが、人族のしきたりがわからず、長い間に安い報酬で困難な依頼を仲間と称した冒険者たちに欺かれてはこき使われていた。



 エティリアからの護衛依頼は一度きりのものであったけど、身体能力が高い獣人たちにとっては光を見つけた思い。村から出てきた仲間はセイを含めて4人しか残っていなく、レイを含めた5人は冒険団を組むことで再起を図ることとなった。



 最初は地道に簡単な依頼を受けて、まずは日々の糧を得ることからセイたちは頑張った。人族から安い報酬で物運びや庭園の清掃のリクエストも勇んで受けた。そうして少しずつ信頼を築き、ついには騎士団からの直接依頼を受託できるようにセイたちは日々の努力を怠らなかった。



 セイは成長するにつれ、美しくなっていく。そのセイとレイを目当てに人族の男たちが体目当てで近寄るようになり、時には金銭や物品で、時には言葉で、最悪の場合は脅しや暴力を厭わない手段を用いることもあった。


 そのたびにセイたちは人族に対して憎むまでいかなくても拒絶する感情をハッキリと認識できるようになっている。そして時折り聞かされる故郷にいる獣人族の悲惨な噂が油に火を注ぐように、セイたちの人族に対する思いを悪化させた。



 セイたちの冒険団は都市ゼノスで有名になりつつ、その中の武闘派であるセイとレイは特にその名が知られるようになっていく。名が売れると報酬も上がると知ったセイは仲間たちで白い武具で固めて、自分たちの売り込みに勤しんだ。


 長短のバスタードソードとショートソードから繰り出す連撃は狙われたリクエストの盗賊やモンスターにとって絶望の舞いとなった。軽やかな足取りは反撃を避け、素早く詰め寄ると絶命の一撃を叩き込む。


 セイの速い立ち回りはまるで風のようだと、敵からは恐れられて味方からは称賛される。白い防具と身軽さが相まって、いつの間にか彼女に白瞬(フレッシュブリーズ)(パンサー)の二つ名がつくようになり、都市ゼノスの間ではそれが彼女を讃える言葉となった。



 セイたちでリクエストを受けることもあるが、彼女たちを指名する依頼も増えた。その中には目的が彼女そのものである依頼も現れようになる。情欲に塗れた都市ゼノスの幹部であるブ男の触って来ようとする手を耐えつつ、高い依頼報酬のために我慢を重ねてリクエストを受けたりもした。


 レイにそういう耐性がないことを知っているセイは自ら進んで交渉の場に出るようにした。



 セイたちの名を飛躍させたのは都市ゼノスを襲ったはぐれオーガを討伐したことだ。騎士団による討伐ははぐれオーガの反撃で多くの被害を出したまま敗退し、都市の長と騎士団長が協議してから大金を積んだ討伐リクエストを出し、数多の冒険者へ募集をかけたが受けたのはセイの冒険団だけであった。



 単独の冒険団による討伐は代償が大きく、死闘の末に5人の仲間の内に1人が死に、もう一人は再起不能になるまで戦い抜いた末、ようやくはぐれオーガの首にセイのバスタードソードが突き刺さった。(ツイン)白豹(ホワイトパンサー)の名が都市ゼノスで轟き、彼女たちを称える歓声が上がった頃にセイたちは失われた幼馴染の命を悲しみ、ただ人知れず流涙するのみであった。



 それからは順風満帆とまでいかなくてもセイたちは多くのリクエストをこなし、都市ゼノスに双白豹ありとまで言われるように有名となる。金のことで困らなくなったセイはエティリアに故郷へ仕送りと食料品の輸送を依頼しようとしたが、ゼノスの商人ギルトで聞かされたのはトストロイさんが城塞都市ラクータで商売で失敗して財を失ったこと、彼はほどなくして命を失ったこと、エティリアが村へ帰って行商人から巻き返しを図っていることを知った。



 商人ギルトで仕送りと食料品の輸送の依頼しようとしたが、引き受けてくれる商人は誰ひとりいなかった。獣人族に関わるとなぜか城塞都市ラクータ近辺で盗賊に襲われやすいことは、この界隈にいる商人たちの間では常識となっていた。


 それなら自分たちでやると考えたセイだが、今度は交易都市ゼノスの都市の長が難色を示した。その忠告はセイたちの命を心配してのことで、都市の長の世話になっているセイとしても無視できない声だった。


 ヤキモキした気持ちで日々を過ごす中、騎士団のほうから指名リクエストを依頼され、彼女は話を聞くために騎士団が所在する建物へ赴いた。



「待っていたぞ、白瞬(フレッシュブリーズ)(パンサー)のセイ君」


「あら、やつれていますわね、交易都市ゼノス騎士団のリゲードド団長さま」


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