番外編 第5話 犬神と呼ばれるもの
ワレはどうやって産まれてきたのか、ワレは知らぬ。
気が付けば鬱蒼とした木々が密集する森を彷徨っていた。この森にはワレと違う生き物が一杯で、腹の拵えには全く困らない。ワレと違って、二本の足で逃げ回る遅い変な生き物は、実に美味でワレの大好物である。
あいつらは捕まえると、恐怖からなのか大声で泣き叫んでいるが、そんなことはお構いなしにワレはそいつらを食らうだけだ。
この豊かな森でワレに勝つことのできる生き物はいない。食料には困らないが、実に息が詰まるつまらない日々だ。強い奴に出会いたい、そいつと命を賭しての戦いに臨みたい。それがワレの生き甲斐であると、ワレはこの世で意識を持った時から知っている。
初めて敗北した。あれは今まで見てきたような生き物ではなく、この森でたまに感知する魂のような存在。
ワレが二本の足で走る生き物を追って、森の奥まで追いつめたと思ったときにそいつが現れて、凄まじい風を飛ばしてきた。
身体を刻まれて、ワレの首の一つについている耳が、風に混じている見えない刃で削がれてしまう。
二本の足を持つの魂のような存在であるこいつには勝てない。それはワレにもすぐに分かった。これまで殺してきた生き物のようにワレもここで命が尽きるのか? それでもいいか、より強い者に狩られるのならそれもワレにとっての誉れだろう。
「エデジー、やめなさい」
これまでどの生き物の声を聞いてもワレには意味が分からない。でも、今に発せられた言葉はワレにも理解できた。声の方向を見ると小さな体に二本の足で歩く生き物がいた。
否! そいつは生き物なんかじゃない。圧倒的な力を持っていて、ワレが噛み付こうと炎や吹雪を吐こうと牙や爪を向けようと、こいつには勝つことができない絶対的な存在だ。
「キャン……」
「あら? 珍しいわ、この子はオルトロスね。どうやって森に迷い込んできたのかしら? おいで」
そいつから差し伸べられた手へ向かって、ワレは頭を垂らしてから這いつくばるようにしてそいつの許へ行く。
「まだ子供なのね。いいわ、ここに棲みなさいな」
「・・・・・」
魂のような存在が小さな体の絶対的強者に何かを語っているようだ。
「いいの、この子も愛し子よ。住人たちに襲い掛からないようにしつけはしておくから心配しないで」
あれからワレはこの森で、この小さき強者に従って生きることにした。
おババさまとワレはそいつのことをそう呼ぶことにした。
おババさまはこの世界で最初に誕生した二体の存在の一人であることを教えてくれた。長く生きていることに敬意を表して、ワレがおババさまと呼ぶときは、この生涯でたった一人、ワレの頭を下げるに値するお人に敬愛の念を込めることにしている。
ワレのことをおババさまはヴァルフォーグスと名付けしてくれたが、おババさまはいつもワレをヴァルと短く呼んでいる。おババさまからはこの世界色んなことを寝物語で語ってくれている。
ワレの身体を寝床にして、世界樹とおババさまが名付けている大きな木の下で、おババさまと一緒に眠ることがワレの一番の幸せだ。
おババさまから神龍と呼ぶ守護者の一柱とその眷属であるドラゴンたちは強いと聞いている。そのことはワレの闘争本能を刺激してやまないが、この森を出て、おババさまと離れ離れになるのは嫌だ。
幸い、この森ではおババさまが精霊と呼ぶお供の魂のような存在がいっぱいいて、そいつらは揃いに揃ってワレより強い。
精霊と戦って叩きのめされるのは楽しい。ああ、この世には強い者がいっぱいいる、ワレもまた強くなれると感じられる瞬間である。
「しょうがない子ね、またエデジーたちにいじめられたの?ヴァルは戦うことしか知らないのかしら」
あやすような手でおババさまがワレの頭に触れる。ワレの心が安らぎ、戦いたい気持ちが収まるのはおババさまといる時だけだ。
「傷を治すね」
おババさまはいつでも戦いに負けて、傷ついたワレを癒してくれる。ただエデジーに落とされた片耳は治さずにそのままにしてもらうことにした。あれはワレの栄誉、強き者に立ち向かった証だ。
「ヴァルはお腹空いたでしょう、魔素を分けてあげるね」
ワレの頭をおババさまがいつものように撫でてくれる。その手からは温かい力が身体に流れ込んできて、ワレの空腹感を満たしてくれる。そのためか、ワレはおババさまがいう、二本の足を持つ妖精や人などの人型した生き物を食べたいと思わなくなっている。
「・・・・・」
「この子はヤンチャなの、強い者を求めること本能を持っているわ。あなたたちがちゃんと相手してあげるのよ」
おババさまとエデジーがなにか話しているが、満腹感に満ちたワレは世界樹の下でおババさまと一眠りしたい。頭をおババさまに押し付けてからねだってみる。
「クーン」
「もう寝たいの? いいわ、おいでヴァル」
ワレは身体を包まってからおババさまがお腹に身を寄せてくれる。眩しい陽射しは世界樹が遮てくれて、わずかな光りだけがこの根元に辿り着いている。この眠りから目が覚めたら、ローインという鳥みたいな精霊と一戦を交えよう。
そう思ってからワレは重くなった瞼を閉じて、おババさまと夢の中でも戯れられたらいいなと眠りにつく。
ワレの願いはこんな日々が永久に続けられたらいいだけ。
おババさまが悲しんでいる。
なぜだ! なにやつがおババさまを悲しませた! おババさまの足元を見ると、そこには腐った匂いがする肉塊が落ちている。よく見るとそれらはこの森に一緒に住んでいる妖精だった人型が斬られたものだ。
精霊たちが慌ただしく飛び回っているので、ワレにもなにが起こったのかがなんとなくわかった。
何者かがこの森で妖精を殺した。そのことがおババさまの悲嘆を誘ったのだ。森の中を走り匂いを嗅ぎまわり、森に存在しない匂いが浅い森の所々に残されていた。
これは人族という生き物の匂い、それに混じって妖精の匂いも残留している。
おのれ! おババさまの優しさに付け込んで森の恵みを漁る卑しい生き物め! おババさまを悲しませた報いは、このワレが容赦なく炎と吹雪で償わせてやる!
ワレは精霊たちと森を出てから人族の匂いを辿って、高い壁がある人族の集まる場所へ、おババさまがいう城塞都市というところに向かって駆け抜ける。
その途中で人族が集団を組んで数で抗ってきたが、無力な貴様らではこのワレを止めることなどできぬ! 己の分際を死をもって思い知れ!
「うわー! オルトロスだ!」
「矢を撃て、槍衾をきんで抵抗しろ!」
俺達は長に言われてアルスの森で妖精族のヴィルデ・フラウを攫ってきた。森の中で抵抗したやつらを男は殺し、女は犯して子供とともに束縛した。妖精族は高く売れるからな。
懐がホクホクになって、俺達は酒場で酔うまで酒を飲み、娼館で女を買っては体力がなくなるまで腰を振り続けた。
人生は簡単、弱者から金や食糧を奪えばいい。人族でない種族など俺達の売り物になればいい。ハッキリ言って弱いあいつらが悪い、強い俺達に食い物されるのは当たり前だ。
アルスの森の略奪からしばらくすると、俺達の都市におかしいことが次々と起こり始めた。水は淀み、木々が枯れ、土も腐り始めている。長に命じられた騎士団の俺達は、調査のために隊列を組んで都市を出ることとなった。
そこへ異様に大きなオルトロスが襲ってきて、俺達騎士団の陣形を簡単に崩壊させた。その強大な力量を持つ恐ろしいオルトロスは今、俺の前に立ちはばかっている。
「・・・・・」
ワレの目の前に人族が世界樹の枝にも劣る鉄の武器を振り回してなにか喚き散らしているが、そいつからは森で死んだ妖精の匂いがした。
こいつらのせいでおババさまを悲しませたか!
人族の首を一口で噛み千切るとそれを横へ吐き捨て、まずいものなど食う気にもなれない。
炎を吹き荒らし、この場にいる人族を一人も残さずに焼き尽くした。その先にあるこいつらの巣窟へ向かって、ワレはまた全力で走り出す。
城塞都市という人族が集うところはその門を固く閉めているが、ワレの体当たりの一撃で門そのものが破壊されてしまい、破片となって跡形もなく飛び散っている。行く手を阻む高い壁もワレの爪でことごとく崩れ去り、人族が混乱して反撃を試みるが、ワレの毛皮に通用することはない。
そこへワレからは炎と吹雪を吹き荒らし、そこに残されるのは焼けた匂いのする肉塊と、凍り付いた氷像となった命が散らされた人族だけだ。
でもまだだ。
おババさまの悲しみを癒すにはこんなものじゃ足りない。おのれら人族の命を全て捧げてもまだ不足だ。ワレの前で這いつくばって死に尽くせ!
ワレの暴力を止めたのは精霊エデジー。二つの首を抱きしめられたワレはそれがおババさまの思いだとすぐに理解した。ワレを含めて、すべての生き物を愛するおババさまはきっとこの人族たちのことを許すのだろう。
怒りの行き場を失ったワレはアルスの森へ足を向けて、ゆっくりと崩壊した城塞都市だったこの場所から離れる。
今すぐにおババさまに会いたい。
会っていつものように、ワレの頭をその慈愛のある手付きで撫でてもらいたい。
そして、ワレは知る。二度とおババさまのいるあの森へ帰ることは、もう叶うことはない。
透明な壁がアルスの森を包み込んでいる。ワレの炎や吹雪、牙や爪、体当たりしてもそれが崩れることは決してない。
「・・・・・」
ワレを止めようとするエデジーがなにかを懸命に言っているようだが、意味が分からない。ワレはただただひたすら体当たりを続けている。
おババさまに会えないのならワレが生きていてもしょうがない。ならばこの身が潰れるまでワレは当て続けてやる。
エデジーが抱擁でワレを止めた。
おババさまが世界樹から離れられないことはワレも知っている。こんなことしてもワレはおババさまを悲しませるだけ。でも、こうせずにはいられない。
ワレはおババさまといたいだけなのに。
「・・・・・」
「グルルゥゥ……クーン」
わかった、なぜ森に入れないのはわからないが今はこの地を去る。おババさまはきっとワレを心配するから、今はここから離れる。
あれから何度も森に帰ってみたが、やはり入ることはできない。その都度に体当たりを繰り返すワレを、エデジーはいつものように抑え込んでくる。
もうあれからどのくらい時が立つのだろう。おババさまはあの頃のように陽気に笑っているのか? それだけは知っておきたかった。
森を出たときのおババさまの悲しい顔は、いまでもワレは忘れられずにいる。
することも特にないのでワレはこの世界の色んなところを回ってみた。色んな強敵とも戦ったがドラゴン以外は負け知らずのワレである。あいつらはいつも興味なさそうにすぐに空へ飛び去っていくから卑怯者だ。
もはやワレは幼き頃のように、強い者と命を賭して戦うことしか楽しみがない。
妖精や獣の人型が人族に迫害されているところを何度も遭遇している。これだけ時が立つのになんの学習もしないやつらだ。
ワレに関係のないことだが、妖精とは昔に森で棲んでいた言わば仲間のようなもの、その子孫を助けてやるくらいの義理は果たしてやってもいい。
「犬神が出たぞ!」
畜生、なんてことだ。これでようやくエルフどもで一山を儲けられるというのに、犬神のヴァルフォーグスに襲われるとはついてねえ。
なにが仙獣で犬神だ、厄病神じゃねえか!
「てめえら逃げるぞ……あっ!」
左首の耳が一つ欠けている化け物を見たと思ったらそいつの口が開いてすぐに白く輝いた。冷たい……俺は――
「助けて頂いてありがとうございます!」
私たちエルフは森に住んでいる。
寿命は長いけれど、森の恵みで細々と生きることに喜びを感じて、人里へは変わり者の同族以外に行くことがない。人族は欲深くて、容姿がいいということで私たちを捕まえようとしている。
夫たちエルフの男は森の中で私たち女子供を守るために人族の男たちに殺された。
娘を餌に森の外で子供たちを殴る蹴るの暴力を見せつけている人族。子供を助けようとした私たちエルフの女たちを、人族の男たちは一人残らず束縛してから、そろって卑しい笑いを立てている。
私たちはこれからどうなることでしょうか、せめて子供だけでも助けて。
お願いです、アルス様。
お祈りが通じたのでしょうか、犬神様が来て私たちを助けて人族を全て滅ぼしてくれた。感謝を捧げたが犬神様はつまらなさそうに鼻息を吹いて、私たちの前から森の奥へ立ち去っていく。
助けて頂いてありがとうございました。犬神様にもアルス様のご加護がありますように。
時が立つ。敵と戦う。弱きものには手を、略奪者には死を。ワレは恐れられ、ワレは讃えられる。
だがそんなのどうでもいい、おババさまに一目でもいいから会いたい……
目の前で人族の村が狼の魔物に囲まれている。
人族は懸命に抗っているが、これではもうすぐ全滅するだろう。ワレにはなんの関係もないけど、この狼の群れは数が増え過ぎて、このままでは群れがいずれは自滅するだろうから、面倒なことだが手を貸すとしよう。
「グルアっ、グルルルル」
「「「キャン……」」」
こいつらを連れてどこかへ安住させよう。いままでこういうことは何回もやってきている。狼はワレに形が似るものだ、力を示してやればいつも従ってくれる。
草を食べる生き物が多い場所がいい、そこならこいつらもワレと違って食料に困らないだろう。ワレはおババさまのおかげで食わなくても、マソとかいう力の源があれば生きていける。そのマソもこの大地の至る所に存在していて、山や森を適当に歩けばそれに触れることが多々とある。
それにしてもこの群れは数が本当に多すぎ、合間を見て適当に殺しておくか。
狼の群れを連れて去るワレに人族は何かを叫んでいるが、その言葉の意味が分からないから放置してもよい。どのみち人型種族はいつものように跪いてはなにかを拝んでいるだけだ。
狼どもは獲物を取ると決まってワレの許へ持ってくる。別に食いたくもないが、こいつらの気持ちを買って少しだけは食っておく。残りの多くは小さな狼どもにあとでくれてやろう、やつらなら喜んでがぶりつくだろう。
この狼の群れを養えそうな森を見つけた。ここには葉を食べる四つ足の生き物が沢山いる、ここならこいつらも棲み付いて生き長らえるはず。
後はその数をもう少しだけ減らすことだけ。
そうだ、これが終わればもう一度おババさまがいる森へ帰ってみよう。おババさまに会えなくても、森を外から眺めるだけでワレの心が落ち着く。
人族が逃げずに対峙されるのは実に久々、しかもそいつの目にワレを恐れる色合いはない。
このワレに歯向かうというのか?
矮小なお前がワレと命を懸けた殺し合いをしてくれるのか? 良いぞ、実に気分がいい。まともに戦ってもらえるのは久しぶり。人族の子よ、おのれのその勇気を讃えて、全力でワレに立ち向かってくるがいい!
それにしてもこいつが逃げ回る間に置いて行った肉は美味なるもの。肉がうまいと思えたのはおババさまに合う以前だ。良いものを献上してくれたぞ、勇気のある人族よ!
ワレは全力で戦った。
その人族は小賢しく、色々と手の込んだ罠を使って勝負を挑んできた。戦いの中でワレの首の一つは潰されたし、その黒い鎧はワレの攻撃が通せなくて、盾はワレの攻撃を跳ね返してくる。
首の一つが死んだワレはこの先どのくらい生きられるだろうか。おババさまに会えることはできるだろうか。
戦いが終えようとしている今はこの人族の善戦を称したい。ワレは片足で抵抗の出来なくなったそいつを抑え込んで、死ぬまで叩き潰すように振り回してやる。それがこいつを倒せる唯一の攻撃だ。
腹に何かが刺さって、今までにない激痛がワレの体内に走る。
血を吐いて倒れたワレと人族の間にはしばしの間、沈黙のときが過ぎていく。両者の違いはそいつが回復し、体内を潰されたワレは死を待つばかりだけだ。
「・・・・・」
「グルルウゥ……」
人族の目に戦いに勝った喜びもなく軽蔑の色もない、視線に含められているのは成し遂げた思い。ワレとの死闘に満足はしてくれたのだろう。
そいつは武器を高く掲げて、ワレにとどめを刺すつもりだろう。それは勝った者が敗者に対して負うべき義務だ。
静かに目を閉じると、遥か昔の森の風景が色鮮やかに思い浮かんでくる。
妖精たちが森の恵みに歓声を上げて、精霊たちがのんびりと森の中を飛び回る。
おババさまが世界樹の許に居て、いつもと変わらずにみんなを見守っている。
おババさま、ずっと笑っていてくれ。それがワレ、おババさまにヴァルと呼ばれたワレの最期の願い――
仙獣ヴァルフォーグス、おれがこの世界で初めて死を覚悟して戦った、犬神と呼ばれたオルトロスの物語を知るのはあいつとの死闘のずっと後だ。
あれから世界を回って、各地に伝わっている犬神様の伝承を、ジグソーパズルのピースを集めるように、あいつの歴史がわかるようになった。
人族にとっては絶望をもたらす魔獣のように畏れられ、時には気まぐれに救い手を差し伸べられる言い伝えが人族の村々で残されている。
妖精族や獣人族にとっては犬神様の名は守り神として崇められ、あいつの偶像を祭る村だって存在している。特にアルスの森の近くでは、その逸話や伝説が数多く今でも語られている。
最後の足跡はレッサーウルフに襲われた人族の村を守るようにしてレッサーウルフの群れを連れてどこかへ消えたという。あれから犬神の名が人前で出ることはない。
「精霊王様、ヴァルをあなたに返します。どうかこの森で眠らせてやってください」
精霊王からヴァルフォーグスについて、なにも聞くことはできなかった。だが、風の精霊エデジーさんはヴァルフォーグスがここにいたこと、精霊王のために森を出たこと、森へは帰ってこれないことをそれとなく耳打ちしてくれた。
「そう……」
この世界の理で倒されたモンスターの所有権は倒した者にある。だからなのか、初めてヴァルフォーグスを倒したことを聞いた精霊王はおれになにも言わなかった。
アイテムボックスからヴァルフォーグスの死体を取り出す。
あれからはだいぶ時が立つというのに、ヴァルフォーグスはまるで先まで生きていたような艶やかさが目立っていて、死闘の痕も生々しく残っている。
ヴァルフォーグス、お前は本当に強かった。
今のおれなら簡単にお前を倒せるだろうが、最初にこの世界で会敵した強者がお前でほんとうによかった。誇りのある真っ向勝負はおれに、命を懸けた戦いの何たるかを身体持って教えてくれた。
だから、誓った約束を果たそう。
見晴らしの良い所じゃないかもしれないけど、精霊王様の許で眠ることこそがお前の本懐だろうから。
「おかえり、ヴァル」
精霊王は少しだけ、悲しそうな微笑みとこの上ない優しい手付きで、安らかな眠り顔のヴァルフォーグスをそっと撫でている。
これで第二章は終わりです。
オルトロスの物語を書いてみたかったので章の終いを飾る話にしました。
ありがとうございました。




