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のちに聖人と呼ばれたおれが異世界を往く ~観光したいのに自分からお節介を焼く~  作者: 蛸山烏賊ノ介
第2章 新しい世界で集落の住民となる
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第25話 商人ギルトでお金作り

 テンクスの町にある騎士団駐屯所は石作りの建築物。騎士は都市の騎士団から派遣で町に2名の従者とともに出張しており、町の秩序を維持する衛兵団は町によって雇われているだそうだ。


 都市との町や集落の安全保障については有事の時に都市から騎士団が出兵して対応する。平時のときは提携を結んでいるコミュニティから各種の依頼を受注して、それを騎士団の駐屯所が掲示板に提示することでリクエストを受けたい冒険者に発注するということみたいだ。



 ここ一帯の最大の都市はゼノスで、ゼノス騎士団からテンクスの町に駐在初老の騎士は雑談で色んなことをおれとエイジェに教えてくれた。今回の税額についてはあっさりと決まったので慣例に基づいて、ゼノス騎士団テンクス駐屯所の印と騎士にエイジェのサインを記した証書を双方が1枚ずつ所有した。



 税額を協議するときに初老の騎士から前の歴の納付済の証書を提示するように求められたが、エイジェはファージンさんからその証書を預かっていない。青ざめたエイジェを見て、初老の騎士は騎士団のほうで保管してある証書を保管庫から持ち出し、前回の納税品をエイジェと確認し合った。ファージンさんがエイジェに伝えた通りのシカの角が50組でシカの皮50枚で間違いない。



 物納から現金での納税について、騎士は現在の相場通りの貨幣による支払で異論はないと回答してくれた。ただし、都市院で都市財務を管轄する部門から問い合わせがある場合は再協議することがあるらしい。


 ただ、ファージンさんの集落は開拓してから一度も都市ゼノスに資金や人員の要請をしたことがないから、都市ゼノスとしてもファージンさんの集落に増税などの負担をかけることは憚れると、ゼノス側の非公式見解を初老の騎士がおれとエイジェに教えてくれた。



 金貨4枚と銀貨25枚と引き換えに今回の歴の納税済の証書が手に入り、その足で走車を販売する店へエイジェと向かう。商人ギルトの紹介状は絶大な威力を発揮して、6人乗りの走車が金貨1枚と銀貨75枚でモビス2匹が金貨6枚と銀貨60枚で買うことができた。



「ご主人、走車に屋根を付けることはできる?」


「へい、できますよ。6人乗りなら銀貨35枚になりますけどどうします?」


 雨天や日射のことを考えると屋根ありのほうは使い勝手がいい。エイジェのほうを見ると彼も頷いたので付けてもらうことにする。



「じゃあ、それでお願いする。次の陽の日までに終われるかな?」


「へい、大丈夫です。陰の日の間にきっちり仕上げて見せますよ」


 用事を済ませたエイジェは町の本屋へ行きたいというので、一人で行けるかと聞くと嬉しそうに頭を振ったので行かせることにした。この町の治安は良さそうだし、集落の稽古で無手体術はみっちりと鍛えられているから、そこらへんのチンピラにエイジェが後れを取ることはないはず。



 なによりもせっかく町に来たのに見物ができないのは可哀そう。軽やかに走り去るエイジェの背中を眺めつつ、おれは自分の目的地へ向かうことにした。




「おや? これはアキラ様ではありませんか、なにかお忘れになった御用がありまでしょうか?」


 商人ギルトに戻ったおれは部屋でワスプールと早速の再会を果たしている。



「いや、売りたいものがあるんだ。失礼な言い方するけど、ギルトって商売事を漏らしたりしないんだよな」


「これは異なことを申されます。商人ギルトはお客様と相互の信頼でお取り引きさせて頂いております。当ギルトは信用こそが商売の要との理念を基に運営しておりますので、お客様とのお取引の情報は元より、お客様に係わる事柄を当ギルト以外に漏洩することは厳禁しております」


 幾分気が立っているワスプールに苦笑してから片手を振って見せた。



「言い方が悪くて申し訳ない。ギルトに引き取ってもらいたいものがあるだが、市場ではあんまり出回らないものと聞いているから用心しただけだ」


「ほう、珍しい商品をお持ちになると。さし支えなければ一度ご覧になってもよろしいでしょうか」


「ああ、悪いけど他言無用でお願いするよ」


 リュックから取りロングソード5本とショートソード5本に魔法の袋を一つ取り出した。ワスプールはそれらを見て、固唾を呑んでだんまりと言葉一つ出さない。しばらくしてからおれに震えた声を掛ける。



「アキラ様、申し訳ありませんが少々お待ちになって頂けるでしょうか? 当ギルトの鑑定を担当するものにこちらへ来させたいと思いますので」


「ああ、かまわないよ」


 ギルトのお茶はやはり上質でとてもおいしい、しかも二度目の到来ということで茶葉も変えてくれている。細かい心遣いに感謝だね。目の前では爺さんが剣や魔法の袋を慎重に細部まで鑑定している。



「間違いない、これらは全部ダンジョンのもの。この魔法の袋は特にいい、時間停止付きだ。もう長い間見たことがない」


 爺さんの説明にワスプールが心躍りしているかのようで、落ち着きがなく何度も首を縦に振っている。爺さんが名残惜しそうに部屋を出てからワスプールはおれほうに身を乗り出した。



「アキラ様、こちらの商品はすべて当ギルトに卸して頂けることで宜しいのでしょうか」


「ワスプールさん、先に言っておくことがあるけど、おれは商人じゃないので駆け引き無しで商談したいと考えている」


「ほほう、これはこれは」


 先と違って顔が引き締まったワスプールは身体を後ろへ少しだけ引いて行く。ああいう言い方だと却って警戒されたのかな。



「いや、値を吊り上げるとかそんなじゃなく、値段そのものを知らないから言ってるんだよ」


「それでは当ギルトをご信頼されると?」


「ワスプールさんが教えてくれたじゃん、ギルトは信用こそが商売の要と。だからワスプールさんの言葉を信じて売るよ」


「ははは、これはこれは。アキラ様は根が正直なお人じゃなければ大嘘つきかと勘ぐりたくなりますよ」


「大嘘つきってあんた……」


「これは失礼致しました。いささか言葉が過ぎましたね、お許して下さい。では、当ギルトもアキラ様のご信頼に応えて、これらの商品を高値で買付けすることをお約束しましょう」


「別に市場価格の値段でいいよ、駆け引き無しで商談したいって言ったでしょう」


「ははは、アキラ様にお会いできたことが当ギルトにとっては非常に幸運なことです。さて、金額のほうですがダンジョンの武器はどれも高値で取引されておりますので、1本での買値はロングソードが金貨3枚、ショートソードは金貨1枚と銀貨50枚とさせていただきたいと思います」



 おいおい、剣が10本だけで午前中の売値よりちょっと劣るだけで、ダンジョンから出たものって、本当にお宝だったんだな。



「剣って、高いものだな」


「いいえ、一般的に店で売買されているロングソードは銀貨30枚でショートソードは銀貨15枚が相場となっております。ダンジョンの武器は10倍で取り引きされるのがギルトの習わしです。とにかくダンジョンの武器はとても頑丈で壊れにくいことがしられているのですから」


 そりゃそうか、考えてみればダンジョンのお宝は管理神様謹製だもんな、印は付いていないけど。



「魔法の袋についてですが、市場では稀にしか出現しません。私たち商人にとっても、都市を運営する都市院でも重宝されています。ダンジョンから出るということで数多くの冒険者が挑んでいるのですが、いかんせん下層のほうでしか見つかっていないとの噂で、お目にかかることはめったにありません」


「そうか」


 ワスプールはおれを見てるけどなにも言わないよ。



「そのために魔法の袋は一つだけで金貨150枚以上の値打があるとちまたでは言われておりまして、競売の場合はその倍以上となることが多いと商人ギルトの本部で学んだ記憶があります。今回の場合はいかが致しましょうか、アキラ様のご希望でこちらはお扱いしたいと考えておりますが?」


 言葉が出ない、金貨150枚ってなに? アイテムボックスにはまだ数百個が死蔵されているよ。



「うん、ギルトに売るよ。金貨150枚で買ってくれるかな」


「アキラ様、あえて申し上げますけど競売される場合は倍以上の金額を得ることができます。当ギルトとしては手数料の1割を頂ければ十分に利益を得ることができます。それでも当ギルトに販売して頂けるというのですか?」


 信じられないような表情でワスプールはしきり首を左右に振っている、先からあなたは首の体操で筋肉痛にならないように祈っておくよ。



「ああ、信用売りということにしよう。これから買い売りしてもらいたい物があるかもしれないし、今後も商人ギルトと仲良くしておきたい」


「……わかりました、アキラ様のお気持ちは十分に理解致しました。是非とも当ギルトをご利用して頂けることを望んでおります」


「ああ、お願いするよ」


「ありがとうございます。それでは魔法の袋は当ギルトが金貨250枚でお引き取り致しましょう、それでアキラ様は宜しいのでしょうか?」


「え、150枚じゃないの?」


「はい、あくまで一般的では金貨150枚以上の値打があると言われているだけで、この品は時間停止付きという珍しい機能が付いております。私どもが競売で販売する場合は買取値の倍以上の価格を競り上げることができます」


「すごい自信だね」


「私はいまでこそ商人ギルトで勤めておりますが、元々は都市間を往来する行商人でしたので、商人の端くれとしての面子がありますから」


「じゃあ、ワスプールさんにお任せする。その値段で売ることにします」


「ありがとうございます、お任せされましょう。ところで金貨250枚は大金ですから、ギルトカードをお作りすることをアキラ様に提案したいと思いますが、いかがでしょうか」



 来たー、待望のギルトカードだ。冒険者ギルトがないからあきらめていたのに、ここで入手するのか。



「ああ、作れるなら作りたい」


「はい、畏まりました。基本的に当ギルトのカードはギルト員に発行されるものでして、それ以外では都市の長や町の長と言った商人ギルトが運営するに当たって、無視しえない人物へ特別に配布することがあります」


「あれ、おれは一般人だよ」


「ええ、さき申し上げた通り、無視しえない人物に配布するということです。私個人が持つ権限は一人までですが、アキラ様は今後とも当ギルトに価値のある商品を販売して頂けることかと確信しておりますので、本日は是非お作りになって頂きましょう」


 この人、おれは多くのお宝を持っていると踏んでいるな? 商人の鼻が利いている、やるな。



「商人ギルトのカードの特典ってあるの?」


「はい、各地の商人ギルトでお使いになって頂ける上、ギルト員に供給しているサービスはすべて享受して頂けます。また、取引される商品については各地特有の名産であれば、割引して頂けることがありますので、それぞれのギルトでお問い合わせ下さい。そしてこのカードで当ギルトに貨幣を預けることができますから、どこの商人ギルトでも引き出して頂くことができます」


「それは便利だな、お金を持ち歩くのは大変だ」


「はい、商人は移動することが多いので大金を持つと何かと不便で危険です。当ギルトのカードですと商人ギルトであれば引き出すことができる上、信用度に応じることになりますが預入金の倍までは一時貸付も可能です」


「へぇー、本当に商人向けのサービスだね」


「はい。それでカードを作る際にアキラ様の血液を一滴だけ頂戴することとなります。針による多少の痛みはありますが、治癒士が控えておりますのでご心配はいりません」


 そこはテンプレだね、冒険者ギルトから商人ギルトに変わっているだけ。



「わかった。それで金貨49枚と銀貨97枚と銅貨300枚だけ現金でもらいたい、あとは全部を預かってくれていいから」


 エイジェの反応を見ているから、暗算はワスプールの前ではしない。



「畏まりました。それでは係員をお呼びいたしますので、少々お待ちになってください」



 係員たちが入ってきてカードを作ってくれた。針の傷がすぐ塞いでしまったので治癒士のおにいちゃんはびっくりしていたが釈明する気はない、こういう時は沈黙こそ一番の解決方法であることをおれは知っている。


 ワスプールは明細の紙と現金が入った皮革の袋を持ってきた。皮革の袋はそのままリュックにいれておく、おれのリュックが魔法の袋だと聡明なワスプールは説明がなくても気付いているはず。売上は金貨275枚と銀貨50枚で、現金を金貨にして50枚を替えてもらっているから、ギルト預金は金貨225枚と銀貨50枚だ。



「ところで噂話を訪ねたいだけど、(ツイン)白豹(ホワイトパンサー)のことを教えてくれないかな」


「ほう、今にときめく(ツイン)白豹(ホワイトパンサー)のことをアキラ様もご存じで」


 用事を済ませたのでワスプールとお茶をしながら雑談していると疑問に思っていたことを聞いてみることにした。



「うーん、存じてはないけど顔を見知ったくらいかな」


「そうですか。疾風も及ばぬ俊敏さ、森林のような静寂さ、火炎に劣らぬ熾烈さ、山脈がごとく不動の強さ。都市ゼノス今代最強の冒険者と謳われているのが双白豹のセイ様とレイ様です。類人族エルフの白魔(ウィッカ)(パンサー)レイ様は強大な風魔法を初め、複数の魔法操りながら瞬時に魔法を撃ち出すことで恐れられており、正確無比の弓使いとしても名高いです。獣人族兎人の白瞬(フレッシュブリーズ)(パンサー)セイ様はバスタードソードとショートソードを双剣のように自在に扱って、その斬撃を受け止められるものは現騎士団の団長殿でも困難と言われています」



 まさかの風林火山、この世界でも兵法はあったのか? 管理神様は侮れぬわ! それに二人の名前を合わせるとセイレイちゃんです、セイレイと言えば幼女様に会いたいですね、飴とチョコレートの約束はまだ果たされていない。



「当ギルトではリクエストをお二方に依頼することもありますが、どうしても依頼料のほうはお安くありませんので、重大かつ困難なリクエストじゃないと中々指名することはできません」


「へー。」、その都市ゼノス最強の冒険者は遊びでテンクスの町に遊びに来たかな」


「それは……」


 ワスプールが言いにくそうにしていたので、元々なにか知ってればよかったのおれは追及する気はまったくないのだ。



「お茶での話だよ、言えない事柄は聞くつもりはないからね」


「ありがとうございます……そうですね、テンクスの町に近頃は噂話がありましてね、ゼノス騎士団のほうで討伐し損ねた盗賊団がどこかへ消えたそうです」


「ほう、それで豹たちが狩りに出かけたと」


「あくまで噂話なので真相は存じ上げませんが、騎士団はどうやら損害が出ていたようで、それが真実ならば手練れの盗賊団がいるものです。アキラ様もお気を付けてください。勿論うわさでの話ですから、いないことを祈っておりますが」



 おーい、ワスプールよ。それはフラグというものだよ、立てないでほしい。白旗も赤旗も全部上にげないで下げていろ。


ありがとうございました。

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