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のちに聖人と呼ばれたおれが異世界を往く ~観光したいのに自分からお節介を焼く~  作者: 蛸山烏賊ノ介
第2章 新しい世界で集落の住民となる
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番外編 第2話 おかしなやつが集落にやって来た・上

集落の番外編です。

 この集落は貧乏だ、何もない。


 集落の人たちは食っていくのが精いっぱいで妻のシャランスはマリエールを産んでから俺たちは子を成していない。でもそれはみんなも一緒のことでだからだれも文句は言ってないし、集落の長である俺だけが自分の家族に特権を持たすわけにはいかない。


 この集落の人はみんな昔からの大事な仲間、せめて死なないようにみんなで食っていかなくちゃいけない。それがこれからも俺がしなければならないことだ。


 ただマリエールを含め、この集落で産まれてきた子供らが不憫だ。あいつらは産まれて来てから一度も贅沢な暮らしをさせてやれないが、そんなのいらないよ父さんと言ってくれる、俺の自慢の優しい娘だ。




 シャウゼやアウレゼスらは若い時の冒険仲間、俺たちにも随分と粋がった時代はあった。自慢はしないがテンクスで60人以上の冒険団を組んでたんだ。都市ゼノスを含めて近辺では俺たちに敵う者はいないし、ゼノス騎士団だって俺たちには一目を置いていたんだ。


 あの頃はなんでもできると思った、世界をみんなで各地を駆け回ろうと仲間たちで酒を飲んでは夢そのものに酔っていた。



 都市ゼノスの近くで中級モンスターのバジリスクが出没しているとの噂で、騎士団から調査クエストが出た。みんなもそう思っているように、俺もこのクエストは俺たちにしかできないと思い込んでいた。いや、あの頃は思い上がっていた。きっと。



 結果としてバジリスクに遭遇して、俺たちは死力を尽くしてこの強敵をやっとの思いで討伐に成功した。だが代償は大きかった。仲間は14人が死に、15人は二度と冒険することができない身体となって、俺たちに別れを告げて故郷へ帰った。


 だけど元々貧しい村から出たやつらだ、出来るだけの金は渡したがあの身体でどう生きていけるというのか。涙であいつらの顔がまともに見れないまま、俺たちは離れ離れなってしまった。



 バジリスクなんて世界ではしょせん中級程度のモンスター、これより強いキメラにヒドラがいる。名前を上げていたらきりはないが、それらよりさらに強いドラゴンだっている。この世界を回ろうと思ったら必ず出会ってしまう存在をバジリスク程度で死に物狂いに戦った俺らが敵うわけがない。


 意気消沈した俺らは毎日酒場に入り浸ってまずい酒を喰らい続けた。




「どうすんだよおめぇら、このまま腐って死んでいくのか? ああ?」


 ニモテアウズさんは酒場の隅っこで酔っぱらいきれない俺の前に座って聞いてきた。このおっちゃんには頭が上がらない。若かった俺たちのヒーローはゼノス騎士団副団長にまで勤めていて、やんちゃだった俺たちに冒険の仕方を教え込んで、騎士団へ連れって行っては騎士たちから武術を叩き込んでくれた。



「おっちゃん。俺たちはどうしたらいい? 天狗になって最強と思ってたけど、バジリスクでこの有様だ。もうどうしたらいいかわかんないだ」


 みんなの前では気を張って、なるべく気丈に装っていたがおっちゃんの前では子供に戻って、たまらずわんわんと大泣きしてしまった。


「おめぇらの道はおめぇらが決めろ、わしからはなんも言えない。だがな、仲間がいるならあいつらの先のことをしっかりとおめぇが考えてやれ。人生は冒険だが、冒険者だけが冒険しているわけじゃねぇ。生きることが冒険だ」


 おっちゃんは机に伏せて泣いている俺の頭を撫でると酒場から出た。




 そうだ、いなくなった者もいるが俺にはまだ仲間がいる。俺が腐ってあいつらのことを忘れちゃダメなんだ。いまさら騎士になることはできない、騎士団も雇われ身でおれらがなるにはいささか老いている。斧一筋に生きてきた俺は商売なんて難しいことできるわけがない、金をだまし取られて路地裏に放り出されるが関の山。



 俺も含めて仲間のやつらは家から出たはぐれ者、だったらはぐれ者同士で集落でも開拓してみんな生きて行ければいいじゃないか、それで去っていたあいつらを呼び戻してみんなで一緒に暮らすつもり。


 シャウゼに相談してみた。あいつは俺がやるならとことん付き合うと言ってくれた。女性たちのことは仲間のうちに女たちをまとめている双剣使いの美人、シャランスにも相談してみた。



「うん、いいじゃない?あんたがそうしたいならうちはいいよ。でもね、条件はあるわ」


 こいつは体付きもいいし顔も美人だが気が強くておっかないんだ。言い寄ってきた不埒なやつが木に真っ裸で吊るされているのを何度も見ている。



「ああ、条件はなんだ?俺ができることならなんでもするぞ」


「そう、じゃ簡単ね。うちの旦那様になってね」


 こいつは何を言ってるんだ。子供の頃からつるんでいるお前とは飲みで気が合うし、クエストの解決にだってこいつの頭の良さにはいつも助けられている。だけどな、色恋沙汰の話は一度もしたことがないぞ?



「だって、あんた鈍いもん。コナをかけても気付かないから、あんたのまわりにうろつく女は全部うちが追っ払ってやったわ」


 あー、くそ! 子供の頃から俺はモテないと思っていたがお前のせいか! 責任取れよ!



「うん、だからうちがあんたをもらってあげるから結婚して」




 ほかの仲間の内、シャウゼと俺を含めると男が12人、シャランス含め女が8人は同意してくれた。ほかの仲間は冒険団の解散後、故郷へ帰るやつと転職するやつと色々だ、みんな生きたいように生きていてくれたらいい。付いてくる女の7人は同行する男の恋人、あとの3人は彼女持ちで独身のはシャウゼだけだ。


 親友のために女を作ってやらねばと奮起しようとしたがベットの中でシャランスに止められた。どうやら酒場のウエイトレスで売れっ子のアリエンテが現在シャウゼへ恋の猛攻をかけているらしい。



 あの超絶美女がシャウゼに惚れているなんて知らないし、シャウゼから聞いたこともない。でも容姿端麗で人気者のアリエンテなら男冥利に尽きるってもんだ。思わず羨ましいと呟いたらシャランスに思いっきり抓られた。


 暖かくて柔らかい全裸の彼女を宥めようと抱きしめたら抵抗はない。どのみち陰の日は真っ暗だ、このまま二人で陽の日の朝まで互いの思いをぶつけ合うのも悪くはない。




 ニモテアウズさんは一緒に行ってくれるとヌエガブフから聞いた。どうせ老い先短い人生だから残りは俺らにくれてやるとのお言葉に目頭が熱くなったのはよく覚えている。


 以前に巡回神官をしていたイ・コルゼーさんにも声をかけてみた。もう長旅するのはつらいからどこかで静かに暮らしながら人生をアルス様に捧げると、雑談していたときに俺はそのことについて聞き覚えがあった。


 開拓に同行してほしいの話にイ・コルゼーさんは快諾してくれた、これで傷害について集落ができたときの心配がなくなる。イ・コルゼーさんは以前に俺らの冒険にも同行したことがあって、中々の回復魔法の使い手で布教のために一人旅が多かったからモンスターとの戦いにも慣れている。



 集落の開拓計画は順調そのもの、都市ゼノスに届け出たら物資や資金の援助を申し出てくれた。俺たちは冒険団時代にかなり稼いでいるからそれは断ることにした。納税のことがあるんだ。税の内容は受けた支援に応じて変わるから今後はどのようなことが起こるはわからない、都市に要請することはなるべく後のために取っておきたい。


 冒険団を改めてファージン集落開拓団は男12人、女11人にニモテアウズさんとイ・コルゼー神官だ。ほかに仲間の独身の父親が二人、全部で27人だ。



 行き先はテンクスの町から離れた森林が広がる大きな台地、以前にシカ狩りのクエストで探索したことがあって、その麓に水源となる泉もある。そこがおれら仲間の新天地、近いうちに大きな集落にして昔の仲間も呼び戻すんだ。




 いざ出発しようとしていた時にすごい美女が大きな荷物を抱えておれらの走車に近寄ってきた。アリエンテだ。


 シャウゼは困惑そうに断念すように説得しているがアリエンテは決意が固く、荷物をヌエガブフに預けて女性を乗せているほうの走車に乗り込もうとしている。



「ぼくらは集落を作る、先のことが分からない。これからの厳しい日々にきみへの責任は取れない」


「あら、それならシャウゼが結婚してくれたらいいですわ」



 唖然としているシャウゼを見て、俺らは笑い出した。みんなは思い思いで二人を祝福した、なんていい日なんだ。きっとアルス様はご祝福をくださるから、これからは全部うまくいける。


 俺たちは世界を見て回るという夢を失ったが仲間と笑い合って生きていけるなら、子供をたくさん作って、集落から村へ成長させていけばいい。新しく見れる夢に俺は心から幸せと感じていた。






 生活が苦しい、飢えが毎日続く。



 最初は食品の備蓄もあったのでなんとか凌ぐことができた。この森は危険だ、偵察のためにシャウゼと入ってみたがゴブリンに出会ってしまった。しかも会敵の対応が難しいモンスター化という厄介なやつだ。


 モンスター化とはモンスターが前兆もなくいきなり出現するという神の恩恵であると教会のほうでは説いているが、どんなモンスターが現れるかはそれこそ神のみぞ知るってやつだ。



 集落の獲物にしようと考えていた三つ角のシカは躯体が大きく、その割には聴覚が鋭敏でシャウゼ以外では狩ることが困難。シャウゼは苦心して森を探索しながらモンスター化しない道を作ったが、あいつはなにも言わないがかなり苦労したはず。


 泉の水は食べる用には困らないが畑仕事で使うのは水が不足している。精々みんなが副食で食べる程度の作物しか植えることができない。森には野菜や果物も採れるけど、そんなの季節ものだから当てにならん。


 集落で6人の子供が出産したがこれ以上は育てることが難しいのでみんなは子を作ることを諦めて、イ・コルゼーさんに避妊の薬を作ってもらった。



 心が苦しい……



 集落の仲間は文句も言わないで俺に付いてくる。行商人のパッコームは冒険者時代の知り合いで、小麦とかの食料品をわざわざ集落まで交易しに来てくれている。だけど商売は商売、パッコームにだって生活はあるので儲けなしでやってくれるからこれ以上の無理も言えない。シカ肉は干し肉にして、シカの皮や角も食糧の小麦粉との交換で消えていく。



 貨幣なんてものはどのくらい手にしたことがないのだろうか。子供たちが大きくなり、子を産ませられない仲間の家は消え入るように静かだ。我慢してくれているみんなに申し訳なくて男泣きを何回したことか。


 このままでは昔の仲間を呼べない、その前に今の仲間にどうやって食わせていくのかが分からない。



 シャウゼが狩猟で頑張ってくれているが持って帰ってこれる数が少なく、獲物の三つ角のシカが大きすぎた。無理はするなとあいつに言っても笑ってからまた森の中へ入っていく。


 この森には野犬の数が多い、そのためにみんなで森の道の入口に野犬監視用の小屋を作った。シャウゼとヌエガブフは暇があれば野犬の駆除に励んでくれているから俺も行こうとしたが、長は集落を守れとあいつらは探索には行かせてくれない。



 俺の夢は仲間の努力で支えられている、だけど夢が輝いてみんなを幸せにすることは未だにない。



 俺は、夢しか見れない男なのか? お願いだアルス様、助けてくれ。


ありがとうございました。

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